成長段階を進む中小ベンチャーの悩み“組織マネジメント”

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中小ベンチャー経営者が抱える成長段階ごとの悩みについて、ベンチャー企業への経営コンサルティングでご活躍の高森厚太郎氏に伺います。今回は、成長段階のうち、起業・事業化を経た後の企業と経営者が抱える問題について、組織マネジメントの視点から詳しくお話しくださっています。高森氏は、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務めていらっしゃいます。
(高森氏の「中小ベンチャー」に関する過去記事はこちら)

ベンチャーの起業・事業化を経たその後

数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

出典:高森氏の資料より

成長志向があるベンチャーは、成長する段階ごとに悩みが変わってきます。図の0→5起業、5→15事業化、15→30規模化、30→100組織化、100→多角化では、その成長段階毎に、つまずきがちな落とし穴、経営者の悩みが存在するということです。

前回記事「中小ベンチャー経営者の仕事☆エグゼクティブへの渉外活動」では「0→5起業」「5→15事業化」でおこる中小ベンチャー経営者の悩みについて取り上げました。今回は、その続きである「15→30規模化」「30→100組織化」「100→多角化」について紹介します。

規模化の難関「30人の壁」

「15→30規模化」では、多くは黒転をしているフェーズです。自転できている、ユニットエコノミクス(単位経済性)が成立しているということは、ヒトやカネを突っ込めば事業は成長し、会社は儲かり大きくなっていくことを意味しています。起業家として、経営者として、当然ここは規模化を目指していきます。

また、黒転しているということは、事業が成立できており、会社として信用力がついているため、銀行も成長資金をどんどん貸してくれるようになります。そのおカネを使ってヒトを増やし、設備も増強して、さらに事業機会を捕捉していくわけですね。

しかし、色んな人を短期間で入れるため、採用のミスマッチが起こったり、組織のマネジメントが追いつかなかったりと、成長のひずみともいうべきさまざまな問題が発生します。俗にいう「30人の壁」に跳ね返されて、組織崩壊、大量離職、スタッフ半減というのはよくある話です。

組織化の壁「官僚化」が多角化を阻む

30人の壁を乗り超えて、うまく規模化を果たすと、「30→100組織化」フェーズに入ります。スタッフが30人を超えて、40、50人となると、社長1人で全社員を見ることはできなくなります。そのため、中間管理職はこの辺りで必須になってくるわけです。人事制度も作られ、会社が仕組みとして回るよう組織化されていきます。そして、会社経営も安定し、外から見てこの会社大丈夫ですよねということになれば、上場も視野に入ってきます。

ここで起きうる壁が「官僚化」です。企業名が安心感を与え、給料も安定的に支払われる会社になれば、サラリーマン気質の従業員が相対的に増えてきます。一方、規模化・組織化した企業は収益拡大のために多角化を目指さねばならないことも多く、そこには「官僚化」していない柔軟でフロンティア精神のある人材が必要になります。こうなると、一つの企業内に複数の相反する文化や価値観が存在するようになり、組織内や組織間で様々な矛盾や壁が生じてくるのです。

多角化と上場は相反関係?

上場するまでの企業の基本は、多くが1本柱の経営ではないかと思います。1つヒットした商品やサービスをテコにして、会社を成長させていきます。その手段、結果として、もっと資金を調達するために、知名度・採用力を上げるべく会社を上場させるのです。上場して現れた投資家は当然さらなる成長を求めてきます。

上場を目指す企業に求められる成長ストーリー

そこで、その先の「成長ストーリー」が必要になります。実際、最近上場する企業には、AIやIoT関連の新商品やサービスの可能性を示すケースが散見されます。この様な将来設計を示したからには、その企業の株価が未来に向けて継続的に上がっていくと投資家に信じてもらえるような根拠をなにかしら提示していく必要があります。

「成長ストーリー」は、言うは易く行うは難しです。やったことがないことに挑戦するのですからそれもそのはず。例えば、多角化で成長ストーリーを描いていく、新規事業をモノにしていくというのは、枠の中でしっかり仕事を回していくサラリーマン気質とは相反するもの。企業の成長に不可欠な多角化は、企業に属しながら自由な発想を行動に移していくという、サラリーマンには未知のものだからです。

新規事業をモノにできるかは経営選択による

官僚化のため、新規事業をモノにしていく人材には事欠いています。加えて、上場により社内ルールや内部統制がしっかり確立するため、それを守ろうとすることに意識や時間が割かれ、社内がさらに官僚化していくのです。そのせいか、上場後新規事業を打ち出す会社は多くありますが、どれもなかなかモノにならず、業績停滞ならまだしも、業績下降、赤字転落、株価乱高下もよくある話です。

なお、上場という方向をとらなくても、その分野でキラリと光る存在(優良中堅)でい続ける等の道もあります。いずれにせよ、その方向性を決めるのは経営者の仕事です。

ベンチャーの成長段階の問題点

成長を目指すベンチャーには、短い期間で事業面でも管理面でもやることがいっぱいあります。その中で一番大事なのは「事業」であり、商品サービスを作って売るなどの本業を伸ばしていくことです。しかし多忙さを極める結果、管理業務や経理財務、人事総務は後回しになったり、コストセンターである管理に人員を割きにくいため、勢い社長と事務員の仕事になったりしがちです。すると、図らずも管理に時間と意識が取られてしまい、本業を怠りがちになります。特に資金繰りに関しては、ずっと安心することがないものですし、数字や文書に強い経営者ばかりではないのでなおさら悪循環です。

企業内マネジメントの崩壊

事業的に追い風の場合は、人が必要ですし、新たな人材がどんどん入ってもきます。しかし、会社全体で見ると、どうしてもスキルやマインドにバラつきが出てしまうのです。たとえスキルの高い人が後から入ってきても、彼らのマインドは落ち着いていて、創業メンバーのように寝食忘れて一緒に……というモードにはなりません。経営者もスタッフもみんな忙しく、目の前のことにかかりっきりになるため、気持ちと関係性はどんどん乖離していくのです。

その結果、組織マネジメントは大変になります。実際、中小ベンチャーでは誰々を怒らせたや、プチ炎上したなど毎日何か事件が起こります。そういったカオスな状況では、経営はモグラ叩きになるでしょう。

経営者が抱える根源的な悩み

「問題が起こったら、それを鎮火消火していく」

「重要度と緊急度のマトリックスでいくと、緊急度が高いことばかりやっている」

「重要度が高い、半年後、1年後、3年後のために、今仕込んでおかなければいけないことが後回しになり、事業計画の進捗が心許なくなる」

はたまた、「成長が止まってしまう、次のステージに行けなくなってしまう」など、中小ベンチャーの経営につきまとう、根源的な悩みは多くあります。この悩みをどう解決していくのか、次回、経営の役割分担でひも解いていきます。

出典:連載コラム「成長段階ごとに変わる、中小ベンチャー経営者の悩み」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

高森 厚太郎
プレセアコンサルティング株式会社
代表取締役パートナーCFO

投稿者プロフィール
東京大学法学部卒業。
筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。
日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。

現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。

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