【書評】食欲のコントロールは健康寿命の延伸につながる

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昆虫や動物は、計算なしに自らに必要な栄養素と適正量を把握しているそうです。バランスよく栄養摂取する能力は人間にも備わっているのに、なぜ私たちは食べすぎてしまうのでしょうか。その仕組みと正しい食欲を取り戻す方法について、企業支援のエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評からご紹介します。

科学者たちが語る食欲
著者:デイヴィッド・ローベンハイマー、 スティーヴン・J・シンプソン
(サンマーク出版)

本書の要約

食欲を決定するのはタンパク質に対する渇望で、食欲をコントロールすることが肥満・病気・短命を防ぐ秘訣です。低タンパクで高カロリーの「超加工食品」を過食してしまうのはそれが理由です。メーカーのマーケティング戦略に踊らされず、食欲をコントロールすれば自分の体を守ることができるのです。

人間を太らせる「タンパク質レバレッジ」とは何か?

肥満の増加の最大の原因は、一般に考えられているとおり、脂肪や炭水化物なのだろうか?なにしろ肥満の世界的流行の背景にある摂取カロリーの増加は、タンパク質ではなく、脂肪と炭水化物として摂取されているのだ。タンパク質摂取量はここ数十年あまり変わっていない。

タンパク質含有量が食事の量を左右する

30年の共同研究で175の論文を発表したシドニー大学・世界的生物学者のデイヴィッド・ローベンハイマーとスティーヴン・J・シンプソンがタッグを組んで解明したのが、人間の食欲の進化がもたらす肥満です。2人はバッタやハエ、ゴキブリ、鳥類の研究を通じて、多くの生物が栄養バランスの良い食事で、生命を維持していることを突き止めます。しかし、人間は進化の過程でいつの間にか食欲をコントロールする力を失い、肥満になる人を増やしていたのです。

著者は協力者を集い別荘に隔離して、彼らの食生活を調査しました。被験者は最初の2日間は、肉、魚、卵、乳製品、パン、果物、野菜などのビュッフェから、好きなものを好きなだけ食べることができました。食べたものはすべて重さを計量し、食品成分表をもとに各食品のタンパク質、炭水化物、脂肪の含有量を計算しました。各被験者が摂ったすべての食事について、これらすべてのデータが記録されたのです。

次の2日間は、被験者を2つのグループに分けて食品の選択肢をコントロールしました。一方は高タンパク質食のグループで、ビュッフェ=肉、魚、卵、多少の低脂肪乳製品、少量の果物と野菜を提供し、もう一方は低タンパク質の高炭水化物・高脂肪食多量のグループで、肉・魚・卵以外の様々なパスタ、パン、シリアル、そしてデザートまでを提供しました。

このときも、すべての被験者は与えられた食事を好きなだけ食べることができ、選択した食品のカロリーと主要栄養素の含有量が記録されました。そして最後の2日間は、全員がすべての食品を含む最初のビュッフェに戻されました。

被験者は自由に食事を選択できた第1段階では、予想摂取量に近いカロリーを摂り、タンパク質のカロリー比率は約18%でした。これは以前に査した、ヒヒが摂取した主要栄養素のタンパク質比率17%に非常に近い値です。被験者が高タンパク質食のグループと、高炭水化物・高脂肪食のグループに分けられた第2段階では、被験者全員が第1段階と同じタンパク質の摂取比率を維持しました。

つまり、タンパク質の摂取ターゲットを達成するために食事量を調整していたのです。高炭水化物・高脂肪食だけを与えられたグループは、第1段階に比べて総摂取カロリーを35%増やし、高タンパク質食だけを与えられたグループは、摂取カロリーを38%減らしました。

「タンパク質が不足しているがエネルギーが豊富な食環境では、ヒトはタンパク質の摂取ターゲットを達成しようとして、炭水化物と脂肪を過剰摂取する。だが高タンパク質食しか得られない場合は、炭水化物と脂肪を過少摂取する」。このことがもつ意味は、計り知れないほど大きい。身体活動で消費されるカロリーが不変と仮定すれば、高炭水化物・高脂肪食はやがて体重増加を招き、高タンパク質食は体重減少につながる。いずれにせよ、どんな場合にも最優先されたのは、一定量の多すぎず、少なすぎない量のタンパク質の摂取であるように思われた。これが、私たちが食べるほかのすべてのものに影響をおよぼすタンパク質の力、すなわち「タンパク質レバレッジ」である。

文明の発展で狂ってしまった食欲

筆者の言う「タンパク質レバレッジ」を裏付けるデータがあります。国連食糧農業機関(FAO)の栄養素利用可能性(栄養摂取と同義ではないが、十分近い)に関するデータベースによれば、1961年から2000年にかけて、アメリカの平均的な食事組成は重要な変化を遂げ、タンパク質比率は14%から12.5%に低下しました。その分上昇したのは脂肪と炭水化物で、これが肥満を引起こしていたのです。

アメリ力人はこのタンパク質比率が低下した食事で、タンパク質の摂取ターゲットを達成するには、総摂取力ロリーを13%増やすしかありませんでした。結果、多くのアメリカ人がエネルギー(カロリー)余剰と、体重増加に悩むようになったのです。

「ブルーゾーン」の食生活を取り戻せ!

マウスの実験を通して、餌を簡単に操作するだけで、様々な結果を引き起こせることがわかった。まるでダイヤルをひねるように、これを少し増やしあれを少し減らすだけで、肥満を起こすことも止めることも、筋肉を増やし体脂肪を減らすことも、がんを予防することも促進することも、老化を遅らせることも速めることも、繁殖を促進することも抑制することも、腸内微生物叢を変化させることも、免疫系を起動させることもできるのだ。

食物繊維の含有率が高い食事を

著者たちは長寿社会の人が何を食べているかを研究し、マウスで明らかになった実験結果の正しさを証明します。「ブルーゾーン」と呼ばれる世界の超長寿地域に暮らす人が、食事の主要栄養素のバランスを正確にたもっていました。

沖縄は100歳以上の人ロ割合がほかの先進国平均の5倍になっています。サツマイモと葉物野菜を主体とし、少量の魚と赤身肉を組み合わせた伝統的な沖縄食は、タンパク質比率がわずか9%(食糧難の地域を除けば世界最低水準)、炭水化物が85%、そして脂肪がわずか6%でした。これは実験の最長寿命のマウスが摂取していた比率にほぼ相当します。伝統的な沖縄の食事を摂っている人は、肥満とほぼ無縁でした。その理由のーつは、食事の食物繊維含有率が高いことです。

食事に十分な食物繊維が含まれると、カロリーの過剰摂取を駆り立てるタンパク質レバレッジの効果が弱められます。食物繊維は胃で膨潤し、消化速度を遅らせて腸内微生物の餌になる。これらすべてが組み合わさって空腹感を抑えるのです。

ボリビアのチマネ族は伝統的な狩猟採集と焼畑農業を組み合わせた生活を送っており、食事の栄養構成はタンパク質14%、炭水化物72%、脂肪がわずか14%でした。主な炭水化物源は玄米、オオバコ、キャッサバ、トウモロコシでした。嵩高な食物繊維を含む植物性食品を摂取することで、彼らは長寿を実現していました。

タンパク質、脂肪、炭水化物、そして食物繊維のダイヤルをひねることで、インスリン抵抗性を伴う/伴わない肥満を予防することも起こすことも、寿命を延ばすことも縮めることも、繁殖を促進することも阻害することも、筋肉量を増やすことも減らすことも、腸内微生物叢や免疫系を変化させることも、それ以外の多くのこともできる。

超加工食品を過食する仕組み

現代人の食事は、脂肪と炭水化物が85%以上を占め、タンパク質比率が旧石器時代のヒトの食事の半分になっています。農耕開始以前の祖先の食事は微量栄養素と食物繊維が豊富なホールフード(まるごとの食品)で構成されていました。

人間がオランウータンと違って、果物の食べすぎで太らない理由は、食物繊維にあります。人間がなぜ超加工食品を食べて太るのかも、繊維によって説明できます。繊維を取り除いた加工食品を摂取すると、食欲のブレーキが効かなくなってしまうのです。

ニューサウスウェールズ大学のロブ・ブルックス教授との共同研究で加工食品の弊害が明らかになりました。アメリカとオーストラリアのネットスーパーに行って、どちらの国でも買える106品目の食品を選び、それぞれの価格と栄養成分を記録しました。

このデータをもとに、脂肪、炭水化物、タンパク質のそれぞれの含有量が、各食品の価格にどれだけ寄与しているかを計算しました。 脂肪含有量は食品価格にほとんど影響を及ぼしませんでした。脂肪から得られるカロリーは、価格押し上げ効果が非常に小さかったのです。他方、タンパク質は強力な影響を及ぼし、タンパク質が多いほど、商品の価格は高くなっていました。炭水化物を増やすと価格が下がり、なおかつ消費者の食欲を操作して過食させることができるのです。

超加工食品にはそもそもビタミンとミネラルがほとんど含まれないため、たくさん食べたところで、微量ながらも人の発達や代謝機能を適切に維持するために必要な栄養素の摂取量はほとんど増えません。超加工食品のタンパク質比率を下げ、かつ食べられる量を増やすためにあえて食物繊維を除去するのは、大手食品企業の戦略なのです。

繊維が少なく脂肪と炭水化物が多い食品は、おいしいから選びがちになる。おまけにタンパク質をあまり含まないから、製造原価が低い。そして、低タンパク質・低繊維・低価格の三拍子揃った食品は、ついつい食べすぎてしまう。かくして超加工食品が全面的勝利を収めるというわけです。

私たちはタンパク質に対する強力な食欲にとらわれ、必要以上のカロリーを摂取するよう食品メーカーから仕向けられています。人間もほかの生物と同じようにタンパク質に対する強い食欲をもち、その食欲によって、何をどれだけ食べるかを決定されています。食環境が劇変し、とくにホールフード中心の従来型の食事が、超加工食品に置き換わったせいで、体によくないものを食べすぎるようになっているのです。

健康になるための15のアドバイス

この悪循環から逃れ、健康な生活を送るために私たちはどのような食生活を行えばよいのでしょうか? 著者たちは以下の15のアドバイスを私たちに与えてくれました。

  1. 自分のタンパク質ターゲットを理解する
    ハリスベネディクト法でタンパク質摂取ターゲットを計算し、肥満を防止しましょう。
  2. 「超加工食品」を避ける
  3. 「高タンパク質食品」を食べる
    多種多様な動物性食品(鶏肉、肉、魚、卵、乳製品)や植物性食品(種、ナッツ、豆)の中から高タンパク質食品を選び、タンパク質の摂取ターゲットを満たすとともに、タンパク質欲を最も満足させるバランスでアミノ酸が含まれた食事を摂りましょう。
  4. 「繊維」を食べる
  5. 「カロリー」信奉をやめる
  6. 食べ物を「混ぜ物」にしない
    食べ物に加える砂糖や塩は控えめにし、脂肪分を加えるときは「エキストラバージンオイル」などの健康的なものを摂取しましょう。
  7. 「空腹」の時に食べる
    食事どきに空腹を感じ、食後と食間は満足できるようになるまで食べる量を増減し、自分が食欲をコントロールしていると感じられるまで調整します。
  8. 「塩味」が欲しいことの意味を知る
    塩味のスナック系の誘惑に負けず、タンパク質を摂取しましょう。
  9. 「食欲」を信じる
    必要と感じる以上のタンパク質を摂取しないようにします。
  10. 運動時は「20~30g」のタンパク質を摂る
    運動して筋肉量を増やしているときは、1回の食事につき20gから30gのまとまったタンパク質を摂ると、新しい筋肉タンパク質を形成するための細胞機構が最もよく活性化することがわかっています。タンパク質を20gから30g含む食事を摂ると、タンパク質合成のスイッチが2時間ほど入り、悪影響をその時間に限定することができます。
  11. 「食べない時間」を1日の中につくる
    細胞とDNAの修復・維持を促すために、夜間は断食し、間食を控えるようにします。全体的な摂取カロリーを減らさなくても、1日のうちの食べる時間帯を制限する(「間欠的断食」や「時間制限摂食」など)だけでも健康効果があることが、研究によって明らかになっています。数時間の断食によって、損傷を引き起こす成長経路がオフになり、健康と長寿を支える細胞とDNAの修復・維持プロセスが活性化されます。
  12. 「体内時計」に合わせて眠る
  13. こもらず「外」に出る
  14. つくってみる
  15. 「流行り」に惑われない

食生活を見直そう

大手メーカーのコマーシャルに踊らされ、加工食品を食べ過ぎたり、科学的エビデンスのない気軽なダイエットをしたりするのはやめましょう。科学者のアドバイスに従い、今こそ食生活を見直すのです。

最初は集中して、意識的にルールを適用し、練習を積み、悪い習慣を捨て去る必要があるでしょう。しかし、いつのまにか、それが生まれつきの習慣のようになります。健康的な食事は、そもそも生まれつきの習慣のはずです。粘菌からヒヒまでの生物は、数値や数式、スポーツ、音楽、自動車が発明される前から、数百万年間もそういう食餌を続けてきたのですから。

著者のアドバイスに従い、正しい食環境に向かって舵を切り(不健康な食環境から遠ざかり)、食欲に耳を傾けるだけで、健康を取り戻せます。加工食品を食べるのをやめ、人間らしい食生活を習慣にするだけで、私たちは健康を取り戻せ、長生きできるようになるのです。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)」

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「デイヴィッド・ローベンハイマー、スティーヴン・J・シンプソンの科学者たちが語る食欲の書評」

この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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