融資実務26年のベテランが伝授!創業融資を通す事業計画書の書き方(前編)
- 2021/10/1
- ファイナンス
起業時の資金調達方法として、国や自治体によって設けられている融資制度「創業融資」を活用したいと考える方は多いと思いますが、その際には「事業計画書」の提出が求められます。
融資審査を通すために、何をどう書けばいいのでしょうか。
日本政策金融公庫で融資課長を26年務め、現在は起業支援コンサルティングや資金調達サポートを行う上野光夫さんは、事業のポイントを簡潔にまとめ、オリジナリティあるものに仕上げるようにアドバイスしています。
融資審査に精通した上野さんに、事業計画書の書き方について解説いただきます。
政策による創業融資が増加
――日本政策金融公庫のコンセプトを教えてください。
上野光夫氏(以下、上野氏)――2008年に「国民生活金融公庫」「中小企業金融公庫」「農林漁業金融公庫」などが統合されて「株式会社 日本政策金融公庫」になりました。
すべての株式を日本政府が持っている金融機関ですので、「政策金融機関」や「政府系金融機関」とも呼ばれています。
民間の金融機関から融資を受けにくい中小企業やこれから創業しようとする人を対象に支援することを目的とし、「新創業融資制度」※1などの無担保・無保証人で利用できる制度を設けています。
今回のコロナ禍の影響を受け一時的に業況悪化し資金ニーズに緊急性のある企業にも特別貸付を行うなど、民間の銀行からなかなかお金を借りられない人のための金融機関なんです。
※1 参考:日本政策金融公庫「新創業融資制度」
――創業融資の件数は増えているのでしょうか?
上野氏――アベノミクス政策で「開業率を10%に上げる」という目標が立てられてから、起業支援や創業融資が活発になり、創業融資の件数はかなり増えています。
平成22年度(2009年4月~2010年3月)の実績は、年間1万8千件くらい(創業後1年未満の事業者も含む)だったのが、令和元年度(2019年4月~2020年3月)の実績では2万5千件くらいにまで増えています。
2020年4~2021年3月の実績は、「コロナ特別貸付」が始まった特殊要因から4万件ほどに急増しました※2。
※2 参考:日本政策金融公庫 平成26年4月30日付プレス記事、および、令和3年5月14日付プレス記事
――創業融資を申し込む事業者は、どんな業種が多いですか?
上野氏――私が審査担当をしていた頃は、飲食業が5割くらいでした。
次いで多いのが美容院などの美容業で、地方の場合は土木工事業やリフォーム業などの建築業も多かったですね。
最近は、介護関係やITベンチャーなど、多種多様な業種業態が利用しているようです。
ちなみに融資の上限は7,200万円ほどですが、実際の融資額は、平均で600~700万円くらいです。
――コロナの影響で金融機関の融資姿勢は変わりましたか?
上野氏――2020年初頭から、新型コロナの影響で、金融機関の融資姿勢はガラリと変わりました。
それまでは、多くの金融機関が「経営状態のいい企業」を探して「融資はいかがですか?」と営業をしたのです。
しかし、コロナ発生後は、日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」のほか、民間金融機関でもコロナ対応の政策融資を開始し注力しています。
コロナ禍以降、2021年9月現在でも、金融機関ではコロナ関係の融資一色という感じになっています。
日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」は、起業(創業)して間もない企業(3か月以上)でも、売上減少の基準に該当すれば対象になります。
最近は、税理士さんなどから「コロナ融資優先になって、創業融資の審査が厳しくなっている」という声をよく聞くようになりました。
私の感覚でも「創業融資の審査が厳しくなった」というのは、ある程度当たっていると思います。
金融機関の立場に立って考えれば「この厳しい時代に創業して成功するのは難しいのではないか」という判断になりがちなのは無理もないからです。
でも、起業のためにしっかりと準備を行い、綿密な事業計画を構築すれば、審査をパスすることは十分に可能です。
「厳しい審査」をパスできれば、起業した後に軌道に乗る確率も高くなるといえます。
融資を受けるならば創業前に
――創業前に融資を受けるメリットと、その理由を教えてください。
上野氏――融資を受けるのは、創業する前が圧倒的によいでしょう。
創業の2~3か月ほど前に申し込みを済ませるようにしておくのがベストです。
その理由は以下の3つです。
第一に、創業前の方が審査にパスしやすいという点です。
創業後、半年から1年くらいは赤字経営が続くケースが多いのです。
それまで自己資金だけでやっていた場合、その時点であわてて融資を受けようとしても、赤字の実績がネックとなり、なかなか審査が通りません。
しかし、創業前に融資を申し込めば、事業がうまくいくという前提で事業計画書を作っているので、審査が通りやすいですよね。
融資を受けた実績を作っておけば、創業後1年後くらいに再度融資を申し込む際も、審査が通りやすくなります。
2つ目は、創業後、キャッシュに余裕を持っておくためです。
創業して半年から1年はお金がどんどんなくなっていきます。
自己資金だけでやっていると、そのお金が尽きたときに行き詰ってしまうので、創業融資を受け運転資金を確保しておくことで、資金に余裕ができますので、精神的にも余裕が生まれます。
3つ目は、経営者として資金調達のノウハウを習得できることです。
創業後は経営者としてずっとやっていくわけですから、必ずといっていいほど、どこかで資金調達をしなければいけない場面が出てきます。
その練習という意味でも、創業融資を受けて経験を積んでおいたほうがいいでしょうね。
事業のイメージを簡潔にまとめるのが事業計画書
――事業計画書を書く際、どのような心構えで挑むとよいですか?
上野氏――事業計画書は、その事業のイメージを伝えることが一番重要なので、事業の“強み”や“独自性”をきちんと伝える必要があります。
ところが、ほとんどの人はこれが苦手です。
たとえば焼き鳥屋であれば、どの事業計画書も「鶏肉を仕入れて、備長炭で焼く」というふうに特徴のないものになってしまう。
しかし、誰しも必ず何かしら自分だけの強みはあるものです。
逆に強みも特徴もない事業は、お客様から選ばれないのでやっていけません。
たとえば、「○○地鶏のみを使用」など、他店にないような食材があればアピールできる強みになります。
あるいは、その地域に焼き鳥屋がなければ、“新規性”という強みになりますよね。
――『事業計画書は1枚にまとめなさい』という著書をお持ちですが、A3用紙1枚にまとめたほうがいいのは、どういった理由ですか?
上野氏――日本政策金融公庫の「創業計画書」は、A3横一枚の様式になっています。
自治体の「制度融資」の様式も、A4で3枚くらいです。
起業志望の人は、とかくプレゼン資料や添付資料を付けたりして、言いたいことをすべて資料に盛り込んで多くを伝えようとしがちです。
その資料を審査担当者がちゃんと読んでくれていて、すべて伝わったものと思ってしまうのですが、実際のところ、審査担当者に資料を読み込む時間はありません。
審査担当者は1日に何件もの案件を抱えているうえ、昨今は残業もあまりできないですし、資料を持ち帰ることも許されません。
そのため、50ページもある資料を付けられても、時間的にじっくり読むのが難しいわけです。
ですから、短時間で内容が理解できるように、一番肝心なことや、絶対に伝えたいことのエッセンスを1枚にまとめて提出したほうがいいでしょう。
融資を申し込むためのエグゼクティブサマリー(事業計画の要約)みたいなものだと考えるといいと思います。
その他にプレゼン資料や補足資料を付けてもいいわけですが、それを全部見て判断してね……というのは現実的ではないので、良い事業計画書とは言えないですね。
この続きは後編でお届けします。お楽しみに
出典:事業計画書の挑み方
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。