ジャングリア沖縄の経営戦略と沖縄県民にとってのジャングリア

  • 2025/6/13

2025年7月、沖縄県北部に新たなテーマパーク「ジャングリア沖縄」が誕生します。自然豊かな名護市と今帰仁村にまたがるこの施設は、マーケティングのプロである森岡毅氏率いる「刀」が手掛ける大型プロジェクトです。総事業費700億円という巨額投資を背景に、沖縄の地から日本の観光産業に新風を吹き込もうとしています。しかし、実質的な運営元である刀は東京・お台場のイマーシブ・フォート東京で苦戦を強いられているのも事実です。この記事では、ジャングリア沖縄が掲げる独自の経営戦略に迫ります。シャングリラという言葉で探される方も多いジャングリアの挑戦を、分かりやすくお伝えします。
またジャングリア沖縄の大型プロジェクトは、沖縄の地元経済や雇用、生活環境に大きな影響を与えます。特に名護市や今帰仁村周辺にお住まいの方、ご家族が就職を考えている方、地域ビジネスに関わる方にとっては無関心ではいられない話題です。このプロジェクトの経営戦略を紐解きながら、沖縄県民としてどう向き合うべきかも考えていきます。

シャングリラ、いやジャングリア沖縄とは?

ジャングリア沖縄は、沖縄の豊かな自然を最大限に活かしたテーマパークです。ゴルフ場跡地を再利用し、既存の地形を生かすことで建設コストを抑制。これは過去のテーマパーク失敗例から学んだ過剰投資回避の重要な戦略でした。沖縄県内では初の大規模民間テーマパークとして、地元経済への波及効果が大きく期待されています。シャングリラという言葉で検索されることも多いですが、ジャングリアは沖縄独自の自然体験をコンセプトにしています。
プロジェクトを推進するのは、刀が筆頭株主のジャパンエンターテイメントです。地元企業であるオリオンビールをはじめ、JTBや近鉄グループHDなど多彩な出資者が参画。沖縄県外からの資本だけでなく、地元主体の運営体制を整えている点が特徴です。この沖縄との協働は、単なる観光施設ではなく、地域と共に成長するという経営哲学の表れといえるでしょう。

700億円の資金調達

ジャングリア沖縄の経営戦略で特筆すべきは、約700億円という巨額資金の調達プロセスです。創業5年のスタートアップである刀にとって、これは前人未到の挑戦でした。当初はメガバンク3行も関心を示しましたが、新型コロナ禍の影響で軒並み撤退。まさに絶望的な状況に陥ります。ここで刀が取った戦略で奏功した点が2つあったと言います。一つは「事業格付けの取得」、もう一つは「国家戦略特区」の認定です。2021年、日本格付研究所(JCR)から最上位格付けを得たことで、プロジェクトの信頼性が大きく向上しました。
転機となったのは、刀の大和証券グループによる140億円の出資決定です。これが契機となり、地元金融機関も結束。琉球銀行と商工中金が主幹事となって協調融資を推進しました。しかし2022年春、ウクライナ危機の影響で再び暗雲が。目標額まで100億円不足する危機的状況の中、刀の幹部陣は全国の金融機関を訪問。本土の銀行を説得し、ついに366億円の協調融資をまとめあげました。沖縄発のプロジェクトに全国の地方銀行が賛同したのは、経営陣の、沖縄から日本の未来を創るという熱意が共感を呼んだからと言われています。

沖縄のザル経済を変える

ジャングリア沖縄の経営戦略の核にあるのは、地元沖縄との共生です。沖縄ではこれまで、観光収益の多くが県外資本に流出する、いわゆるザル経済が問題視されてきました。刀はこの課題を解決するため、利益を地元に還元する仕組みを構築。琉球銀行の参画は、沖縄県内の資金循環を促す象徴的な事例です。シャングリラと混同されがちなジャングリアですが、その経営モデルは沖縄の風土に根ざした独自のものといえます。
さらに、人材面でも地元優先の方針を貫いてると言われています。パークスタッフの多くを沖縄県民で採用する計画で、長期的な雇用創出を目指していると考えられます。沖縄の文化や自然を熟知した人材がゲストを迎えることで、他では真似できない本物の沖縄体験を提供できるのではないかと考えられます。この戦略は、単なるテーマパークではなく沖縄全体の価値を高める装置として機能することが期待されています。

イマーシブ・フォート東京の苦戦から学ぶ教訓

ジャングリア沖縄の運営元である刀は、東京・お台場でイマーシブ・フォート東京を運営していますが、ここで大きな課題に直面しています。正確な数字はわかりませんが、イマーシブ・フォート東京は当初より規模を縮小しており、経営戦略の見直しを迫られていることが分かるのです。経営戦略を変えざるを得なくなった原因の一つは、統一されたテーマの欠如ではないかとも言われています。アニメIPや歴史ものなど異なる世界観のアトラクションが混在し、イマーシブ・フォート東京全体を楽しむという体験が生まれにくい構造になっていました。シャングリラという言葉で検索する人が多いジャングリアとは異なり、イマーシブ・フォート東京は認知度向上にも苦労しています。
また、お台場という立地もハンディとなっています。周辺施設の相次ぐ撤退で集客力が低下し、コロナ後の回復も遅れているエリアです。こうした状況を受け、直近4月には入園システムを大幅変更。イマーシブ・フォート東京全体のパス制から、アトラクションごとのチケット制に転換しました。これは面としてのパークよりも、個別コンテンツに焦点を移す戦略転換と言えます。沖縄のジャングリアとは対照的に、東京では試行錯誤が続いています。

ジャングリア沖縄が避けるべき経営リスク

イマーシブ・フォート東京の事例は、ジャングリア沖縄にとって貴重な教訓を提供しています。最大のリスクは、テーマの一貫性喪失です。ジャングリアは自然体験をコンセプトに掲げていますが、沖縄の多様な魅力を詰め込みすぎると、焦点がぼやける危険性があります。また、資金調達の成功がゴールではない点も重要です。700億円のうち約半分を占める借り入れ返済が経営を圧迫しないよう、安定した収益構造の構築が急務です。
さらに、沖縄県民の期待に応えることも不可欠です。地元のための施設という理念が形骸化すれば、信用は一気に失墜します。実際、刀はイマーシブ・フォート東京で、コンテンツと客層のミスマッチを経験しました。ジャングリア沖縄では、地元住民と観光客の両方にとって価値ある体験をどう設計するかが経営戦略の分かれ道となるでしょう。

沖縄県民としてどう向き合う?

ジャングリア沖縄がもたらす変化は、沖縄県民の生活に直接関わってきます。仕事や交通、地域経済など、具体的な関わり方を考えてみましょう。

仕事で関わる機会を活かす

ジャングリア沖縄では開業時に約1,300人の正社員と、合わせて1,500人規模のスタッフの雇用創出を見込んでいます。県民採用率80%以上を目標としており、特に若年層の地元定着に貢献できる可能性があります。刀の業務に携わったことがない未経験者でも、刀によって接客や安全管理などの研修を実施しているとのことです。

交通渋滞への現実的な対策

開園後は国道58号線や県道84号線の混雑が予想されます。県と事業者ではピーク時の渋滞緩和策として、那覇空港からの路線バスの増便などといった対策を進めています。しかしながらそれでも混雑する可能性は否めず、地元県民としては通勤や通院で主要道路を利用する場合は、事前に代替ルートを確認しておくことが大切です。特に夏休みやゴールデンウィークは、朝夕の通勤時間帯をずらすフレックスタイム制の導入を職場に提案してみるのも有効でしょう。

観光客との共生で地域を豊かに

沖縄の観光客の増加は生活エリアへの流入も意味します。沖縄北部地域の魅力を守りつつ経済効果を得るには、民泊を営む場合は近隣住民とのルール作り、伝統行事や墓地周辺の観光客マナー啓発、地元食材を使った加工品開発による二次消費の創出といった取り組みが有効です。

持続可能な成長に向けた未来戦略

ジャングリア沖縄の経営陣が強調するのは、民間主導の持続可能性です。資金調達時に国の資金導入案もありましたが(沖縄公庫を除く)、あえて民間融資にこだわりました。沖縄では公共事業依存が批判される中、この姿勢は新しい経済モデルとして注目されています。
シャングリラと誤って検索されるような存在ではなく、沖縄の代名詞として認知されることできれば、地方創生のモデルケースとして日本全国に影響を与える可能性を秘めています。

まとめ

ジャングリア沖縄の経営戦略は、単なるテーマパーク運営を超えた挑戦です。700億円の資金調達という離れ業を成し遂げた背景には、地元金融機関や全国の地方銀行からの信頼がありました。沖縄のザル経済を変え、地域と共に成長するという理念が共感を生んだのです。一方、運営元の刀は東京・イマーシブ・フォート東京での苦戦から重要な教訓を得ています。テーマの統一性や持続可能な収益モデルの構築は、ジャングリア沖縄でも避けて通れない課題です。
さらにジャングリア沖縄の経営戦略は、沖縄県民の生活と深く結びついています。仕事や交通、地域経済への関わり方は事前の準備が重要です。シャングリラと検索されるほど注目を集めるこのプロジェクトが真の成功を収めるには、地元住民の理解と協力が不可欠でしょう。渋滞対策や観光客との共生など課題はあるものの、沖縄の未来を創るチャンスとして前向きに捉え、県民目線での建設的な関わり方を模索していく時期に来ているのです。
沖縄の豊かな自然を舞台にしたジャングリアの成否は、今後の日本観光産業を占う試金石となるでしょう。シャングリラという言葉で検索されることがあっても、その中身は紛れもなく沖縄発のイノベーションです。2025年夏の開業後は、地元住民と観光客の双方が満足する三方良しの経営が実現できるかが焦点となります。ジャングリア沖縄が沖縄から日本の未来を切り開く日を、多くの人が期待してやみません。

ピックアップ記事

  1. 岩手県紫波郡紫波町で公民連携事業開発コンサルティング業務を手がける株式会社オガール。代表の岡崎正信氏…
  2. 社長がしくじった経験から一定の法則を導き出し、それに学ぶことで成功につなげていこう!との趣旨で開催さ…
  3. 「PR」と聞くと、企業がテレビやラジオなどのメディアで流すイメージCMや、商品やイベントなどを情報発…

編集部おすすめ記事

年別アーカイブ

ページ上部へ戻る