スタートアップラボ第1回~米国NASDAQ上場の実情と可能性
- 2024/2/9
- ファイナンス
目次
ADR上場のメリット
ADR上場するメリットについては、以下のとおりです。
・知名度+ブランド力
GAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)と同じマーケットである。
・上場までの準備期間が短い
最短9ヶ月~1年で上場が可能。日本での上場は上場準備期間含め3~4年ほどかかる。
・売上12億3,500万ドル未満の企業は内部統制免除
上場の最大の難関である内部統制が免除される。
・資金調達額が日本のグロース市場の3~10倍
NASDAQキャピタル・マーケットの中央値は10億~40億。
それに比べ日本のグロース市場の中央値は3億円、旧マザーズでも6億円。
・日本の法律に合わせた会社経営が可能
米国法人で上場した場合、米国の法律に沿って会社運営を行わねばならず、管理コストもかかる上、米国で決算、申告を行う必要がある。
ADRの場合は、日本の法律に従って運営することができる。
NASDAQ上場まで約9か月のロードマップ
日本企業がNASDAQに上場する場合の約9か月間に渡るロードマップは以下のとおりです。
- 各種書類の電子化・英訳
契約書、請求書、領収書といった書類のデータ化及び英語への翻訳が必須。 - デューデリジェンスの対応
米国の弁護士によって英訳された契約書&事業計画等の電子書類の確認、上場検討企業の価値及びリスク、適正を調査。
弁護士から送付されてくる一覧に従い必要な書類を準備します。 - 米国基準に即した財務諸表の作成
米国の監査法人が過去2~3期分の財務諸表の監査を行います。
監査法人から送付されてくる一覧に従い、必要な財務情報、監査証拠(請求書や領収書等)を準備・提出します。 - 目論見書の作成
米国証券取引委員会(SEC)で指定されたフォーム(F-1またはS-1)に従って目論見書を作成します。 - 米国証券取引委員会による審査
提出した目論見書をSECが審査します。
最初の提出から約1か月後にSECから送付されるコメントに従い修正します。 - ロードショー(投資家説明会)
機関投資家による株の購入を促進させるため、ロードショーと呼ばれる投資家説明会を行います。
NASDAQは基本的には、その要件を満たしてさえいれば上場させます。
また、投資家保護、自己責任という側面が強い点からも、上場後の株価も落ちやすい代わりに上がりやすいという特徴を持っています。
NASDAQ上場のハードル
NASDAQ上場には日本の上場と同じようなプロセスもありますが、各種書類の電子化・英訳、米国の会計基準に従った財務諸表の作成、米国の監査法人の監査対応等、大きく異なる点もあります。
特に財務諸表の作成や監査対応は専門知識が必要となり、さらに時間がかかりますので、事前にしっかりと準備する必要があります。
- コスト(資金)※最低初期4.5億円(3ミリオン$)必要(円安の影響を考慮)
- コスト(維持費)※開示・会計・法務コスト年間合計で1.5億円(1ミリオン$前後)必要
- 国内向けの(会社法等)開示と並行して各種書類の電子化
- 米国の会計基準に従った財務諸表(帳票)の作成
- 会社HPなど海外投資家への情報開示
これらを全て英語で作成しなければなりません。
アメリカとの時差による対応時間のずれや投資家説明のための移動等も含め、広い意味でコスト面のハードルが高いといえます。
NASDAQ上場によるメリットを享受するには、コストや言語の壁、米国基準の財務諸表作成や監査など、日本での上場にはない難易度の高い問題にしっかり対応していくことが重要だと思います。
※本記事は、スタートアップラボでの講演内容と筆者提供の資料を元に編集したものです。