伝統工芸を“現代アート”へ――『THE MANEKI』が切り拓く日本文化の新市場
- 2026/5/28
- インタビュー

九谷焼の招き猫を現代アートとして再解釈した『THE MANEKI』。その背景には、日本の伝統工芸が持つ本来の価値を、世界市場に向けて再編集したいという株式会社PlnX代表、岡本晟樂氏の強い思いが込められています。海外生活で感じた“日本文化への熱狂”と、帰国後に目の当たりにした地域産業の衰退。そのギャップを原点に、岡本氏は「伝統工芸を保存するものではなく、今のカルチャーと接続するもの」と捉え直しました。価格設計、販路、ブランディングまで徹底して再構築し、伝統工芸を“Japanese Contemporary Art”として世界へ発信する岡本氏の挑戦に迫ります。

『THE MANEKI』は全6色。
右手、左手バージョンがある。
目次
海外で気づいた“日本文化の価値”と評価のギャップ
Z-EN――岡本さんは、九谷焼という伝統工芸を現代アートとして再解釈した招き猫『THE MANEKI』を発売されましたが、「日本の伝統工芸をアートにする」という発想は、どこから生まれたのでしょうか。
岡本晟樂氏(以下、岡本氏)――海外に住んでいた時、日本の伝統工芸品に対する現地の反応がすごく印象的だったんです。
招き猫やだるまを見て、「こんなところに置くのか」と驚いたり、写真を撮ったりしていて。
日本人は“伝統だから静かで控えめなもの”として評価する傾向がありますが、海外では「もっと攻めてほしい」という新鮮な感覚が強かった。
そのギャップを感じたのが最初ですね。
コロナ禍で帰国した際、地元・兵庫の地域産業が厳しい状況にあることも知りました。
日本酒の箱や紐を作っていた会社が閉業する話を聞き、「伝統工芸の素晴らしさが伝わらない原因は、価値の伝え方が弱いことにあるのでは?」と感じたんです。
そこで、ポップなデザインや高級感のある見せ方、置く場所を変えることで、伝統工芸に新しい価値を与えられないかと思いました。
今やっているのは、“伝統工芸をアートとして世界市場にぶつける”という社会実験のような感覚です。

“普通”に馴染めなかった原体験が独自の感性を育む
――“衝撃を与える”という考え方には、岡本さんご自身の価値観も影響しているのでしょうか。
岡本氏――大きいと思います。
幼少期からレーシングカートやBMXなど、周りと少し違う環境で育ったので、ずっと「普通」に馴染めなかったんです。
いじめられた経験もありましたが、「目立たないようにしよう」ではなく、「この世界を変えたい」という方向に気持ちが向いていきました。
そん中、学生時代に、“売り方を変えるだけで人が熱狂する”のを目の当たりにしたことがあって、「既存のものを少し変えるだけでモノの価値は大きく変わる」と実感しました。
その後、台湾への留学や海外経験を通じて、日本では当たり前のものが海外では魅力的に映ることを知り、「今の形のまま眠らせておくのはもったいない」と思うようになりました。
――伝統工芸に可能性を感じた瞬間はありましたか。
岡本:あります。
海外だけじゃなく、日本でも実は伝統工芸が生活の中に入り込んでいるのに気づいたんですよ。
西陣織や竹細工など、ファッションやライフスタイルの中にごく自然に溶け込んで使われているものが多い。
そこに少し視線を集める演出を加えれば、もっと魅力は伝わると思いました。
以前はWeb3や仮想通貨業界にいたことの反動か、「もっと手触り感のある仕事がしたい」と感じるようになっていたんですね。
その時、「かわいい」「人と人が繋がる」「社会貢献になる」という感情が重なるものとして、招き猫にたどり着きました。

伝統工芸をアートへ――『THE MANEKI』誕生までの試行錯誤
――その後、実際に製造されるまでに、どのように進めていったのでしょうか。
岡本:工房は60〜70ほど回りました。
最初は「何も知らない若い人が何をやるつもりなんだ?!」と、断られることも多かったですが、最終的に石川県能美市の工房と出会い、「やってみよう!」と言っていただけたことで始まりました。
『THE MANEKI』の型は伝統的なものを使っています。
難しいのは色や配置ですね。
今回の椿モチーフは工房側から提案いただき、色味は僕が現代アート的な方向でお願いしました。
焼成もかなり難しく、800〜1300度で長時間焼き上げます。
焦げると使えないので、特に黄色やオレンジは職人さんの技術力が問われるところです。
この伝統の技が根底にあるからこそ、ブランドとしての『THE MANEKI』を自信をもって世界に発信できる。
将来的には、3Dデータ化して芸大生など若い世代ともコラボできたら面白いですね。

椿をイメージした花のモチーフ
「縁起物」から「Japanese Contemporary Art」への発想転換
――主にどのような販路で展開されているのでしょうか。
岡本:ECが中心ですが、あとは紹介でナイトクラブや高級飲食店に置いてもらっています。
実際にその場で見た方がQRコードから購入してくださることもありますし、海外のお客様へのギフトとして使われることも多いですね。

こだわりの金属製の保証書
スニーカーボックスをモチーフにしたオリジナルボックスで梱包する
今回のテーマは、“縁起物”から外すことなんです。
「招き猫だけど、現代アートなんだよ」と伝えることで、海外では“Japanese Contemporary Art”として受け取られる。
日本人のように「商売繁盛」の文脈だけではなく、「かわいい」「面白い」「高級感がある」という感覚で購入されることが多いですね。
それに、今後は若い人が副業感覚で伝統工芸に関われるコミュニティも作りたいと思っています。
例えば「土日に集まって絵付けをする」とか、「海外で塗ったものを日本で焼いて届ける」みたいな形ですね。
伝統工芸って、職人さんだけの閉じた世界ではなくて、もっといろんな人が関われるものにできると思っています。

外国人VIPが多数訪問する「Lavish Tokyo」で展示販売
職人だけの世界を超えて――若い世代が関わる伝統工芸の未来像
――今後の展望についても教えてください。
岡本:まずは『THE MANEKI』をしっかり育てたいです。
将来的には、音楽やファッション、ナイトカルチャーと組み合わせて、IPのように展開していきたいと思っています。
例えばアーティストコラボや、アパレル、ナイトクラブでの展開など。
単なるお土産ではなく、ラグジュアリーでハイセンスな存在として見せたいですね。
伝統工芸を“保存するもの”ではなく、“今のカルチャーと繋がるもの”として再定義したい。
その結果として、若い人が「面白そう」と思って関わってくれる世界ができれば嬉しいです。













