2022年東証市場再編と「TOKYO PRO Market」が注目されるワケ
- 2021/6/14
- ファイナンス
ニュース報道はあまりなされていない印象ですが、2022年春、東京証券取引所(以下、東証)は市場区分の再編を行います。市場ごとの上場基準を厳格化することで特徴を明確にし、国内外からの投資を活発化させることが狙いです。再編がどのようになされ、市場にどう影響を及ぼすのか、前回記事「経営者の景色を変える TOKYO PRO Market」に引き続き、プロマーケットの前身であるTOKYO AIMで、第1号上場企業を担当したフィリップ証券株式会社の脇本源一さんを招いた勉強会の模様から、M&Aアドバイザー・中小企業診断士の白石直之さんがご紹介します。
目次
東証の市場再編の背景
バブル崩壊後の東証は、新規に上場を行う多くの企業に市場を拓くことで日本経済を支援してきましたが、今の時代は、世界からみた投資のしやすさが重要になってきています。そのため東証は、現在抱えている次のような課題を解決し市場の質向上を図るため、新体制に移行します。
現在の市場構造を巡る課題
- 各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとって利便性が低い
- 上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの点で期待される役割を十分に果たせていない
- 投資対象としての機能性と市場代表性を備えた指数が存在しない
出典:東証資料「現在の市場構造をめぐる課題」p.1
市場再編後の新体制
東証は、市場第一部、市場第二部、ジャスダック、マザーズの4市場で構成(プロマーケットはプロ投資家向け市場としてここでは除外)している現在の上場市場を、再編後には上位市場の「プライム」、中堅企業向けの「スタンダード」、新興企業の「グロース」の3市場体制とします。
各市場区分においては、時価総額(流動性)やコーポレート・ガバナンスその他のコンセプトを反映した基準が設けられます。現在の上場企業は、各市場区分のコンセプトや上場基準を踏まえ、新市場区分を主体的に選択していくことになります。
今後のスケジュール(抜粋)
2021年 4月 7日 「第三次制度改正」制度要綱公表
2021年 6月30日 移行基準日
2022年 1月中 移行日に上場会社が所属する新市場区分公表
2022年 4月 4日 一斉移行日
出典:東証資料「市場区分の見直しに向けた 上場制度の整備について 」p.52
上位市場「プライム市場」は適正数調整へ
東証は市場再編にあたり、特に上位市場の質向上に注力しています。2021年5月現在、市場第一部に上場している企業数は2,192社と他の市場よりも圧倒的に多くさらに増加傾向が続いています。しかし、実態は今回の新市場「プライム」の上場基準となる時価総額250億円を下回る企業数は734社であり、全一部上場企業数の33%に上ります。この問題への方策として東証一部の上場社数を厳選した上で、新しくプライム市場を構築していきます。
上場基準と廃止基準が同じになる
また、従来では、上場基準や他の市場からの昇格基準、そして廃止基準が異なっていました。この基準の違いにより、マザーズから市場変更する企業が増え、さらに一部上場してしまえば廃止基準や市場第二部への指定替え基準が低いことから、企業価値改善へのプレッシャーがほとんどなく、質の低下の原因となっていました。この課題解決のため、2022年4月の再編以降はすべて同じ基準に統一することになります。
上場/昇格/廃止基準のイメージ
このことから、場合によっては、新市場区分での上場基準を満たさない現在の上場企業が、上場廃止に追い込まれる可能性も十分にあります。経過措置が設けられる見込みなのですぐではないですが、企業側は対応策を練り、株主としても注視して見守ることが必要です。
プロマーケットへの上場も早めの検討を
東証の市場再編への意図を踏まえると、上場後の管理体制や成長性、IR力が企業に強く求められていることがわかります。そのため、初めからスタンダード市場やグロース市場を目指すよりも、プロマーケットを介し、管理体制や知名度・信頼性を活用して、着実に企業を成長させることが現実的ではないでしょうか。例えるなら、中学生がいきなり大学へ進学するのではなく、高校へ入学してから大学へ進学するようなものです。上場後を見通した、財務体制やIR管理を強化しておくことが重要なのです。
今でこそ上場しやすいと言われているプロマーケットですが、再編後は、スタンダード市場に上場できなかったマザーズの企業が参入してくる可能性があることから、上場するのは年々厳しくなっていくと予想されています。
ですから、プロマーケットへ上場する場合でも、なるべく2022年の再編よりも前に着手することをお勧めします。
東証の市場再編によるM&A推進の可能性
上場基準を満たさず、新市場区分に入れなかった現在の上場企業のなかには、M&Aにて合併して基準を満たした上で再上場することや、会社売却してイグジットすることを選択する企業も出てくることが考えられます。まだまだ少ないですが、事業再建の「選択と集中」戦略のため、一部の不採算事業の譲渡が増えていくのではないかと推測します。一般的に、上場している企業の管理体制はしっかりしているため、事業の譲渡や売買はしやすいですから、上場企業の一部事業を買収して、自社の成長に生かせるチャンスとなるかもしれません。
このような意味からも、東証の市場再編は、日本の事業再建や適正化を後推しする施策になると期待しています。
みなさまの会社のステージアップの一つの参考になれば幸いです。
参考:日本証券取引所グループ「市場構造の在り方等の検討」2021/05/19 更新