テレビからIT投資へ。変化に勝つエンタメ事業の創出
- 2026/1/22
- インタビュー

長年にわたりフジテレビで活躍し、ITや新規事業の立ち上げ、投資などを手掛けてきた種田慶郎氏。テレビ局の現場からスタートし、インターネットやゲーム、ベンチャー投資まで多岐にわたるキャリアを振り返りながら、今後のビジネス展望についてインタビューさせていただきました。変化の激しい時代において、種田氏のご経験と洞察が若手起業家のビジネスへのヒントとなることでしょう。
目次
フジテレビ入社のきっかけと当時のテレビ業界
Z-EN――種田さんは、フジテレビジョンに長くお勤めしていらっしゃったそうですね。
種田慶郎氏(以下、種田氏)――そうなんです。今から6年ぐらい前までは、ずっとフジテレビにお世話になっていました。
早稲田大学にバス通学していてフジテレビの前を通っていたのですが、周りに芸能人の追っかけみたいな幸せそうな人達がたくさん集まっていて、面白そうに思えたので、就職試験を受けてみたら、運良く入社できました。
最初はバラエティ番組などのADをやっていましたが、すぐに、テレビは観るだけのほうが、自分には向いていたなと思いました。

――当時はテレビ番組も、バラエティ全盛で絶好調のいい時代だったと思うのですが。
種田氏――僕が入社する10年くらい前は、芸能人との付き合いにお金を使いまくるなど、感覚的にも会社員らしくない人がとても多かったんでしょうが、番組制作の現場は非常に無駄遣いが多いとのことで、当時のオーナー経営者が制作現場を会社から切り離して子会社化し、番組制作は外注していたんです。
そうすると、さらに社会常識のない人たちが、安い金額で番組を作るようになりますから、モラルハザードが起きるなどの問題も生じ、視聴率も低迷していたそうです。
二代目オーナーが、その人たちをフジテレビ本社の社員に転籍させ、自由にやらせたところ、その皆さんがバラエティ番組で力を発揮し、全盛期を迎えた直後での入社でした。
その頃の僕は、その皆さんの可愛がりには馴染めず、新規の事業や、もっとのびのびできる仕事がないかなと思っていたので、その後、希望して番組制作からは外れた領域に入っていきました。
――テレビ局の現場で番組を制作するよりも、新規事業を立ち上げることに関心を持たれていたのですか。
種田氏――そうだったと思います。
テレビの収入源は、今も昔もほとんどが広告です。
でも、フジテレビは当時から、新しいことにも積極的に取り組んで広告以外の収益も増やしていきたいという意向を持っていて、実際に映画やイベントなどに力を入れていました。
そんな新規事業を立ち上げることに前向きな社風があったので、僕はそちらにシフトさせてもらいました。
番組制作からインターネット関連事業への転換
――その後、メディアも含めて次第にネット環境が整っていったのだと思いますが、フジテレビ局内のIT関連の最初の事業立ち上げなどに関わってこられたのでしょうか。
種田氏――はい。新規事業といっても、最初はイベントから始まり、21世紀になるぐらいから、インターネット事業にシフトしていきました。
僕は当時、あまりITには詳しくなかったのですが、1999年の初めにドコモがi modeを展開して競合他社も追従し、いわゆるガラケーのブラウザを見る文化ができたときに、「何かやれるんじゃないか」と、事業立ち上げの話が僕のところに舞い込んできたんです。
でも、何をやっていいのかすぐには思いつかず、それまで音楽番組のディレクターやコンサートのプロデューサーをやって芸能事務所とも懇意にしていたので、ミュージシャンのファンクラブサイトをガラケーで見られるようにしてみようかと始めたら、偶然、かなりうまくいった。
ビギナーズラックみたいなものです。
そんななか、僕が関わっていた会社でマザーズなどに上場するところがいくつか出てきたので、フジテレビ局内では「ITのやつ」というイメージが定着したみたいで、そこからどんどんネット系新規事業を任されるようになりました。

CVC設立とゲーム事業への挑戦
――種田さんはCVCも手掛けられて、株式会社フジゲームス(現:株式会社FUJI NEXTERA LABO )では代表を務められていますね。
種田氏――当初は、ネットコンテンツを制作する部門の現場責任者を任されていましたので、「面白いことできます!」と積極的にアピールしてくる外部の皆さんと一緒にコンテンツを作ったりしていました。
その後、外部の才能を発掘するという共通点があるので、その流れでメディアグループとして国内初のCVCとなるフジ・スタートアップ・ベンチャーズを2013年に設立し、投資検討委員長を任されました。
当時は、独立系のベンチャーキャピタルは10億円も集まるとすごいという時代。
それからは市場が右肩上がりでしたので、わりと実績を出すこともできたのですが、SNSが流行り、スマホシフトが起き、ソーシャルゲーム全盛を迎えた頃ですね。
以前からフジテレビ局内でゲーム制作もやっていて、ゲーム系の若手プロデューサーをたくさん知っていたので、CVCでは普通に投資するだけでなく、彼らに会社を作らせて、大手とM&Aさせたり、IPOのお手伝いをしたりしていました。
このような流れから、フジテレビの経営陣が、「お前も自分でゲーム会社を始めたほうがいい」と言ってくださったので、フジゲームスが設立されたという経緯です。
――そうですか。上層部からすごい信頼があったのですね。
種田氏――でも、その時すでにゲーム業界はレッドオーシャンでしたので、その予算感で成長させるのは絶対無理だなと直感的に感じて、「うまくいこうがいくまいが、3年で辞めます!」と言った記憶があります(笑)
エンタメをビジネスに落とし込む
――先ほど種田さんがビギナーズラックとおっしゃったように、まだ他社が注力していないような市場に早い段階で目を付けられて事業を展開され、それらがうまく軌道に乗せて成功している印象を持ちます。ご自身で独立しようとは考えなかったのでしょうか。
種田氏――サーバーの手当てにカネとリスクテイクが必要だった時代から、クラウドサービスが始まり、ほとんどのインターネットビジネスには過度なリスクなく参入できるようになったので、僕も、2014年くらいからは、本格的にインターネットビジネスにフルコミットできるようになった。
局内には僕なんかよりもITに詳しい皆さんはたくさんいたものの、テレビ業界では、評論家ではなく、自身もビジネスプレーヤーとしてチャレンジする人はあまりいなかった。
だから僕にチャンスが舞い込んできたとも言えます。
でも、インターネット関連の事業には楽しんで取り組めていましたが、あくまでも、フジテレビ局内ではテレビに関わっている人たちこそが本流で、その人たちと比べると自分はリスクだけ負わされて、評価もされず、損しているんじゃないかと感じることもあり、ずっと辞めようかと考えていました。
ただ、自分は商売をやるには向いていないんじゃないか、もう少し会社にいて良いタイミングが来るのを待った方がいいんじゃないかという迷いもあり、なかなか辞められなかったです。
いろんな事業に関わってもいて、実際に会社を辞めるタイミングは難しい。
僕も結局6年くらい前にテレビ局を離れ、現在は、面白そうな会社のアドバイザーや社外取締役などをしながら、まだまだ次の展開を模索中です。

社会人になってからの価値観の変化
――種田さんの個人的なことを少し伺いたいと思うんですけど、ご出身はどちらですか。
種田氏――僕は北海道出身なんです。
田舎育ちで、すごぐ勉強ができるわけでもなかったんですけど、運良く早稲田大学に受かったって感じです。
大学時代は文化系だったので、音楽やファッションが好きで夢中になっていましたね。
当時、日本のコムデギャルソンやワイズみたいなブランドが世界的人気となり、自分も大好きだったので、繊維研究会というちゃんとした大学公認の組織に在籍し、幹事長みたいなことやっていました。
そういうカウンターカルチャー的な感じが好きだったのもあって、個人的には、知的でスノビッシュな出版関係に就職したいという希望は持っていたものの、新卒での募集はなく、180度方向転換して、お祭りっぽい勢いを感じていた当時のフジテレビも面白いんじゃないかと受けてみたら、本当にたまたま受かってしまいました。
今思うと、大学時代は今とは真逆の価値観を持っていたような気がしますね。
金儲けなど経済に関することがあまり好きではなく、政治経済学部ですけど、経済の基本的なことはほぼわかっていないまま社会人になりました。
投資だけでなく、事業計画を立て新規事業にも関わってきましたが、十分な経験や学びもないまま、勢いでやってこれたような気がします。
――でも当時のテレビ関係のお仕事は、マスコミの中でも花形でしたよね。働き始めてから、ご自身の中で変わったこととかありますか?
種田氏――確かに当時はテレビ関係の仕事はかなり人気の職業でしたね。
でも、実際やってみると、オペレーションがルーティン化していて、僕はそんなに楽しくなかった。
好きなことを仕事にするのがいいのか、そうじゃないのか。
いろんな意見がありますけど、外から見るぶんには楽しそうだけど、中を知るとそうでもない場合もあります。
本当にテレビが好きな人にとっては、スターみたいな人達と一緒に仕事ができるテレビの仕事は、たまらなく刺激的です。
でも、僕はあまり興味がないから、同じミーハーでも、もう少し新しめで、ちょっとカッコよさげな仕事をやりたいと思っていました。
単にあまのじゃくなだけなのかもしれませんが、会社員になってからは学生時代とは逆に、もっと経済に詳しくなって経営を突き詰め、今まで分らなかった会社のあり方みたいなものに興味が湧いたんですね。
堅実に計画するか、与えられた環境で楽しむか
――それが現在の企業の顧問やコンサルに繋がるのですね。Z-ENでも取り上げているスタートアップ企業などが今は次々と新しいビジネスを展開していますが、その特徴や課題についてどのように感じられていますか。
種田氏――やはり、クラウドサービスが台頭し、比較的経営指標がシンプルなインターネット関連の事業に参入しやすくなったことが、若い方をメインに起業する機会が増えていった要因だと思います。
ただ、年々、日本を変えるような、でかいビジネスを興してやる!という気概をもつ人たちよりも、人材関連や情報商材、マーケ代行あたりのわかりやすい儲かる事業を志向する方が多くなっている気はしますね。
インターネット時代になり、起業はどんどん増えているのに、世界的にも注目されるような企業は、日本からはほぼ全く出てきていません。

――若い人たちの価値観の変化でしょうか。そこはどのようにお感じになっていますか。
種田氏――彼らの堅実性みたいなところ自体は正しいと僕は思っているんです。
日本は失敗する事に寛容じゃないので、若い頭のいい人たちの気持ちは非常によくわかる。
ただ、優秀であることに間違いはないのだから、二周目以降の起業ででもOKなので、、もう少し難易度の高いことをやってもいいんじゃないかとは思います。
――失敗を回避するため思い切ったことができない、せっかく選んだ仕事なのに好きになれないというケースもあると思いますが、何を軸に選ぶのがよいとお考えですか?
種田氏――多分これからは、AIによって変わっていく面が大きいでしょうが、思いっきりフィジカルな領域以外は、情報産業など、知識を駆使してお金にする時代のトレンドは変わらなさそう。
周り以上に勉強するには、好きなものじゃなければ厳しいと思うので、おそらく、好きなことを仕事にした方がいいとは思います。
ただ、好きの弊害もあって、僕もゲーム会社を経営していた時に、ユーザーの評判がすごく気になったんです。
評判がいいのは、課金しなくても楽しめるゲームだったので、ついついお金を使わなくても楽しめる仕様にしてしまいそうな自分がいました。
結局、バランスが大事なんですね。
だからスタートアップなども、経営者がいいパートナーに恵まれて才能の方向が違っていても互いを補完し合うような関係を築ければ、経営はうまくいくんじゃないかと思いますね。
今の若くて結果を出せている経営者は、皆さん、とても計画性もあると感じます。
逆に、自分の若い頃もそうでしたが、働く環境や人間関係が嫌でも、周りに期待されていることをやっていくうちに楽しくなって、いつの間にか環境も変化し、自分が予想していなかった結果を連れて来ることもある。
だから、綿密に計画を立てて進むか、与えられた環境で楽しみながらやっていくか、どちらにするかを決めて、仕事に取り組むのも良いのではと思います。
流されながらも全力投球でポジティブに捉えていくのもあり。
どっちでもないというのが一番もったいないなと思います。
未来を見据えた新規事業とエンタメの融合

――なるほど。種田さんご自身は現在経営者として、疲れたり、嫌なことがあったりしたときのリセットする方法などをお持ちですか。
種田氏――ストレス解消法などは特にないですね。
個人的にはストレスは抱えるし、けっこう落ち込む方だとは思うんですけど、意外と大したことやっていない人ほど、落ち込むんだよなって感じるんです。
メンタルの強さは人それぞれですが、精神的にまいっちゃう人は、モチベーションの保ち方が少し下手なだけなケースも多いのではと思います。
僕自身はそこまで深刻にならない。
プレッシャーなどは感じますが、そこを打開していくのが楽しいとも思えるので、気持ちをうまく切り替えられる方なのかもしれません。
――今後、新しい事業などをやってみようと考えていらっしゃることはありますか?
種田氏――これからも仕事をして、人と出会って関わっていくのが自分には合っているのだろうと思います。
今でも一緒にやろう!と言ってくださる方もいますので、うれしいですね。
95歳で現役のパワフルなレジェンド経営者にもお世話になりましたが、仕事を続けている方はみなさん若々しいです。
これまでVCでの投資やM&Aに関わったなかでの人脈もありますし、そこそこエンタメにも詳しいので、新しいコンセプトで、生成AIを使ったエンタメコンテンツの事業を、すごいパートナーたちと一緒に始めようとしています。
また、コミュニティを作るのが得意なので、資金調達だけでなく、人材関連や、いわゆるプロモーションを含めたマーケティング戦略を、スタートアップや中小企業、地方の経営者の皆様に提供していく半分社会貢献的な事業も、周りの人たちと共同でやりたいなと思っています。
――これからもご活躍で楽しみですね。いろんなエンタメに関するお話が聞けて、種田さんの前向きな姿勢で取り組まれる経営姿勢を伺うことができて、勉強になりました。ありがとうございました。














