【書評】ノーノーマル時代の最強リーダー学~10の力で組織と未来を導け

この記事を読むのにかかる時間: 6

VUCA時代の今、かつての“正解のあるリーダーシップ”はもはや通用しません。組織人事コンサルタント・組織変革ファシリテーターとして活躍する山本紳也氏の著書『ノーノーマル時代を生き抜く リーダーシップの教科書』は、変化と不確実性に満ちた現代で信頼を集め、人を動かす“10の力”を明快に提示します。カギとなるのは、肩書きや過去の成功よりも「価値観」「ビジョン」「オーセンティック(自分らしい)な姿勢」。経営層やマネージャーにこそ読んでほしい、新時代のリーダー論の決定版を、企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大さんが書評してくださいます。

ノーノーマル時代を生き抜く リーダーシップの教科書
山本紳也(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))

本書の要約

「ノーノーマル時代」とは、従来の常識や成功パターンが通用しなくなった、変化と不確実性が加速する現代を表す言葉です。この時代に求められるのは、過去のリーダー像とは異なり、「信頼性」や「価値観」、そして「ビジョン」を持つオーセンティックなリーダー像です。そんなリーダーに必要な10のコンピテンシー(好奇心、多様性の受容 、謙虚さなど)を提示します。

なぜ今、“ノーノーマル”なのか?

先の見えないVUCAの時代、常識が存在しないノーノーマル時代、リーダーの仕事は独りよがりで目標を定め、強いカで強引に人を束ねて率いるものでは通用しません。将来の展望が描けない、正解が存在しない、明日何が起こるかわからない時代、それでもついて行こう、一緒に働こうと思えるリーダーが求められています。

私たちは今、「ノーノーマル時代」=これまでの常識がまったく通用しなくなった新しい時代を生きています。
「ノーノーマル」とは、当たり前とされていた価値観や成功パターンが崩れ去り、変化のスピードと不確実性がこれまで以上に増している現代を象徴する言葉です。

このような状況下では、従来のようなマニュアル的なリーダーシップでは通用しづらくなります。
コロナ禍をきっかけにテレワークが急速に普及し、AI技術も日々進化する中で、働き方や暮らし方は大きく変わりました。
現代のリーダーには、今までの常識とは異なる全く新しい資質が求められています。

この「ノーノーマル時代」における理想のリーダー像を提唱しているのが、本書の著者、組織人事コンサルタント・組織変革ファシリテーターとして活躍する株式会社HRファーブラ代表取締役の山本紳也氏です。
山本氏は、自分らしさを偽ることなく表現し、信頼をベースに人と関わる「オーセンティック・リーダーシップ」の重要性を強調します。

以前は、実績や成功体験がリーダーの条件とされてきましたが、変化が激しく不確実な今、過去の成功が未来の成果を約束するとは限りません。
むしろ、リーダーとしての「人柄」や「信頼性」、そしてその人が大切にしている「価値観」や「パーパス」が、これまで以上に重視される時代となっています。

変化の時代に通用する「10のコンピテンシー」

  • 山本氏は、この時代を生き抜くために必要な「10のコンピテンシー(能力)」を紹介しています。
    ・好奇心
    ・多様性の受容
    ・謙虚さ
    ・傾聴力
    ・倫理観
    ・公平性
    ・透明性
    ・順応性
    ・俊敏性
    ・ビジョナリーであること

共感と信頼を生む“オーセンティック・リーダー”とは

その中でも、著者が最も重要な要素として挙げているのが「好奇心」です。
未知のことに関心を持ち、積極的に学ぼうとする姿勢が、新しい情報との出会いを生み出します。
とくにAIやSNSなど新しいテクノロジーに敏感なリーダーは、若手世代とのコミュニケーションでも優位に立つことができます。
好奇心は「楽しみの入り口であり、成長の入り口」という山本氏の言葉が響きました。

「多様性の受容」も、現代のリーダーに欠かせない重要なスキルです。
異なる意見や価値観を単に論理的に評価するのではなく、「人はそれぞれ異なる存在である」という前提を自然に受け入れる姿勢がリーダーには求められます。
DE&I(多様性・公平性・包括性)の推進や、世代間の違いを尊重する姿勢は、これからの組織運営において不可欠な考え方です。
こうした意識が、多様な視点やアイデアを受け入れる柔軟性を生み出し、創造的な組織文化を育む土台となります。

さらに、「謙虚さ」も、現代のリーダーにとって欠かせない重要な要素です。
たとえどれほど地位が高くても、自分の限界を認識し、常に学び続けようとする姿勢を持つリーダーは、部下やメンバーからの信頼を得やすくなります。

相手の話に真摯に耳を傾ける「傾聴力」も同様に重要であり、単に言葉を聞くだけでなく、その背景にある意図や感情を丁寧に読み取る姿勢が求められます。
こうした姿勢が、信頼関係の構築や深い気づきへとつながっていくのです。

強さではなく“謙虚さ”が人を動かす時代に

組織文化論の第一人者であるエドガー・H・シャインは、以下のように述べています。

関係性こそがすべてである。謙虚なリーダーシップは、信頼と心理的安全性を築くことから始まる。

シャインは、謙虚さとは弱さではなく、他者の力を引き出し、共に成果を創るための強さであると強調しています。
このような対話型のリーダーシップこそ、変化の激しい時代において信頼と協働を生み出す原動力となるのです。

今の時代のリーダーには「倫理観」も欠かせません。
目の前の利益にとらわれるのではなく、長期的な視点に立った「正しさ」を選び取る力が、ブレない判断軸になります。

そして「公平性」とは、単に平等であることよりも、多様な人が集まる職場で、受け手であるメンバーがフェアに扱われていると感じられること
それができなければ、組織はすぐにガタガタになります。

また、「透明性」も、現代のリーダーに求められる重要な資質の1つです。
透明性とは、単に会社の情報を開示するだけでなく、リーダー自身の考え方や姿勢を率直に示すことです。
このリーダーシップこそが、組織内に安心と信頼を生み出す力へと醸成されていくのです。

情報を積極的に共有することで、社員一人ひとりが自分の役割や会社の方向性を理解し、主体的に動けるようになります。
具体的には、経営層のメールやチャット、社長のスケジュール、さらには企業の財務状況までも社員にオープンにすることで、経営方針への理解が深まり、信頼関係の強化につながります。

これは、リーダーシップの専門家ケン・ブランチャードも指摘している通りです。
彼は、「情報の透明な共有が従業員に安心感と方向性を与え、やるべきことが明確になる」と説いています。
リーダーの「見せる勇気」が、組織全体の活性化に直結するのです。

「順応性」は、環境や状況の変化に対して柔軟に対応する力を意味します。
変化が日常となった今、臨機応変に動けるかどうかはリーダーとしての大きな資質です。
また、「俊敏性」、すなわち迅速な判断と行動のスピードも、ビジネスの競争力に直結します。
正い権限移譲が図れれば、意思決定のスピードも早くなります。

「ビジョン」と「パーパス」が組織を動かす鍵

先が見えないVUCA時代からこそ、この人についていきたいと思えるビジョンを持っていることがリーダーには求められます。

変化が激しく、先を見通すことが難しい現代においては、すべてを把握し完璧に管理するリーダーよりも、「明確なビジョンを持ち、それを伝えることができるリーダー」が強く求められています。
かつてのように、リーダーがすべての答えを知っていることを前提とする時代は終わりを迎え、今やリーダーの役割自体が変化しています。

その中で、リーダーが明確なビジョンやパーパスを持ち、それを具体的な言葉で伝えることは極めて重要です。
ビジョンは、「これからどこへ向かうのか」「何を実現しようとしているのか」といった未来の方向性を描く指針です。
一方、パーパスとは、組織や個人が「なぜ存在するのか」「何のために活動するのか」という存在意義や根本的な目的を示すものです。
この2つを明確に区別しながら、言語化し共有することが、組織の一体感や共感を育てる基盤となります。

説得力のあるビジョンは、変化への柔軟な対応を可能にし、組織の方向性をぶらさずに保つ力を持ちます。
リーダーがそのビジョンを繰り返し語ることで、言動に一貫性が生まれ、メンバーは自発的に行動し、組織への貢献意欲が高まります。

特に起業家にとっては、自社の存在意義やパーパスを明確にすることが、従業員やパートナー、投資家の理解・信頼を得るために不可欠です。
いま求められているのは、人々を巻き込み、共感と信頼で動かすリーダーシップ。
そして、その原動力が明確なパーパスとビジョンなのです。

機能や価格といった要素よりも、「なぜこの事業をやるのか」「どんな未来を創ろうとしているのか」というストーリーこそが、人の心を動かす時代に入っています。
明確なビジョンとパーパスを持つ組織では、信頼関係が育まれ、多様性が尊重され、心理的安全性が高まります。
その結果、自由に意見を出し合える環境が整い、創造性や生産性が向上し、笑顔と成長が共存する職場が実現します。

リーダーは、ビジョンを語るだけでなく、それを実現するための具体的なゴールやステップをチームと共有し、日々の行動につなげていく必要があります。
その過程でメンバーが自分の役割を理解し、組織への貢献を実感できるように、環境を整えることが重要になるでしょう。

経営者・マネージャーの新しい教科書

これからのリーダーに求められるのは、答えを与えることではなく、「問いを共有すること」です。
未来が不確実だからこそ、何を信じ、どこへ向かおうとしているのかを常に自身に問わなければなりません。
そして、その「軸」となるのが、まさにビジョンであり、パーパスであり、組織を導く力となります。

仲間を巻き込み、共に未来を創っていく。
それこそがノーノーマル時代のリーダーシップであり、起業家にとっても欠かせない思考法です。

この時代に求められるのは、すべてを知る完璧なリーダーではありません。
不確実な状況の中で「人としてどうあるべきか」を問い続け、自分らしく誠実に、共感と信頼をもって人とつながる。
そんなオーセンティックなリーダーこそが、未来を力強く切り拓いていくのです。

自身の個人的なビジョンと、組織のビジョンとの整合性を意識しながら活き活きと働くリーダーは、周囲に良い影響を与えるロールモデルとなります。
そんなリーダーのもとでこそ、人は「一緒に働きたい」と思えるのです。

本書は、リーダーシップ論の最適解を、より体系的に、そしてわかりやすくまとめた1冊です。
変化の時代にフィットした新しいリーダーシップに悩む経営者やマネージャーに、ぜひ手に取っていただきたい内容です。

出典:ノーノーマル時代を生き抜く リーダーシップの教科書 (山本紳也)の書評
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。


著者:徳本昌大、松村太郎(2024年8月6日発売)
世界で初めて時価総額3兆ドル企業となり、次々と革新的な製品を世に送り出すアップル。世界中の人々の生活にイノベーションを起こし、絶えず高成長・高収益を継続している魅力的な投資先でもあります。アップルは、ビジネスをどのようにして考え、実行し、成果を上げているのか。アップルのように考え、行動するには、どうすればよいのか。17のビジネスフレームワークを用いて、アップルを読み解きその成功の要因を明かします!

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

この著者の最新の記事

関連記事

ピックアップ記事

  1. 岩手県紫波郡紫波町で公民連携事業開発コンサルティング業務を手がける株式会社オガール。代表の岡崎正信氏…
  2. 社長がしくじった経験から一定の法則を導き出し、それに学ぶことで成功につなげていこう!との趣旨で開催さ…
  3. 「PR」と聞くと、企業がテレビやラジオなどのメディアで流すイメージCMや、商品やイベントなどを情報発…

編集部おすすめ記事

年別アーカイブ

ページ上部へ戻る