バンカーの視点から~素晴らしい経営者に学ぶ!気遣いの極意
- 2020/10/30
- 経営全般
経営者をタイプ別に分けてみることはあっても、誰もが素晴らしい!見習いたい!と思える経営者はそう多くはいらっしゃいません。その分かれ目はどこにあるのでしょうか?
長年、バンカー(Banker)として数多くの経営者と関わってこられた飯田昌宏氏の視点から、素晴らしい経営者が備えている共通点について、ご自身の体験談も交えながらお話しいただきます。
経営者の資質は気遣いにあり!
地域金融機関に40年近く在籍してたくさんの経営者のみなさまにお世話になり、また多くのことを学ばせていただきました。その中でも特に印象に残ったことをいくつかご紹介させていただきます。
誠意には誠意で応える
ある社長が暮れのご挨拶に来店されたときに伺ったお話です。
その社長は、毎年1月3日にタクシーを1日貸し切り、お仕事をいただいている大手企業の部長たちに新年の挨拶周りをしているとのことでした。事前にだいたいの訪問時間をご連絡して、ご了解をいただいて訪問されていたそうです。
その社長が「いろいろな部長がいましたよ」と話してくれました。
まず訪問してもどなたもいらっしゃらないお宅。
次に、部長が在宅でご挨拶できたお宅。
部長はご不在でしたが、奥様が対応してくれたお宅。
そして最後に、ご夫婦で社長を出迎えてくれ、帰る際はタクシーが見えなくなるまで見送ってくれたお宅があったそうです。
その社長曰く…
「事前に了承をしていても、お正月だから急用で出掛けることもあるかもしれないが、ご夫婦で出迎えてくれて最後まで見送ってくれた部長は出世していったよ」と。
どんなに小さな会社でも、その会社のトップが挨拶に来るという重みをどう感じ取るかで対応に差が出てしまうのかと考えさせられました。誠意に誠意で応えることこそが信頼を築く近道なのだろうと…。
このお話を聞いた後は、事の意味をよく理解して、公私にわたり実践しています。
相手を責めるより徳をとる
よく会議や総会等で資料が配布されます。その資料の名前に誤植があったりすることも少なくありません。
私の隣に座っていたある社長は、ご自分の名前に誤植があったにもかかわらず、その場では何も言いませんでした。その会が終わってから、周囲に知られないように担当者にそっと誤植があったことを話している社長。その姿を見て感動したことがあります。
とかくその場で、「字が違うよ」とか「名前が違っているよ」と言ってしまいがちですが、相手を気遣い恥をかかせないことや、場の雰囲気を壊さないことの方を優先されているのだと感じました。これ以降は私もこの社長を見習って行動しています。
経営者は2つに大別できる
当たり前といえば当たり前なのですが、金融機関とお取引をしてくださるお客さまには、いろいろな方がいらっしゃいます。
たとえば、金利でコロコロ金融機関を変えてしまうお客さま。いろいろなことで交渉等はあるものの、お取引を継続してくださるお客さま。
後者は誠実で信用できるお客さまが多く、時間をかけて信頼関係を構築していくことができます。一方、お取引先をコロコロ変える方は、金融機関のみならず他の業種でも、あまり信用されない方が多いようです。
たまにですが、お客さまの事務所に行くと、政治家や芸能人とのツーショットの写真を飾っている方がいらっしゃいますが、それが信用に繋がっているかと言えば、そうではありません。能ある鷹は爪を隠すという諺があるように、仮に有名人との親交があっても真の経営者は、表彰状は別として有名人とのツーショットの写真を飾ることはしません。そういう写真を飾るという行為は、自分に実力がないことの裏返しと受け取られる可能性もありますから。
もちろん、お気に入りのツーショット写真を置くな、と言っているわけではありません。あくまでさりげなく置き、話のネタになればよいのではないでしょうか。
また、事務所の玄関とお手洗いの清掃(整理、整頓、清潔)が行き届いている会社は、事業も上手くいっていることが多かったように思います。
信用を失わないためにできること
ついでに嫌われる経営者のことをお話すると、約束の時間に訪問しても不在だったり、約束の時間に大幅に遅れてきたり、面談中に離席してなかなか戻ってこなかったりする経営者は、あまり評判が良くない場合が多いです。
また、訪問後に掛かってきた電話で長話をして商談にこぎつけない経営者はあまり信用できませんし、あまり良い噂を聞きません。そのようなケースでは、お取引自体もスムーズにいかない場合が多いような気がします。
お仕事の急な連絡もあると思いますが、その際は、例えば「10分程待ってください」とか「来客があるので後程電話する」などの対応をとって頂けると気持ちの良いものです。
人間関係を円滑にする3つのポイント
最後に、私がプライベートで親交のある著名なアナウンサーご夫妻から直接注意され、アドバイスされたことをご紹介します。これらは、簡単そうで意外に出来ていなかったために、それ以降は肝に銘じて実践していますが、人間関係を円滑にするうえで役立つ大切なポイントだと思います。
①誰かを傷つける悪ふざけはジョークではない
身体についての指摘はジョークにならないということです。例えば、髪の薄い方に向かって「眩しい」とか、足の短い方に(日本人は往々にして短足ですが)「足が短いね」「胴長だね」と言うと、当の言われた方はその場は笑ってやり過ごしますが、内心気にしているものです。
私は学生の時に当時やや髪の薄かった某アナウンサーに面白半分に「眩しい」と言ってしまい、後で奥様から今後そのような発言は慎むべきだと諭された経験があります。その時はほんとうに穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい思いをしました。これ以降は身体に関しての発言は一切しないようになりました。
②礼を尽くすことの意味を知る
車で送って頂いた場合は、お礼の挨拶をして直ぐに家(事務所)に入るのではなく、その車が見えなくなるまでお見送りすることです。また、自分より目上の方が先に車から降りる場合は、車内で挨拶するのではなく、一度一緒に車を降りてご挨拶して、それから改めて車に乗るようにしています。
③所作は人の価値を表す
座っている際にお客さまや目上の方がお見えになった時には、座ったままご挨拶するのではなく、きちんと立ってからご挨拶するようにとも教えられました。礼儀としての立ち振る舞いは、形ではなく敬意の表れであるべきということでしょうか。
以上、私の経験したことや教えられたことで特に印象に残っていることをお話させていただきました。
「信用」を得るまでには時間が掛かりますが、築いてきた「信用」があっという間に崩れ去るということも見てきました。
意外にも人としてやってはいけない些細なことで、「信用」を失ってしまうケースが少なくないように思います。