危ない案件を見抜く③ 資金繰りの苦しい企業が詐欺の一役を担う
- 2020/10/13
- 事業投資
COVID-19は経済面で大きな影響を与えています。経営者の方のなかには資金繰りに苦労されている方も多いとおもいますが、そのような弱みに付け込んだ詐欺が増加しています。前回は、上場企業であっても創業者一族が株主の場合のリスクについてお伝えしました。
今回は、投資詐欺の現場に多く立ち会った経験のある株式会社Principal&Co. 代表取締役 柏瀬秀一さんより、おいしい投資話だけでなく普通の取引に見えても思わぬ落とし穴が潜む危険について教えていただきます。
弱みにつけ込まれないよう案件を見極めるために、詐欺の実例もあわせてご覧ください。
詐欺の可能性大でも取引したい台所事情
最近こんなことがありました。中古車の輸出をされている企業さんなのですが、アフリカのある国の企業から引き合いが来ました。その会社は基本前現金で取引を行います。ところが、今回の取引相手からは為替手形取引を持ちかけられました。その国の制度で、取引においては同国の中央銀行を介した為替手形取引をしなければならないと言われたそうです。
当然ながら相手を調査するのですが、調査会社からの調査報告書には、同社は詐欺の疑いがあると明記されていました。これは非常に珍しいことで、調査会社はよほどのことがない限りはっきりと詐欺とは書きません。文字としてそのような内容が残ると、どこで当該の企業の目に触れるかわからず、訴訟のリスクを背負うことになるからです。しかし、このレポートにははっきりと詐欺の可能性があると書いてありました。提出された登記書類なども偽造でした。
このような報告を受ければ、取引は中止にするはずです。しかし、その中古車輸出企業の経営者からは、どのようにしたらこの会社と取引ができるかとの相談をいただきました。そこまでして、商売をしなくてはならない状況なのだなと感じたエピソードでした。
普通の取引に見えて実は取り込み詐欺
取り込み詐欺の企業は、ごくごく普通の商取引を装ってコンタクトをしてきます。普通の取引を繰り返し、お得意様になった後で断れない状況を作ったうえで、少し大きな取引を持ち掛けてきたり、投資話を持ち掛けてくることがあります。
先日、イヤホンのメーカーに、新規の取引の引き合いが入りました。相手は雑貨を扱う卸売会社です。
しかし、調査会社からその卸売会社のレポートを取り寄せると、売上高は乱高下しています。社長がいろいろな事業に手を出しては失敗しているとのことでした。その社長を調べていくと、取引が進んでいくと、投資話を持ち掛けてくるとのことでした。そのお金が戻ってくることはありません。イヤホンメーカーは当初現金取引を考えていましたが、相手社長の情報から一切の取引をしないと決めました。
詐欺案件を取り次ぐ企業へと転落
この相手企業はもともとは普通の企業でした。創業は1981年ですので30年弱の業歴を誇っています。しかし、創業社長の息子が社長を継いでから経営がおかしくなっていきます。
資金繰りに窮した社長は、金策に駆けずり回ることになります。そんな中で資金提供を受けた相手に取り込まれてしまったようです。資金提供を受ける代わりに、彼らの詐欺案件のカモを探し出してくる役割を担うようになりました。
資金繰りに窮し資金提供詐欺へ
このような事例は山ほどあります。やはり資金繰りに窮した会社の社長が、資金提供を申し出てくれた建設会社の社長に、数百万円の手数料を先払いしたところ、連絡がなくなりました。そこで名刺にあった住所に尋ねていくと、そこには会社がありませんでした。
商業登記を調べれば、会社は相模原に登記されていることがわかります。その建設会社は資金繰りに窮していましたが、ある時突然休眠しています。そのまま、なくなってしまった企業と思われていましたが、資金提供詐欺の会社に代わっていたというものです。
先の見えないCOVID-19による混乱。焦る気持ちはわかりますが、おいしい話が来た時には、一旦一呼吸おいて、その話の裏を調べてみることをお勧めします。