シリコンバレー式開発を日本へ。ソフトウェアから日本企業を強くする
- 2026/10/11
- インタビュー

AIの急速な進化によって、企業に求められるシステム開発のあり方も大きく変わろうとしています。hackjpnを率いる戸村光氏が注力するのは、顧客の現場に入り、課題の発見から設計、AIを活用した実装、導入後の成果まで一気通貫で支援するFDE(Forward Deployed Engineer)です。目指すのは単なるシステムの納品ではなく、生産性や利益率、ひいては企業価値そのものを高めること。シリコンバレーで培った「まず作り、試し、改善する」という開発思想を日本企業に持ち込み、日本が誇る産業の現場力をソフトウェアとして世界へ展開する挑戦です。戸村氏が描く、AI時代の企業支援と日本経済の未来を語っていただきます。
目次
「納品して終わり」からの脱却。企業の現場から始まるFDEという支援
Z-EN――現在、hackjpnではどのような企業支援に力を入れているのでしょうか。
戸村光氏(以下、戸村氏)――現在、僕たちが最も力を入れているのがFDE、Forward Deployed Engineerという形での企業支援です。
一般的な受託開発のように、「このシステムを作ってください」と言われたものをそのまま作るのではありません。
まず顧客の現場に入り、経営者や現場の方と話しながら、本当の課題がどこにあるのかを見つける。
そこから解決策を設計し、AIやソフトウェアを使って実装し、実際に業務が変わるところまで一気通貫で支援します。
コンサルティング、営業、開発を分断せず、課題発見から実装までを一つのチームで行う。
僕たちは、これがこれからの企業システム開発の形だと考えています。
半年、一年かけて作る時代から、「まず作る」開発へ
――なぜ今、日本企業にFDEのような開発スタイルが必要だと考えているのでしょうか。
戸村氏――日本企業の大きな課題の一つが、システム開発の速度だと思っています。
日本の大規模SIer開発では、要件定義、基本設計、詳細設計、開発、テストと、工程を順番に進めるウォーターフォール型の開発が今も多く使われています。
もちろん、金融や交通など、絶対に止められないシステムでは慎重な開発が必要です。
ただ、あらゆるシステムを半年、一年かけて作る必要があるのかというと、僕は違うと思っています。
AIの進化は数カ月単位で起きています。
一年かけて仕様書を作り、完成した頃には市場環境が変わっている。
この開発速度では、世界のテクノロジー企業には勝てません。
まず作る。使ってもらう。問題を見つける。すぐ直す。
シリコンバレーでは当たり前に行われてきた、このアジャイルな開発文化を日本企業にも持ち込みたいと考えています。

――実際には、どのようなプロジェクトに取り組んでいるのでしょうか。
戸村氏――すでに国内外で、社会インフラに近いプロジェクトに取り組んでいます。
海外ではインドネシアの鉄道関連システム、日本では航空会社に関わる基幹システムなど、非常に重要度の高い領域のシステム刷新にも携わっています。
また、国内では上場企業がこれまで大手SIerに依頼して構築してきたシステムを、AI時代を前提とした構成へリプレイスする案件も進めています。
Salesforceをはじめとする既存のSaaSについても、「有名なサービスだから導入する」という考え方ではなく、本当にその企業にとって最適なのかをゼロから見直します。
必要であれば、自社に最適化されたシステムとして作り直す。
僕たちにとって重要なのは、システムを納品したかどうかではなく、導入後に顧客企業の生産性や利益率がどう変わったかです。
日本企業が持つ現場力を、AIとソフトウェアで企業価値に変える
――そこまで企業のシステム開発にこだわる背景には、どのような問題意識がありますか。
戸村氏――世界の企業価値を見ると、非常に分かりやすいと思います。
日本には約4,000社の上場企業があります。
一方で、NVIDIA、Apple、Alphabet、Meta、Broadcomといったシリコンバレーを代表する巨大テクノロジー企業は、数社だけで、日本の上場企業全体に匹敵、あるいはそれを上回る規模の企業価値を生み出すまでになっています。
この差は、単なる株価の差ではないと思っています。
この30年間で、企業価値の源泉が大きくソフトウェア、データ、AIへ移ったということです。
日本には世界トップレベルの製造業があります。
鉄道も航空も物流も金融も、非常に高い品質を持っています。
にもかかわらず、その産業を裏側で動かすCRM、ERP、クラウド、データ基盤は、海外製のソフトウェアへの依存度が非常に高い。
ここに、日本がもう一度成長する余地があると思っています。

「買う側」から「作る側」へ。日本企業のソフトウェア戦略を再考
――海外製ソフトウェアへの依存を、どのように変えていきたいと考えていますか。
戸村氏――海外製ソフトウェアを使うこと自体が悪いとは思っていません。
優れたサービスであれば、当然使うべきです。
ただ、「業務システムは海外製SaaSを導入するもの」という前提になってしまうのは危険だと思っています。
日本企業には、日本企業特有の業務や商習慣があります。
そこに海外製の汎用ソフトウェアを無理に合わせ続けるより、AIを使って自社に最適化したソフトウェアを作った方が、安く、速く、高い生産性を実現できるケースがこれから増えていきます。
これまで数億円、数十人規模で作っていたものを、AIを活用した少人数のチームで作れる時代になりました。
だからこそ今、日本企業は「ソフトウェアを買う側」だけではなく、「自分たちで作る側」に戻るべきだと考えています。
開発スピードを上げ、企業価値向上に貢献する
――hackjpnが目指しているのは、受託開発会社とは少し違うのでしょうか。
戸村氏――かなり違います。
僕たちの目的は、開発費をもらってシステムを納品することではありません。
顧客企業の企業価値を上げることです。
例えば、100人で行っていた業務をAIによって50人でできるようにする。
あるいは、営業担当者が一日に処理できる案件数を2倍にする。
経営者がリアルタイムで数字を把握できるようにする。
そうすると、売上だけでなく営業利益率や一人当たりの生産性が改善します。
上場企業であれば、最終的には企業価値の向上にもつながります。
ソフトウェア会社も、「何人月働いたか」ではなく、「顧客企業にどれだけ経済価値を生み出したか」で評価されるべきだと思っています。

――シリコンバレーでの経験は、現在の開発思想にどのような影響を与えていますか。
戸村氏――シリコンバレーで学んだ一番大きなことは、技術そのものよりも「速度に対する感覚」だと思います。
向こうでは、完璧な企画書を作ることより、まずプロダクトを作ってユーザーに触ってもらうことを重視します。
そして、反応が悪ければすぐ直す。
失敗を避けるより、失敗から学ぶ速度を上げる。
この考え方が、スタートアップだけでなく大企業にもあります。
日本では、失敗しないために会議を増やし、確認を増やし、結果として市場に出るまでが遅くなることがあります。
AI時代は、この差がさらに大きくなると思います。
だから僕たちは、シリコンバレー式の開発スピードを、日本の品質の高さと組み合わせたいと考えています。

次世代のFDEを育て、日本発のソフトウェアを世界へ
――そうした中で、若い世代の教育や人材育成をどう考えていますか。
戸村氏――ここで教育が非常に重要になります。
これから必要になるのは、単にプログラムを書ける人ではありません。
顧客と話し、経営課題を理解し、何を作るべきかを考え、AIを使って実装し、成果が出るところまで責任を持てる人です。
つまり、次世代のFDEです。
僕たちは学生にも、座学だけではなく実際の企業課題を渡したいと思っています。
企業の経営者と話し、現場を見て、AIを使ってプロトタイプを作り、企業に提案する。
可能なら実際に導入して、成果まで見る。
それくらい実践的な教育にしたいです。
また、若いうちにシリコンバレーやアジアの現場を見ることにも大きな価値があると思っています。
「世界では同世代がここまでやっている」と知るだけでも、自分の基準は大きく変わります。
――日本経済全体に対して、ソフトウェア企業としてどのような役割を果たしたいですか。
戸村氏――日本は、この20年、30年で世界の中で相対的な競争力を落としてきました。
ただ、僕は日本の産業そのものが弱くなったとは思っていません。
製造、交通、物流、金融、医療など、日本の現場には今でも世界最高水準のノウハウがあります。
問題は、そのノウハウをソフトウェアに変換して、世界へ展開する企業が十分に生まれてこなかったことだと思っています。
これからやるべきなのは、日本の産業そのものをデジタル化するだけではありません。
日本企業が持っている業務ノウハウをソフトウェア化し、それを海外に輸出することです。
海外のソフトウェアを輸入するだけの国から、日本発のソフトウェアを世界に売る国へ変える。
それができれば、日本経済にはまだ大きな成長余地があると思っています。
――最後に、これからの10代・20代に伝えたいことはありますか。
戸村氏――「今ある職業の中から、自分の将来を選ばなくていい」ということです。
AIによって、10年後の仕事は大きく変わります。
今存在していない仕事や会社、産業もたくさん生まれると思います。
だから、「どの会社に入れば安泰か」ではなく、「自分は何を解決できる人間になりたいか」を考えてほしいです。
AIがある今、年齢は以前ほど大きなハンディではありません。
20歳でも大企業の課題を解決できます。
10代でも世界中のユーザーが使うサービスを作れます。
重要なのは、完璧になってから始めることではありません。
まず作る。試す。失敗する。修正する。
日本企業にも、若い世代にも、この文化がもっと必要だと思っています。
シリコンバレー式の開発を日本に持ち込み、日本の産業を底上げする。
そして、そのソフトウェアを作る次の世代を育てる。
それが、僕たちがこれから実現したいことです。














