今後の金融・経済の動向、経済予測に大切な生活者の視点

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経済の見通しに誰も明確な答えを見いだせない今日において、様々な指数を読み解くことで見えてくるのが市場の変化です。数字が示す事実と、アフターコロナの行方を見据えるための重要な視点について、三井住友信託銀行の営業現場で様々な事業に関与した実践経験を持つ、経営コンサルタントの桐谷太郎氏を招いた勉強会の模様から紹介します。

現実的な未来予測には数字の解析が不可欠

金融・経済動向を捉えることにおいて最も大切なことは、グラフをみないで、数字だけをみる癖をつけることです。数字以上の事実はありません。それは、グラフや作図は作成者の意図が含まれやすく、作成側に都合よく作られる場合があるからです。特に政府や国際機関が出しているグラフには、政治的意図が含まれていることが多く、そのため、数字だけで考える癖をつけることが大切となります。これは、これからの時代を捉える基本ではないかと思われます。
※桐谷氏の営業哲理「営業は科学である」

次表から、あなたは何を読み解くことが出来るでしょうか

2020/10/30 2020/12/31 2021/2/27 2021/3/16
日経平均株価 22,977.13 27,444.17 28,966.01 29,921.09
TOPIX 1579.33 1804.68 1864.49 1981.50
ドル円 TTS 105.60 104.56 107.25 110.25
JGP※(10年) 0.035 0.020 0.160 0.095
NYダウ(US$) 26,501.60 30,606.48 30,932.37 32,825.95
米国債(10年) 0.87 0.91 1.41 1.60
図表は桐谷氏作成 ※JGP=日本国債

米長期金利の動向から金融緩和政策の行方を読み解く

私はバブルがはじけた後、金融マンとして後始末をしてきた世代です。証券会社、ノンバンクを担当、1995年以降は金融危機の第一線に立ち、陣頭指揮をとってきました。そのため、数多くの企業の修羅場を見てきましたが、今回の状況はその経験値に当てはまらない、未曽有の異常事態と言えます。
上の図を読み解いていきましょう。2021年3月16日現在、日経平均株価は3万円近くをつけています。この数字が、これから下降していくのか、もしくは上昇するのか?それは、毎日世界から発信される様々な情報や数字を捉えて判断する必要があるのです。
全てがグローバルに政治経済と連動しており、さらにコロナ禍の不安定な市況において日々の情報収集は一時も気を抜けません。
例えば、先月2月26日に日経平均株価が1000円以上値下がりました。これは株式史上10番目という大きな下げ幅であり、時を同じくNYダウ平均株価の急落も過去3番目の下げ幅となったのです。原因は、米市場で長期金利が上昇したことにより、リスクある株式投資より、安全な国債で配当収益を得た方が良いという判断から、株式から債券への運用シフトが起こったためです。

金利はヨーロッパでも上昇しており、全体としても上昇傾向にあります。金利が上昇すると株価は下がるというのは経済学の基本です。そのため、日本でも、日銀が3月に長期金利の変動幅を拡大させる政策変更を行うのではないかという憶測から株価が下がりましたが、黒田総裁が否定したことで戻るなど、ちょっとしたことで動く非常に不安定な状況にある事に留意してください(米連邦準備理事会(FRB)は3月17日、ゼロ金利政策を少なくとも今後3年続ける方針を示し、市場の緩和縮小観測をひとまず退けました)。このように現在の状況は、誰もが予測できないほど不安定なのです。

日経平均株価は、ソフトバンクなどの株価が上がると跳ね上がりますが、基本的にはNYダウと連動しています。図表の2020年10月30日から現在の数字見ていきましょう。10月末は大統領選挙の前で、トランプかバイデンか分からない状況ではあり、NYダウもまだ2万6501円、TOPIXは1579ポイントでした。11月以降の株価上昇の原因は、先進国を中心にコロナワクチンへの期待が高まったことによる、景気回復への期待感であり、現在までにNYダウが約25%上昇し、それに連動して日本株も上昇しています。この数字は、日本の金融バブルの上昇率と比較しても、異常な上昇率であり慎重に注視しなければなりません。

今後の経済動向を予測するための3つの視点

米国長期金利が1.6%、配当利回りは1.5%。先述の図表でみても金利が上昇し続けています。
アメリカは金利が上昇すれば、景気はよくなるという国民性の楽観論があるため、現在のNYダウも、金融緩和下でのコロナ禍からの景気回復を先取りする形で上昇していると考えられます。

日本はどうでしょうか。ゴールデン・リセッション、つまり「低成長と高生活水準」という日本社会の特徴を、フィナンシャル・タイムス紙のエディター、ダニエル・ボグラー氏が1998年の記事で述べた言葉があります。
バブル崩壊後、「不況」と言われている割に日本の人々の生活水準は高く、欧米諸国に比べれば失業率も犯罪発生率も低い。しかし、企業活動や生産活動の側からみると不況であることはまぎれもない事実であり、GDPもここ10年増えないまま企業収益は低迷を続け、企業倒産やリストラによる失業者など、苦境に陥る人も増加しています。

このゴールデン・リセッションのような状況が今後も延々と続くのでしょうか。それを推測するには、3つの点から検証することが大切です。

コロナ禍が収束したときの姿について

1つ目は、コロナ禍は必ず終息するという事実です。問題は、いかに早く終息できるかであり、いち早く抜け出した国が為替や経済指標に大きな影響を与えるでしょう。
日本はコロナワクチンに関しては、買い負けに近い状態になっています。幸いなことに、日本は欧米のように感染者の数は多くありませんが、かといって、中国・台湾のように強制力をもってコントロールをしている訳でもありません。何となくコロナと共生しているという、日本特有な曖昧な状況であるため、終焉が捉えづらいのです。そのため政府は、終焉宣言に向けた準備として、終息の判断数値を明確に示す必要があります。
日本はかつて予防接種で健康被害をおこした経験からワクチン恐怖症であるため、ワクチン接種率が高まることはないでしょう。そのため、ワクチン接種数で世界に安全性を発信することもできず、何となく他の国に合わせて終わるという状態になるのではないでしょうか。
しかし、投資は数字で判断するため、終息宣言を判断させる何らかの明確な数字の提示は必要であり、その下地作りこそ、今すべき事だと考えます。

世界的なカネ余り現象

2つ目の検証点は、世界的にカネ余りの状況であるということです。アメリカで190憶ドル、日本でも12兆円という大型経済対策が世界規模で行われ、それが市場に向かっています。
日本はマイナス金利にも関わらず貯蓄率が上昇しており、貯蓄率の低いアメリカでさえ上昇しているのです。つまり、潜在的需要が拡大している金余り状況で、世界中の多くの消費者が消費を我慢している状況だといえます。
旅行など良い例で、沖縄の不動産は絶対にあがるということで、誰も売らないし、業者ものんびり構えています。つまり、潜在需要が膨らんでいるのです。

ワクチンの普及が順次進んでいる事からも、景気正常化は目前であり、今後設備投資も行われるでしょう。ここでの留意点は、確かに、コロナ禍により企業経費は7兆円が消滅するなど、陸運観光外食生活関連サービスは売り上げが大幅に落ちていますが、逆に売り上げが伸びている分野もあるということです。昨年末でタンス預金が100兆円を突破したということから、日本では家計や企業にマネーは滞留している状態です。

景気が悪い時には、景気が良い人は黙っている。

という言葉があります。

果たして景気が本当に悪いのでしょうか。景気が良い人は沈黙し、消費を我慢しているため、コロナの収束と共に一気に景気は拡大すると言われています。ただし日本の場合は、我慢を美徳とする文化背景の中で高齢社会が加速し続けるのですから、今後どう動くかは現場を観察して判断していくしかありません。リモートにばかり偏らず、様々な人と会い、現場を肌で感じる必要があるのではないでしょうか。

これから起こると予測されている設備投資・景気回復の流れは、アベノミクスの目標でした。皮肉なことに、コロナの影響による未曾有の世界的な財政投資により、今実現しそうな流れなのです。

給付金などの補助金による消費拡大を当てにして設備投資

消費が拡大し、設備投資が増加すると、金利が上昇

金利上昇により、株価下落

これが、近未来構図です。

消費マインドを変えるお金の使い方の提案を

ゴールデン・リセッション脱却の3つ目のポイントは、国民の考え方が変化するかどうかです。

日本人はとにかくお金の使い方が上手くありません。楽しく使っている人が少ないように感じます。例えば、外食産業は大変な状況下で一日6万の補助金が出ていますが、補助金は会計上「収益」扱いになります。夫婦だけでやっているような小さな店舗の場合、貯め込んでしまうと当然所得税・法人税の課税対象になり、経費が発生しない限り来年度には課税されてしまうのです。

また、平均年齢75歳、団塊世代の資産の行く末も問題です。彼らが楽しくお金を使えるサービスを提供しない限り、この国の資産は動かないでしょう。しかし、コロナ禍の影響で彼らのマインドが大きく萎縮してしまっています。家から出ない高齢者がこのままだと、お金を楽しく使う前に人生が終わってしまい、タンス預金がそのままに凍結してしまう恐れもあります。“いつの日かを楽しくする”ために貯めこんでしまうと、相続税などの課税対象になることは明らかです。
生産性向上をいかにすべきか、いかに楽しい世の中をつくりだすのか。今回の財政出動を好機と捉え、消費者マインドを活性化させることへの事業再生の大切さを感じます。

資産分散によるインフレへの備えのススメ

世界中の政府がコロナ禍で債務超過に陥っているため、どこかでインフレを引き起こす可能性があります。どこかのマーケットが荒れた時、世界同時インフレが起きるでしょう。また、2010年以降、中国は外貨準備調達の一環として、日本の国債を大量に購入していることも注視する必要があります。
インフレの可能性は、地政学をはじめとしたさまざまな情報が複雑に絡み合った中で発生するため、難しい未来予測ですが、できる事の1つに資産分散によるリスクヘッジがあります。
米中関係の行く末は、不透明ではあるものの中国が強くなるのではないかとの予測もあります。確かにアメリカは多くの問題を抱えてはいますが、若者が増加し続け広い国土とエネルギーをもっているのは強みでしょう。
ドルの基軸通貨も危ういと言われていますが、今後10年は変化しないと思われるため、ドルへの資産分散は選択肢の1つになります。ドル以外の外貨や、コモディティなども含めて、資産分散の可能性を探ってみるのも良いでしょう。

出典:「金融・経済の動向と今後の示唆」Thunderbird  東洋哲理コンサルタント
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

桐谷太郎
株式会社ビジョンマネジメント代表取締役

投稿者プロフィール
元三井住友信託銀行常務執行役員
中小企業診断士(1996年登録)
三井住友信託銀行の営業現場で様々な事業に関与、長年にわたる実践経験から、「営業は科学である、最後は白兵戦」であるという営業哲学を展開。 バブル崩壊後、金融業界の荒波の中、支店長、本部部長、役員支店長、本部役員として活躍。その間、2度に企業合併を経験、経済界にて幅広い人脈を構築する。
2014年常務執行役員を退任、顧問に就任。
中小企業診断士・社会保険労務士・CFPとして独立、現在経営コンサルティング会社を設立、後進の育成に尽力。

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