寺社ビズの最前線!寺社と経済界を連携する宿坊に注目
- 2020/9/13
- 事業投資
寺社の境内に建てられた宿「宿坊」。勤行や写経、座禅などを体験しながら誰でも宿泊できるため、手軽な体験旅として人気です。そんな宿坊ブームのなか、企業が宿坊建設に乗り出し、新たに宿坊を造る動きも盛り上がっています。
宿坊には、寺社と事業投資を結びつける新しい可能性が秘められている。そうお話しくださるのは、寺社旅を運営され寺社旅研究家としてご活躍の堀内克彦さん。宿坊に込められた熱い思いをお聞きしました。
目次
ビジネスと宗教への潔癖感が、悪徳業者だけを寺社に吸い寄せる
私はお寺や神社と企業が連携して新しいものを作り出す、『寺社ビズ』を推進しています。この言葉自体は私が勝手に作ったものですが、わざわざこんな名前を付けているのは両者が水と油になりやすいためです。
宗教にお金の話はタブー
まず当たり前の話からしますが、宗教活動にもお金は必要です。しかし人を救うことや欲を手放す思想、さらには聖職者としての清らかなイメージから、お坊さんや神主さんはお金についてはあまり語りたがりません。またこれは、本人たちだけに問題があるわけではなく、外部からそれを求められることもあります。
私が以前、とある士業団体から講演を依頼された時、開催の一週間前を切った時点で中止になったことがありました。
その理由は「ビジネスと宗教を一緒に語るとは何事か!」という意見が内部で巻き起こったためです。
これは少し極端な例ですが、本来はお金を稼ぐことに積極的な立場の人でも、お寺や神社に思い入れがある方は、その経済活動に批判を向けがちです。
寺社と企業の関係性に変化が
その一方で単に食い物にしてやろうという人は、躊躇なく寺社に近づきます。その結果、寺社と企業の亀裂がますます広がっていくのは皮肉な話です。
ただ、この状況が近年変わりつつあります。その要因は以下の3つです。
- 檀家さんや氏子さんが減少し、お寺や神社の経済基盤が縮小してきた
- 大量生産・消費の時代が終わり、画一的な商品だけでは売れなくなってきた
- インターネットの発達により、業界を超えた連携コストが劇的に下がった
そしてその最前線となるテーマの一つが宿坊です。
寺社ビズの最前線になってきた宿坊の中身
『宿坊』とはお寺や神社が運営している宿泊施設のことです。歴史上の起源は平安時代にさかのぼり、江戸時代には各地の有名寺社の門前に並んで建てられるなど、大きく栄えていきました。
しかし明治時代の廃仏毀釈や昭和の世界大戦、さらには高度経済成長期によるライフスタイルの変化などで、苦境に陥っていきます。
それでも平成・令和の世に入り、モノよりもコト、見るだけでなく体験することに重きを置く志向が生まれ、宿坊には新たな脚光が当たり始めました。
今、注目される宿坊
コロナによって変わった部分もありますが、ここ数年は寺社と企業、あるいは経済団体が手を組んで宿坊を建てる事例も増えています。
またその宿泊価格も多様化し、京都市にある仁和寺の宿坊は、一泊100万円という価格で世間の注目を集めました。
さらに私も関わらせて頂いていますが、一般社団法人全国寺社観光協会が取り組む『宿坊創生プロジェクト』では、宿坊作りを目指すお寺や神社の支援活動も行っています。また2020年夏には観光庁による、宿坊開設コンサルティング派遣も始まりました(なお、観光庁ではお城の宿泊「城泊」と合わせて、「寺泊」という言葉を使用しています)。
時代に合わせた宿坊がもたらすもの
私はもともと『宿坊研究会』というウェブサイトを立ち上げて、20年以上に渡って全国の宿坊紹介活動を行ってきました。
そこから霊園会社の顧問や寺社を舞台にした婚活イベント『寺社コン』、お坊さんや神主さんの研修会での講師業なども行い、株式会社寺社旅という法人を立ち上げています。
こうした活動を通して寺社と外部の世界を見ていると、宿坊はその環境が劇的に変化しているのを感じます。
宿坊の良さは境内を潰して建てられたマンションや駐車場などと異なり、宿泊者がダイレクトに仏教・神道にふれる機会を提供することです。
日帰り観光では時間が取れない坐禅や写経、法話やご祈祷なども、一昼夜身を置くことで参加が可能になります。
さらに宿泊業は建築・内装・物販・旅行・飲食・保険など、多様な業界とも関わります。お坊さんや神主さんはこうした分野の専門家ではありませんし、宗教活動と宿泊事業を分担しながら手を組むことは両者にメリットを生み出します。
寺社と企業の新しい関係
宗教をないがしろにすれば宿泊者には魅力がなくなり、価格を上げるなどの経済論理を無視すれば企業側が参入意欲を失います。
その意味では寺社と企業がお互いを学ぶ必要があり、一方的な搾取の構造になりにくい(ならない、とは言いませんが)のも特徴です。
コロナによって宿坊にむしろ注目が集まる理由
これからの時代に宿坊はどのように変わっていくか。特にコロナによってダメージを受けている宿泊業の中で、宿坊がどのような位置に付くかは気になる方もいるかもしれません。
コロナ禍でも快進撃の宿坊あり!
正直に言えば緊急事態宣言が発令された4月以降、私の知り合いの宿坊もキャンセルの嵐でした。
しかし場所によっても異なりますが、例えば青森県の下北半島にある『おおま宿坊普賢院』は、7月段階で予約が前年比1.5倍に増えています。しかもこちらはお客さんがいなくなった2ヶ月の間に施設のリニューアルを図り、宿泊料も12000円から18000円と引き上げたところでの快進撃です。
ここまでとはいかずとも、他にも熊本県の阿蘇山麓にあり、熊本地震で大打撃を受けた『了廣寺』は、コロナによっていなくなった宿泊客が、7月時点で昨年比6割程度まで戻りました。
熊本県全体の宿泊者数は4割ほどとの報道があったので、こうした平均値と比べれば大健闘でしょう。
投資家と寺社が手を組む新しい時代の幕開け
極端に外国人需要に特化した宿坊は別ですが、他の宿坊の方に聞いても、概ね戻りが早いようには感じています。
そして今後数年かけて作られていくニューノーマルを見据えるなら、テレワークの普及によって街中のビジネスホテルは需要縮小が続くかもしれません。
また、観光業の中でも一つの牽引役を担ったゲストハウスやカプセルホテルは、感染症予防の観点から敬遠される可能性があります。
しかし仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた『ワ―ケーション』が取り上げられるように、オフィスを離れた特別な環境で仕事と休暇を過ごすことは、宿坊にとっても相性の良い流れです。
時間はかかりそうですが世界人口は増加しており、インバウンドもいずれは右肩上がりに戻るでしょう。
これまで事例が少なかっただけに、投資家や事業家の方が寺社と手を組むのは大変です。しかしそこを一つ乗り越えることができれば、私はお寺や神社にも、経済界にも大きな世界が開けるのではと、仲間と一緒に取り組んでいます。