士業のサイトがなぜだめなのか?
- 2021/2/3
- 経営全般
弁護士や公認会計士、行政書士、弁理士など専門資格職業である士業は、一度なってしまえば安泰と思われがちですが、士業界にも淘汰の波は確実に押し寄せているようです。その生き残りのためのヒントは、マーケティングをはじめとしたweb施策にあり、士業にもブランディングが不可欠だと警鐘を鳴らすのは、中小のスタートアップを中心に、リサーチ・マーケティング支援に取り組む株式会社まーけっちCEO 山中思温さんです。士業の構造的問題とそこでの生き残り策についてお話しいただきました。
目次
士業系のWebサイトが似通っているのはなぜか?
弁護士・税理士事務所など、士業系のWebサイトは、なぜ、判を押したように同じようなデザインと内容が多いのでしょうか。テンプレートのまま使用していたり、自分のプロフィールくらいしか載せなかったりと、サイト制作に注力しない事務所が散見されます。
士業系のマーケティングは、一般業界と比べて5年遅れていると言われていて、WEBシステムの利用やマーケの浸透がやっと起きてきたところです。ことSNSマーケティングに関しては、ここ1年前くらいから始まったばかり。こんなことを述べると、お叱りを受けるかもしれませんが、士業がデジタルツールを活用しない要因を紐解くことで、業界の構造的な課題が浮き彫りになるといえるのではないでしょうか。
士業系のマーケティング課題
マーケティングなんかなくてもいい?!需給バランスの落とし穴
士業系は、企業にとって不可欠な存在であり、かつ資格者でなければ対応できない業務も多いため、需給バランス的に優位な立場にあります。そのため、無理して信頼関係を作らなくても、作業をきちんとこなしてさえいればくいっぱぐれることはそうなかったのです。
また、紹介による依頼が多く、拡大するためのマーケティングの発想が起きにくい土壌があります。特に、あまり相性の良くない顧客への対応が必要になったり、安い単価で受けてクオリティが下がってしまったりすると、クレームの原因になるので、新規の顧客開拓には積極的でない傾向も見られます。
リテラシーの欠如?
弁護士は2000年まで業務広告が規制されており、他の士業も業界団体からの広告規制を余儀なくされていました(公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」参照)。よって、営業やマーケティングをしにくい面も否めず、リテラシーを育むための歴史が浅いのです。また、社労士試験の合格者の9割は30歳以上(「令和2年度社労士合格者のデータ」より)、弁護士の平均年齢は40歳代(「弁護士白書2019年版」より)、税理士にいたっては平均年齢が60歳以上(日本税理士会連合会「第6回税理士実態調査報告書」より)のため、他の業界と比較すると、若手が少ないといった特徴も要因の一つです。
若いうちにマーケティングなどの試行錯誤を踏まないと、どうしてもWEBやテクノロジーの浸透が遅くなってしまい、マーケティングを取り入れることが、現実的な選択肢としてイメージしにくくなってしまうのでしょう。そのうえ、先生と呼ばれる立ち位置に慣れてしまい、新しいことを人に教わることを良しとしない傾向も見られます。
拡大よりスマートさを重視?!
士業系は、最初は見習いからスタートするため、ブラックな働き方をさせられるケースも多く、独立したらホワイトにとワークライフバランスを重視する方が多いようです。その結果、事務所を拡大したいというマインドの人が少なくなってしまうのでしょう。
また 国家資格を取得したという自負があり、プライドが高い傾向も見られます。専門職のため、マーケティングや、経営・組織拡大のノウハウがなくて当たり前なのですが、マーケティングなど拡大のための取り組みを進めたくても、プライドが邪魔をして外部を頼りにくくなっているのです。
課題事例~国際案件対応のケース
よくある課題ケースについて、税理士でありながら、SNS発信も活動的に取り組んでいる、スタートアップ税務専門家 ベクトルズ会計事務所代表の藍原博也氏に話をお聞きしました。
せっかくの差別化できる強みをアピールできない
海外不動産・海外金融商品の会計・税務の取り扱いに関しては、現地税制の絡みで商品の設計自体がそもそも複雑なのに加えてドキュメントが全て英語になっており、税法判断をする上で前提となる取引を理解するのが非常に難解です。結果として誤った税務申告になってしまい、過大な納税をしているケースが見受けられます。
このように、クライアント側は国際案件に強い、英語対応ができる税理士を探す必要性を感じており、タイミングよくよい税理士に出会えれば上記のような現象は防げます。しかし、クライアント側からすると、税理士は皆一律に経験も知識も同じで違いないように見えるため、ミスマッチが生じており、その原因は、税理士が個々の特徴を上手く打ち出せていないことにあるように思えます。これは、非常にもったいないケースです。
士業系顧客開拓の戦況が変わり、マーケティングが不可欠に
そんななか、ここ3~4年で、WEBマーケティングをやりたいという声が士業の方々の間で増えているようです。
その理由としては、主に以下のような課題を解決することへの期待があるからでしょう。
- コロナの影響で顧問料を下げる傾向が続いている
- 税理士や社労士はAIにとって変えられる可能性が高い
- 税理士は人数が増えており、供給過多が加速している
- 既存のイベントからの伝手が使いにくくなった
士業に携わる方の理想が、継続的な顧問契約が取れ安定収益を得ることや、気にくわない人の案件を受けずに済み、本当に支援したいクライアントだけに絞って顧問になることだとすると、マーケティングによって、絞ったターゲットへピンポイントで強みを打ち出していくことはむしろ大変有効といえます。しかし、マーケティング戦略の必要性に気付かないケースがいかに多いかという現実が構造的な課題を物語っています。
士業系マーケティング・ブランディングはどんな手法がいいのか
ではどうすると良いのでしょうか。
根本は、個々が差別化要素を明確にして相手企業に対し打ち出していくことです。これは士業系に限らず、どの業界・業態においても最も重要なことだといえます。例えば、補助金・持続化給付金などで企業を支えるための十分な知見と経験がある、相手先企業のビジネスへの理解が深く専門的にコミットできるなどです。
認知と理解のためのツールの活用
その上で、下記の手法などで、潜在顧客に伝え、認知と理解をして貰うとよいでしょう。
- セミナー
沢山の事例がノウハウとなり差別化要素となる。お客様といい関係で深く関わることができ、対外的なコンテンツが増えて好循環を生み出す。 - WEBサイト
紹介が強い業界だからこそ、紹介しやすくなるような説明が充実したwebサイトが必要。採用向けにも効果を発揮するため、差別化を図るうえで非常に重要なツールとなる。
- イベント
オフラインセミナーや相談会など、直接アピールできるプラットフォームとなる。 - コンテンツマーケティング
ブログなどで、自身の言葉で語ることができる。
例えば、ノースブルー総合法律事務所は、高い頻度で専門的内容のわかりやすい解説をブログにアップし、顧客からの認知や信頼を獲得している。
差別化要素を明確に!
また、何に特化しているかということを明確に伝えることも重要でしょう。
★差別化要素例
- 英語対応(翻訳など)
- 国際的な法律の違いの理解
- 海外不動産
- 相続や事業承継
- ビジネス理解コミュニケーション
- メンタリングによる指導・支援
士業系で生き残るために今やるべきこと
事務所としては、資格を持ったプロでない人でもできることは回せた方がコストを下げられるメリットがあります。そういった組織作りと併せ、経営やマーケティングなど、より理想像に沿った在り方に近づく為の取り組みが必要です。
クライアントの探し方・パートナーに関しても、より支援したい企業と接点を得られるようにより継続的に支援できる仕組みを作ることが不可欠です。マーケティングが苦手だけどやりたいと考えるのであれば、片手間ではなくきちんと強みを打ち出しましょう。他の人や組織と違う良い面がある士業の方はその利点を認知してもらえるよう、いまこそ、経営やマーケティング視点を踏まえて取り組むべきです。