経営者の景色を変える「TOKYO PRO Market」
- 2021/6/9
- ファイナンス
東京証券取引所が開設する、「TOKYO PRO Market」をご存じですか。2008年の改正金融商品取引法により導入された「プロ向け市場制度」に基づいたマーケットで、買付できる投資家を「プロ投資家※」に限定しているのが特徴です。それゆえ、マザーズなどの一般市場より柔軟な上場基準を持ちます。
マザーズ・JASDAQとほぼ同等の評価が期待でき、M&A、経営人材の採用、会社の成長、さらに他の上場市場への足掛かりも期待できる、TOKYO PRO Market。その上場について、前身のTOKYO AIMで第1号上場企業を担当したフィリップ証券株式会社の脇本源一さんを招いた勉強会の模様から、中小企業診断士の白石直之さんがご紹介します。
※「プロ投資家」は正式には「特定投資家等」のことです。
目次
TOKYO PRO Marketとは
現在、東証には東証一部、二部、JASDAQ、マザーズ、TOKYO PRO Marketの5つの証券市場があります。その最も新しい市場がTOKYO PRO Market(以下、プロマーケット)です。前述のとおり、「プロ投資家」対象のマーケットで、一般投資家による買付がないことから、上場によって直接投資家から資金を調達するのは難しい市場ではあります。そのため、一般的な認知度はあまり高くありません。
しかし、プロマーケットへの上場というイベントを活用することにより、企業の成長を促進する様々なメリットを享受できるのです。
<東京証券取引所の5つのマーケット>
上場は資金調達のためではない!
日本では、上場というと資金調達のための手段であることばかりが注目されます。それではプロマーケットに上場するメリットはないのでしょうか?下図はIPOの目的に関するアンケート結果です。
資金調達力の向上は上場目的の上位にありますが、それよりも信頼性・知名度向上や、優秀な人材確保が重視されていることが分かります。実際に上場した企業の社長にインタビューをしても、当初の目的と同じく知名度・信用力が向上したことにより、新規取引先の拡大、業界内での差別化がなされ、人材についても優秀な人材が確保できたことで、内部管理体制が強化され社員の責任感が向上したことを、上場のメリットとして語られるそうです。
社長の景色を変える3つのメリット
上場することで、社長の景色が変わるといわれます。これは、付き合う会社、社員、社長の3つが変わるためと言われています。
1.上場企業からの発注
上場会社が発注する場合、管理体制やコンプライアンス等々の兼ね合いで発注先も上場会社がメインになる場合が多いのですが、プロマーケットに上場することで、上場企業からの受注への期待も高まります。
2.人財への好影響
上場による社員への好影響が期待できます。既存社員にはモチベーションアップと安心感を与え、新たに採用する中途社員や新卒社員の確保、さらにはプロ経営者の採用にまで大きく及ぶでしょう。
3.付き合う先の変化
社長が付き合う関係者も変わっていきます。やはり上場している経営者との付き合いが増えていくそうです。共通の経験と信頼性、次の連携も描きやすいのかと思います。なお、誰にあっても、「すごいね」って言ってもらえることで上場したことを実感する経営者も多いようです。やはり嬉しいものなのでしょう。
他の上場と同等の待遇
上場時はどのような扱いになるのでしょう?ご安心ください。プロマーケット上場の場合でも、以下の通り、他の市場への上場時と同等の待遇を受けることができます。
- 東京証券取引所でのセレモニー(打鐘を含む)
- JPXロゴマーク取得
- 証券コードの取得
- J-Adviser(いわゆる主幹事証券)による上場適格性の評価や監査法人による監査
- 日経新聞証券欄への掲載
TOKYO PRO Market上場基準、必要な費用と期間
プロマーケットへの上場数は急速に増えており、2021年5月現在、予定も含めて58社(累計)となっています。プロマーケット上場の実態は、従来よりも多少厳しくなってきていますが、まだまだチャンスがあるため注目されています。なお、プロマーケット上場時には「形式基準」と呼ばれる数値基準がありません。たとえば東証マザーズでは10億円以上の時価総額が必要とされていますが、プロマーケットにはそうした数値基準が一切ないため、次に示す「実態基準」のみになります。
<プロマーケット上場の形式基準等>
<TOKYO PRO Market上場の実態基準>
売 上 :4~5億円程度
期 間 :半年~2年
上場コスト :2000~2500万円
上場維持コスト:1500万円/年
決 算 開 示 :年2回
*あくまでも目安であり、今後より厳しい条件になっていくことが見込まれますのでご注意ください。
みなさまの会社のステージアップの一つの参考になれば幸いです。
次回は、「2022年4月の東京証券取引所の再編とプロマーケットが注目されるワケ」をお届けします。