「健康社会インフラ」を目指してー生体データで変える現場の安全と働き方

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株式会社enstem代表取締役・山本寛大氏が取り組むのは、生体データを活用したノンデスクワーカー向けの業界特化型サービスです。 スマートウォッチなどから得られる心拍や活動量などのデータをもとに、ドライバーの眠気や体調変化、現場作業員の作業負荷など、従来は把握しにくかったリスクを可視化。安全対策にとどまらず、人手不足という現場産業の根本課題に向き合い、働く人がより長く、より安全に力を発揮できる環境づくりを目指しています。Googleやシリコンバレーでの経験を起点に、「ヒトのまだ見ぬ可能性を呼び起こし、すべての人に最高の生き方を」とのビジョンを掲げる山本氏にお話を伺いました。

生体データから、現場で働く人の「見えないリスク」を可視化

Z-EN――現在、enstemではどのような事業を展開されているのでしょうか。

山本寛大氏(以下、山本氏)――生体データを活用した、ノンデスクワーカー向けの業界特化型サービスを提供しています。
ドライバー向けに特化したサービス「Nobi for Driver」と、作業員向けのサービス「MAMORINU」があります。

「Nobi for Driver」は、スマートウォッチ等から取得されるドライバーの生体情報をもとに、運転前後の健康状態や、運転中の眠気の兆候‧心拍の異常などを可視化し安全を⽀援するサービスです。

資料提供:株式会社enstem

「MAMORINU」は、製造業や倉庫業、保守・保全業務などの現場作業員向けに、作業記録・報告、作業リスクの可視化等の機能を「Nobi for Driver」に追加したサービスで、健康・安全管理に加え業務改善を支援します。

資料提供:株式会社enstem

従来からさまざまな安全対策が進められていますが、体調変化などの健康起因リスクへの対応も重要な課題となっています。
そこで、心拍などの生体データを継続的に取得し、普段とは違う状態や兆候を捉えます。
例えば、ドライバーの眠気の兆候を捉えてアラートで知らせ、休憩や管理者の声がけにつなげることで、事故リスクの低減を支援します。

「人の可能性を最大化する」原点はシリコンバレーとGoogleでの経験

――御社が提供する価値について、どのように捉えていますか。

山本氏――人の可能性を最大化することと、現場の課題を解決することだと思っています。
人間自身では気づきにくい健康や安全に関するリスクを可視化することで、その人がより自分に合った状態、環境で働けるようにしていきたいと考えています。

私はシリコンバレーに住んでいた時期があり、50カ国の友人がいるような環境で、人によってパフォーマンスが違うことには、価値観や適切な配置など、さまざまな要因があると感じていました。
身体にはその人の傾向が表れます。
そうした、目に見えないものを可視化していきたいという思いがあります。

Googleでの経験から気づいた、まだデータ化されていない「現場」

――起業に至るまでには、どのようなご経験があったのでしょうか。

山本氏――シリコンバレーに住んでいたことや、Googleで働いた経験は大きいです。
Googleではオンライン上のデータを整理することがミッションの一つでした。
まだ十分に取れていないデータは何かと考えたときに、オフラインでの行動ログがあると気づき、そこから「現場」に行き着きました。

もともとは30歳までに起業したいと考えていましたが、27~28歳くらいのときに、先輩の会社経営者から「お前に頼みたい仕事がある」と言われたことがきっかけで、予定より早く起業しました。
最初は広告運用の手伝いから始まり、そこから会社という「箱」をつくっていきました。

2019年の創業時から、生体データを事業の核にしています。
最初は工場設備の故障をデータの変化から検知することを考えていたのですが、考えを深めていくと、人間の身体も非常に密接につながっていると気づきました。

データの変化を、体調への気づきや安全な行動につなげる

――実際に、データの変化が体調への気づきや受診につながった事例はありますか。

山本氏――例えば、乗車前のチェックで普段と異なる状態が数日続き、医療機関を受診したところ、治療が必要な病気が判明した事例があります。※1

※1 本サービスは医療機器ではなく、疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません。

――「Nobi for Driver」はどのように広がっているのでしょうか。

山本氏――2022年6月にリリースし、リリースから約2年半で累計300社への導入を達成しました。

健康状態や運転状況を可視化することで、自身の状態や運転傾向を客観的に把握するきっかけとなると同時に、管理者がリアルタイムに状態を把握したり、必要に応じて声かけや休憩促進などのアクションにつなげられたりする可能性も、導入事例によって確認されています。※2

「Nobi for Driver」は、令和8年度の『過労運転防止選定機器』に、令和5年度から4年連続で選定されています。

※2 参考:https://en-stem.co.jp/news/palvfsa328j4

紹介と信頼を重視する現場産業で、事業を広げる仕組みを構築

――営業面では、どのような転機がありましたか。

山本氏――最初は業界のことをよく分かっていなかったので、飛び込みで電話をしていましたが、なかなかうまくいきませんでした。

パートナー経由だと成約につながる割合が約50%なのに対して、コールドコールではわずか約4%。
「友達リファラル」では、30~40社の参加を想定すると、計算上は約300件のアポイント創出が見込めます。
現時点では試算であり、実現に向けて取り組んでいます。

現場産業では、長年の信頼関係や紹介が重視されるため、誰から、どのような経路でご紹介いただくかが非常に大切です。

人手不足を背景に、安全と健康を経営課題として捉える

――サービスを必要とする企業が抱える、根本的な経営課題は何でしょうか。

山本氏――やはり人手不足が根本課題なのだろうと思っています。
多種多様な人に働いていただく中で相互理解をすることや、高齢の方にもできる限り長く働いていただくことが必要です。
現場を回す十分な人材を確保する意味でも、働く人の安全と健康を持続できる環境づくりが重要になってきます。

損害保険系の会社さんとは相性がいいですね。
事故率に関わるところは予算を組みやすいので、現在も全国で取り組みがあります。

――海外展開についてはいかがでしょうか。

山本氏――現在、タイでも実証実験をしています。
タイを含めた東南アジアで、ノンデスクワーカー、現場と言われるところにサービスを入れていく方向で展開を考えています。

「健康社会インフラ」へ。働く本人が使いたくなるサービスを目指す

――今後、どのような社会を実現したいと考えていますか。

山本氏――「健康社会インフラ」にしたいと思っています。
何十年後かには、スマートウォッチのようなデバイスで毎日のデータを取得することが普通になっているはずですから、今はその文化をつくることが重要だと考えています。

5~10年後には、経営者や管理者だけではなく、働く人やドライバー自身が「使いたい」と思えるようにしたいですね。
事故率は、現場の行動が変わらなければ変わりません。
安全な行動をすると金銭的なメリットなどが自然につくような仕組みもつくっていきたいです。

生体データだけでは価値をつくるのが難しく、脈拍に加えてGPSによる移動情報などを組み合わせています。
仕事のプロセスや場所、動きの情報と掛け合わせることで、初めて価値に変えていけると考えています。

現在はノンデスクワーカーやドライバーが中心ですが、農業や外国人材が活躍する現場など、安全・健康管理の支援ニーズがある領域からも問い合わせをいただいています。

山本寛大
株式会社enstem 代表取締役

投稿者プロフィール
浅草生まれ、シリコンバレー育ち。
早稲田大学卒業後、新卒でGoogleに入社。4年間企業のマーケティングの戦略立案に携わる。その後、Cogent LabにてAIを用いた事業開発を経て、「人の可能性を最大化し、現場の課題を解決する」ことを使命と感じるようになり、2019年、株式会社enstemを起業。
スマートウォッチやバイタルセンシングデバイスからの生体データを活用したノンデスクワーカー向け業界特化型サービスを開発・提供している。
健康と安全を見守るサービスを提供し、運送業界や現場作業員の方々が安心して働ける環境づくりを支援する。

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