融資実務26年のベテランが伝授!創業融資を通す事業計画書の書き方(後編)
- 2021/10/4
- ファイナンス
公的融資制度である「創業融資」を受けたいと考える起業家は多いなか、審査の際に提出する「事業計画書」の書き方がよくわからないという方もたくさんいるのではないでしょうか。
前編では、日本政策金融公庫で融資課長を26年務め、起業支援コンサルタントとしてご活躍の上野光夫さんに、コロナ禍で創業融資が増加する現状や融資を受ける際のポイントについて伺いました。
後編では、実際の融資審査を通すためにどんな事業計画書を作成すべきなのか、その秘訣を融資実務のベテラン上野さんに伝授していただきます。
目次
創業前でもエビデンスに基づいた事業計画が必要
――ほとんどの人は事業計画書を書くのは初体験だと思います。どんなところでつまずきやすいですか?
上野光夫氏(以下、上野氏)――事業がうまくいくか、いかないかを示す「収支見込み」ですね。
飲食店の場合は、客単価が目安になります。
たとえば客単価3千円で、30席あり、1日に1回転すると収支見込みを計算したとします。
客単価はあまり的外れな金額にならないものですが、本当に1日に30人のお客さんが来るかどうかは、根拠がない。
そのため書きづらいというわけです。
そういう場合は、事前にその立地の通行人数や競合店の状況など、市場調査を行い補足資料としてまとめるといいでしょう。
審査担当者からすると、ちゃんと事前に調べていることが伝わって好印象になります。
むしろ、そうした根拠がなければ審査は通りません。
上司に説明するにしても、「なんとなく1回転くらいはすると思います。」では話にならないので、エビデンスとなる客観的な材料が欲しいわけです。
もし、「アフリカ料理」のような目新しい飲食店の場合は、テストマーケティングをするといいと思います。
たとえば、知り合いの飲食店にメニューを出させてもらって、「何食オーダーされた」というふうに根拠を示すわけです。
起業する人のパーソナリティも審査対象
――審査担当者はその他にどういったところで判断していますか?
前職で飲食店の店長を務めていたといった経験と実績があれば、そこから判断します。
経歴も書き方が重要です。
履歴書のようにあっさり書いてしまうと、その人の経歴や魅力が伝わらないので、どういった仕事内容で、どんな実績があるかを書き足してもらうようにアドバイスしていますね。
ただし、飲食業未経験の方が脱サラして飲食店を開業したいというケースもけっこう多いんです。
その場合は、“なぜ飲食店をやりたいのか”という動機の部分を見ます。
たとえば、食べ歩きを趣味にしているとか、ラーメン好きで人気店の食べ比べをしているとか、少なくとも動機の裏付けとなるものが必要です。
あとは面接で人間性を見ることも多いです。
私の経験から言うと、むしろ自信満々の人のほうが失敗する確率が高く、多少不安を抱えていて、それを払しょくするために事前にいろいろ調べている人のほうが後々うまくいくことが多いようです。
私が起業支援をするにおいても、必ず自分で動いて調査をしてもらうようにしています。
返済能力を見極めるチェックポイント
――返済能力も判断基準になると思うのですが、どういったところで見極めていますか?
まさに返済能力を見極めるのが審査担当者の役割です。
チェックポイントは3つあって、「経営者の資質」と「財政状況」、そして「収支見込み」です。
そこから返済可能な事業であるかを判断していきます。
経営者の資質
その事業に関連する経験を積んでいるかどうかが大きな判断基準になります。
たとえばイベント業の創業であれば、前職でイベント運営会社に勤務していた経験と実績があれば審査も通りやすい。
また、面接の際の会話の印象も重要です。
頭の回転が早いとか、融資に対する考え方など、言葉の端々から経営者の資質が伝わってくるものです。
ただし、口ばかり達者で実際やっていることはメチャクチャという人もたまにいるので、審査担当者も気をつけなければいけません(笑)。
逆に寡黙でコミュニケーションが苦手そうでも、実はすごく頭がいいという方もいらっしゃいます。
エンジニアで起業される人に多いパターンですね。
財政状況
資金があるかどうか、あるいは借金がないかといった点を確認します。
日本政策金融公庫の無担保無保証の「新創業融資」では、自己資金比率10%以上となっていますが、実際は10%ではなかなか審査が通りにくい。
借金については、借金があるから完全にNGというわけでもなく、程度の問題になります。
いわゆる個人信用情報をチェックするのですが、クレジットカードの返済が1、2回遅れた程度ならなんとかなりますが、毎月かなり返済が遅れているようだと、返済能力に問題ありと判断されてしまいます。
収支見込み
事業がうまくいくかいかないかを示す「収支見込み」は、先述のとおり根拠をもとに説明しましょう。
事前にしっかり根拠となる調査をすることが重要です。
より希望に沿った融資を受けるために
――融資申請の結果として、融資不可・減額して融資・希望金額が融資されるという3パターンがあると思うのですが、できるだけ希望した金額で融資を受けるためのポイントを教えてください。
減額になるケースから考えてみるといいと思います。
融資は起業に必要な金額が審査されますから、ちょっと余計に見えるところから削られていきます。
たとえば内装工事は、高くも安くもできるものですよね。
審査担当者も内装工事の相場をある程度は把握しているので、極端に高い内装工事費の場合は、減額の対象として話し合うことになります。
起業経験がなく、内装工事費の相場がわからないという場合は、業者に頼んで相見積もりをとるといいでしょうね。
また、運転資金も減額対象になりやすいです。
特に飲食店などの客商売は、オープン後すぐにお金が入ってくる業態なので、あまり運転資金に対して多く融資されることはありません。
融資を受けるかどうかは別としても、起業のイニシャルコストはできるだけ抑えることが、事業を軌道に乗せるために重要です。
金融機関にとって創業融資はリスクが高いので、「必要最低限の金額で融資する」という考え方が一般的です。
最初から立派な設備や資金があったほうが安心と思う人が多いですが、元が取れる年数が長くなるし、借入で調達すると返済負担も大きくなります。
つまり、できるだけ投資金額を抑えて、適正な融資額を自らが把握したうえで申請することが、希望に沿った融資を受ける近道だということです。
――最後に、創業を目指す人にアドバイスをお願いします。
経営者にはマネジメント能力や資金調達のノウハウが大事ですが、“メンタルの強さ”が重要だということは、あまり語られてきませんでした。
事業を興すと、小さな失敗はいくらでもありますし、必ずどこかで解決困難な出来事に遭遇してしまうものです。
そこでメンタルが弱いと事業は継続できません。
とくに昨今は、新型コロナなど、経済環境が激変している時代です。
今のような厳しい経営環境だと、「起業しないほうがいいかな」と悩んでいる方も多いことでしょう。
でも、私の経験では、景気がいいときよりも厳しいときに起業するほうが、長く続く企業が多いように思います。
経済環境や生活様式が大きく変わってきた今こそ、新しいビジネスが生まれる可能性があります。
ぜひあなたも、綿密な事業計画を構築するとともに、メンタルも強くして、起業の夢を実現させてください。
――本日はありがとうございました。
経営者になるための準備については、上野さんの著書『起業は1冊のノートから始めなさい』(ダイヤモンド社)が大変参考になります。
これから起業を志す方はぜひ読んでいただきたいと思います。
出典:事業計画書の挑み方
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。
本稿「融資実務26年のベテランが伝授!創業融資を通す事業計画書の書き方」の前編はこちら