地方創生・地域密着型のビジネス、成功のコツ
- 2020/11/23
- インタビュー
地方創生、地域活性化において、官民様々な取り組みが行われていますが、持続可能性という視点でみるとまだまだ成功事例は少ないように感じます。今回は、2008年に国内初となる地域密着型のプロサイクル(自転車)ロードレースチームの初代GM・監督に就任し、スポーツイベントを軸に地域活性化を行っている、株式会社UNITED SPORTS 代表取締役 馬場隆司さんにお話をお聞きします。
システムエンジニア48才からの転身
Z-EN――自転車業界に入ったきっかけは何でしたか。
馬場隆司氏(以下、馬場氏)――サイクリングの趣味が高じて、自転車競技団体の運営をサポートしていたのがきっかけです。
週末にボランティアスタッフとして関与していました。
その時に宇都宮出身の選手から、地元でJリーグのような地域密着型のプロチームを立ち上げたいとの相談を受け、サポートしていたのですが、気づいたら会社を登記して社長兼GM、時に監督にもなっていました(笑)。
――前職は大手企業でしたよね。不安はありませんでしたか。
馬場氏――元々、独立志向はあったのですが、情報システム部門に在籍していたので転勤もなく、報酬も含め会社に特段の不満もなく過ごしていました。
もちろん、妻は不安だったと思いますが、いつかは自分で事業をやるだろうと覚悟していたようですし、期は熟したと自然な流れで独立を決意しました。
出典:シクロワイアードニュースより
地域密着型のプロサイクリングチームの発足
――それが、成功モデルと言われる「宇都宮ブリッツェン」ですね。資金調達などはどのようにされたのですか。
馬場氏――他のスポーツ種目と同様に、それまで日本の自転車ロードレースチームは、自転車メーカーの企業内活動だけでした。
そのため、運営会社の経営方針が変わればチームが撤退・解散に追い込まれ、突然消滅してしまう。
応援しているファンとしてはたまったものではありません。
これを避けるために、企業ありきではなく地域ありきのチームを第一義として、主に地元の企業や団体から小口でも大歓迎の資金調達を幅広く行うようにしたのです。
一社独占の企業チームではなく、地域の多くの支援者やファンが資金面と精神面で支えるチームを設立当初から目指しました。
――言うは易く、実行は大変ですよね。具体的にどのようにされたのですか。
馬場氏――地域経済学を参考にしながら、企業・地域ネットワークが集積して経済効果を生み出すような「クラスター戦略」を検討しました。
具体的には、中小企業の社長でも、無理なく協賛頂ける金額の範囲で「ひと口スポンサー」をお願いし、同時に個人のサポーター制度もつくりました。
効果のあった活動施策としては、選手が小中学校に出向いて行う「自転車安全教室」ですね。
警察・自治体がこれまで行ってきた教室と異なり、交通法規だけでなく、自転車の乗車技術を高めて危険を回避するという内容です。
一本橋や簡単なスラローム走行などゲーム性のあるカリキュラムが中心なうえ、鍛えられたプロ選手が指導してくれるので、生徒たちは大喜びでしたね。
出典:シクロワイアードニュースより
自転車安全教室は、これまでのべ5万人(2019年時点)が受講したと聞いています。
この活動は選手のPRになると同時に、生徒はもちろん、親御さんたちにもファンが増えていく絶好の機会となり、選手の意識が徐々に高揚する相乗効果を生んだのです。
ロードレースは市街地で公道を使用して開催することもあるのですが、こうした地道な活動によって警察の信頼も得られるようになり、レース開催も円滑にいくようになりました。
スポンサーを募る際も、協賛「金額」以上に参加「数」にこだわりました。
祝賀会などスポンサーを交えてのイベントでは、地域を想う経営者が沢山集うため、自然と話が盛り上がり、ビジネスチャンスへ繋がる親密な交流ができた気がします。
協賛社数が多くなれば、自ずと地元の大手企業や地域行政からも注目されるようになり、徐々にチーム運営がビジネスとしても軌道に乗るようになりました。
▶次のページでは、山林を活用する事業にも関わられている馬場さんが、環境保全につながる持続可能な林業のあり方についてもお話くださいます。地方創生の参考になる事例です!