知的財産をサポート!事業投資、M&Aを成功に導く弁理士の活用法【前編】
- 2025/6/13
- M&A

現代の経済成長と社会の発展に不可欠な発明や著作物、商標、意匠などの知的財産は、事業投資やM&Aの際にも重要な価値を持つものです。私たちの知的活動から生み出され権利として保護される知的財産がどのような社会的意義を持つのか、知的財産の専門家である、くじら綜合知財事務所所長で弁理士の緒方昭典氏が、前後編に分けて、わかりやすく解説してくださいます。
前編は、知的財産の具体的内容とその周辺業務を担う弁理士の役割がよく理解できる内容です。
目次
知的財産の基本概念
皆さんは、知的財産という言葉を耳にしたことはありますか?
知的財産とは、企業が創り出す発明など、目には見えないけれど経済的な価値を持つ無形資産のことです。
現代のビジネス環境において、企業の成功を左右する重要な要素として注目を集めています。
有形資産である土地や建物、設備などとは異なり、知的財産は人間の創造的な活動から生まれる成果物であり、価値はあるけれども見えにくい特有の性質により、適切に保護・活用することが難しいものでもあります。
身近な知的財産の例
知的財産と聞いて思い浮かぶのは、「発明」という方も多いのではないでしょうか。
「発明」という言葉から、自動車の先進的なエンジン技術やスマートフォンの複雑な半導体技術など、高度で専門的な技術を想像されるかもしれません。
しかし、実際に私たちの身の回りには数多くの実用的な発明が存在しており、それらが日常生活を豊かにしています。
例えば、スーパーマーケットでよく見かける「切り餅」には、側面に切り込み(溝)が入っているものがあります。
この溝は、実は綿密に計算された設計に基づいたもので、焼いたお餅が膨化しても外に噴き出しにくくなる効果を発揮し、お餅をきれいに膨らませ、調理時の安全性も向上させます。
このように、私たちにとって身近な商品にも、非常にシンプルな工夫でありながら確実に問題を解決する立派な発明が隠されているのです。
これらの発明は、消費者の利便性や安全性を向上させるだけでなく、製造コストの削減や環境負荷の軽減にも貢献している場合が多く、社会全体にとって価値のある創造物となっています。
「発明」以外の多様な知的財産
そして、私達の身の周りには、「発明」の他にも様々な知的財産が存在しています。
毎日利用するコンビニエンスストアの店名、愛用している化粧品ブランドのロゴマークなどの商標も知的財産です。
これらの商標は、消費者が商品やサービスを識別するための重要な手がかりとなり、業務上の信用を蓄積させるものとして機能します。
例えば、有名ブランドのロゴを見ただけで、その企業の品質や信頼性を連想することができるのは、商標が自分の商品やサービスであることを識別する識別機能が働いている状態で使用された結果、商品やサービスについての信用が蓄積されて、商品やサービスが一定の品質水準を維持していることを保証する機能を有していることの表れです。
また、洗練されたスマートフォンのデザインや自動車のボディデザイン、魅力的な化粧品のパッケージデザインなどの商品の形状や包装の意匠(デザイン)も、知的財産に含まれます。
皆さんも同じ性能であるなら、気に入ったデザインの製品を選ぶのではないでしょうか。
このように意匠は、消費者の購買意欲に直接的な影響を与える要素です。
さらに、企業が長年にわたって培ってきた技術的なノウハウや営業秘密なども、知的財産に含まれます。
知的財産の企業競争力への貢献
知的財産は、企業の競争力を支える重要な要素として機能し、他者からの差別化を図る重要な手段となります。
その効果として、例えば、以下の3つが挙げられます。
・消費者の信頼を獲得することを可能にする。
独自の技術や優れたデザインを持つ商品は、消費者に品質の高さや企業の技術力をアピールすることができ、一貫したブランドイメージが構築されることで消費者の記憶に残りやすく、購買の際の選択基準にもなります。
・価格競争から脱却することを可能にする。
独自の技術や特徴的なデザインを持つ商品は、単純な価格比較の対象になりにくく、付加価値に基づいた適正な価格設定ができるため、利益率の向上と持続可能な事業運営を実現させます。
・長期的な顧客の獲得を可能にする。
優れた技術や魅力的なデザイン、信頼できるブランドは、顧客のリピート購入を促進し、ロイヤルカスタマーの育成につながります。
知的財産「権」の取得による知的財産の保護
この発明、商標、意匠については、特許庁に出願して所定の条件を満たすと認められれば、特許権、商標権、意匠権を取得することができます。
これらの「知的財産権」を取得することで、上述した知的財産の企業の競争力を支える機能を維持しやすくなります。
- 特許権:発明を、他者が使用するのを防ぐ権利です。
特許権は、出願から20年間の保護期間が設定されています。 - 商標権:企業の名前やロゴ、商品名などを、他者が使用するのを防ぐ権利です。
商標権は、更新手続きを行うことで半永久的に存続させることができ、長期的なブランド戦略の基盤となるものです。 - 意匠権:商品の形状や包装のデザインなどを、他者が使用するのを防ぐ権利です。
意匠権は出願から25年間の保護期間が設定されています。
▶次のページでは、知的財産の専門家である弁理士の立場から、弁理士が担う役割やビジネスにどう生かされるのかについて解説してくださいます。