ゲームは「遊び」から「社会インフラ」へ。人の行動変容を生み出す新しいDX
- 2026/9/8
- インタビュー

「ゲームで社会課題を解決する」。そんな発想から、従来のゲームビジネスとは異なる領域へ挑戦しているのが、株式会社Digital Entertainment Asset(DEA)代表取締役社長の山田耕三氏です。テレビ東京で15年間、音楽やバラエティ番組の制作に携わった経験から、人の行動を変えるエンターテインメントの力に着目。その後、暗号資産やNFTを活用したゲーム事業を経て、現在は「人を巻き込む仕組み」そのものを企業や自治体の課題解決に活用しています。代表例が、東京電力グループとDEAのジョイントベンチャーGRG社が主体となり提供する位置情報ゲーム、電柱などのインフラを撮影することで社会貢献につながる「PicTrée(ピクトレ)」です。ゲームを楽しむ市民の行動を、インフラ保全や防災、地域活性化へつなげる。日本発の新たな社会参加モデルを、世界へ広げようとする挑戦について伺いました。
目次
「お金を稼げるゲーム」から、「社会課題を解決するゲーム」へ
Z-EN――株式会社DEA(デジタル・エンターテインメント・アセット)の代表でいらっしゃる山田さんは、現在、どのような事業をされているのでしょうか。
山田耕三氏(以下、山田氏)――弊社は2018年にシンガポールで創業し、2020年から暗号資産とNFTを活用した「お金が稼げるPlay-to-Earnゲーム」を始めました。
稼働する中で、報酬によって人がどう行動変容するのかが見えてきて、これを社会課題の解決に生かせるのではないかと考えるようになりました。
そこで生まれたのが、電柱点検ゲーム「PicTrée(ピクトレ)」です。
東京電力さんから出向されていた方と意気投合し、実際に電柱を管理する配電チームと一緒に作りました。
現在は3年目に入り、電柱だけでなく、さまざまなインフラ点検へ広がっています。
遊ぶ人が、街のインフラを守る。「ピクトレ」が生み出す新しい参加の形
――ピクトレは、具体的にはどのような仕組みなのでしょうか。
山田氏――東京電力さんは約600万本の電柱を抱え、年間30億円ほどの点検人件費を設定しているという情報がありました。
また、人手不足によって点検する人が足りない、費用が上がる、全部を見切れないという課題があることも知りました。
そこで、一般市民やゲームユーザーに楽しんでもらいながら、点検に使える写真データを集める仕組みを作りました。
電柱の写真を撮るとポイントがもらえたり、チームに分かれて陣取り合戦をしたりします。
ユーザーが夢中になって遊ぶことで写真が集まり、点検に役立つんです。
東京電力さんの試算では、全面的に活用できれば、点検コストを最大で半分、30億円から15億円程度まで削減できる可能性があります。

コスト削減だけではない。DXで「新しい売り上げ」まで生み出す
――企業にとっては、コスト削減だけが価値ではないのですね。
山田氏――そうなんです。
僕は、DXというのは、不要なコストを圧縮することと、今までなかった切り口で新しい売り上げを作ること、その両方だと思っています。
ピクトレは点検コストを下げるという意味でDXですし、電力会社やNTT、自治体などに使ってもらえれば、新しい売り上げにもなります。
実際に地方自治体にも販売を始めていて、新潟ではカーブミラー、関東圏のある地域では街路灯など、対象を変えてインフラ点検に応用しています。
位置情報ゲームを広告・マーケティングに活用することもできます。
――「ゲームで社会課題を解決する」と考えたきっかけは何だったのでしょうか。
山田氏――テレビ東京時代の経験が大きいですね。
2002年に入社して15年間、音楽やバラエティ番組の制作をしていました。
後半の5年くらいは、企業やスポンサーの課題を聞いて、それを番組にすることもやっていました。
テレビは、人に見てもらうことで行動変容を起こします。
でもゲームは、面白くてもくだらなくても、ユーザーにアクションを要求します。
だから、人を巻き込んで行動を変えるという意味では、ゲームの方が向いている。
そこに気づいたのが2023年頃でした。
2018年にはテレビ制作会社を作りながら新しい商売を探し、共同代表の吉田直人と出会いました。
彼の「お金を稼げるゲーム」というアイデアと、僕の「エンターテインメントを使って課題を解決する」という考えが合体して、今の形になったという感じです。
元々、友人だった吉田が「お金を稼げるゲームをつくろう!」と誘ってくれて立ち上がったDEA社の事業は、気づいてみるとテレビ東京時代に取り組んでいたエンタメを活用して行動変容を促す仕組みになっていたわけなんです。
「街を見る目が変わった」ゲームが生んだ、想定外の価値
――実際に社会実装して、印象に残っていることはありますか。
山田氏――最初にピクトレを公開したのは群馬県前橋市でした。
そこで自分もやってみて、一番面白かったのは「街を見る目が変わる」ことでした。
普段歩いている道でも、電柱なんて意識して見ていないんですよ。
でも撮り始めると、「あれ、めちゃくちゃあるな」と気づく。
1本撮ると近くにもう1本あるので、「よし、もう1個行くか」となって、10km以上歩く人もいるんです。
さらにやり込むと、電柱への畏敬や、電力会社・インフラ会社へのリスペクトも生まれてくる。
これは最初から狙っていたわけではなく、「お金を配れば人は動く」というゲームから生まれた思わぬ収穫なんです。
でも、本質はむしろそっちなんじゃないかと思っています。
「難しいお題をください」ゲームの力を世界の課題解決へ

――経営で山田さんが大切にしているものは何でしょうか。
山田氏――一番大事にしているのは、「関わっていない人たちを巻き込むこと」です。
企業の課題に対して、関係のなかった人たちまでもが参加できる方法を考える。
それこそがデジタルでやる意味だと思っています。
だから、僕たちが提供したいのは、単に「ゲームを作ります」ということではなく、企業や自治体の難しい課題に対して、人を巻き込みながら、コストを下げたり、新しい売り上げを作ったりして、これまでになかった価値を生み出すことです。
――今後は、どのような会社にしていきたいですか。
山田氏――日本に本社を戻したのは、東証上場を目指したいという思いがあるからです。
そして、日本で生まれたこの仕組みを世界に持っていきたいですね。
農業、漁業、医療、不動産、サービス業、製造業など、業種は問いません。
どんな領域でも、ゲーミフィケーションによってコストを下げたり、新しい売り上げを作ったりできる可能性があります。
日本の企業として、世界中の人たちを巻き込みながら、世界の課題を解決するソリューションを生み出したいんです。
「ゲームに詳しくないから」と思わなくて大丈夫です。
むしろ、難しい課題を持っている方に、「本当に難しいお題を僕にください」と言いたいですね。
















