〝見切り〟のスキルを磨き成功と幸せを呼び込め
- 2021/5/28
- 経営全般

新型コロナウイルス感染症の収束が見えず、先々の需要の回復が見通せないことから、M&Aや廃業を考える中小企業経営者は多いようです。しかし、自力再建の断念や事業縮小の決断を先延ばしにすると、次のビジネスに挑戦する機会を失うどころか、周りの人を不幸にする事態を招いてしまいます。
連載となる本稿の第1回目「ROI 20%を経営指標に」、2回目「働き方改革を機にストレッチ企業となれ!」に続き、完結編の3回目は、成功する経営者のマインドとスキルについて、多数の起業家を指導されてきた井上さんの論考を紹介します。
目次
幸せになるための手段として事業を捉える
税理士の立場から時折見てしまいます。ボロボロの会社にいつまでも執着し、捨てることができない不幸な経営者たちを。事業を見切るタイミングがわからない、決断をズルズルと先延ばしにしている人たちです。今週も、裁判所からの破産通知が来ていました。破産通知とはつまり、相手にとっては汗の結晶である債権(=金)を合法的に踏み倒すという通知です。この経営者はもうすぐ70歳ですから、破産通知はその人の人生の通知表そのものでしょう。残念なことです。
経営以前の前提はなんでしょうか。私たちは幸せになるために生まれてきました。すべての前提は、幸せになることです。事業は幸せになるための道具。所詮は手段です。事業が経営者や経営者の周りの人を不幸にしているなら、とっとと経営を見切るべきです。捨て去るべきです。事業に価値が残されているなら、早く人に譲るべきなのです。手を打たず、後のことも考えられなくなって、立ち尽くしてしまう経営者。脇で見ていると、本当に愚かしく感じます。
成功する経営者に必須の〝見切り〟スキル
ビジネスは、必ず停止条件を決める。引退の年限を決める。うまくいかなかったら辞める。朽ちていく経営にダラダラと経営資源を留めずに他の人に譲る。後継者を指名して潔く後進やライバルに道を譲る。売れる事業ならM&Aで売却する。担保不動産があるならさっさと売却する。借り入れは潔く返済する。「もう少しがんばったら状況がよくなる」「もう少しよくなったら高く売れる」、こういった考えでは私は甘いと思います。決断を先延ばしにすることで、状況をますます厳しくし、周りの人たちをますます不幸にします。
経営のセンスとは、見切る能力と度胸です。これは人生の達人にも言えることです。「諦める」と言うと、消極的な逃避のように感じてしまうかもしれません。自律的な言葉に言い換えれば、「見切る」「捨てる」「選択と集中」ということでしょうか。
見切る=諦める。この言葉は、夢や目標が多い欲深い経営者には受け入れ難い言葉でしょう。なぜなら、欲深な肉食人種だからこそ経営者の適性があるのですから。しかし事業は、手段であり人生の通過点です。
幸せになりたいなら現実を受け入れるべし
自分の人生を幸せにするために、人生を有意義に送るために、仏教には「諦め」という教えがあります。僧侶の釈徹宗※さんは、仏教の奥義は「諦め」、言い換えれば「現実を受け入れること」だと言います。私たち人間は、それぞれ生まれ落ちた境涯そのものが不公平ですし、元来仏教は、私たちは無常の世に生きていると教えています。
「生きるというのは、思いどおりにならない事態を引き受けねばならないということ」(釈徹宗)。
幸せに生きるということは、現実を直視することです。たとえ思い通りにならないことでも、受け入れなければなりません。人生も経営も同じことです。幸せや成功の議論は尽きません。
※1961年生まれの日本の宗教学者であり、僧侶。浄土真宗本願寺派如来寺住職で相愛大学人文学部教授。専門は比較宗教思想・人間学で、特定非営利活動法人リライフ代表でもある。
「3割打者」は成績優秀者を意味する
ビジネスの成功打率とは、どのくらいなのでしょうか。私が仕事を始めた20年以上前。当時、日経新聞社から『会社の寿命』という本が出ていました。当時でも、会社の寿命は20年でよいほうでした。現在ではもっと短くなっているでしょう。生き残り成功した経営者は、声を発することができます。しかし失敗し消えていく経営者に、自らのことを声にする人はいません。毎日マスコミが話題にする経営者は、そのほとんどが成功した人です。なにも言わず、声も発しないで消えていく経営者がどれだけ多くいることか。
ビジネスから少し視野を広げてみれば、イチローでも打率3割で天才です。打率が3割に戻ると、メディアが話題にします。「3割」という数字は、考えてみればとてつもなく素晴らしい数字なのでしょう。あの天才・イチローでも、10回打席に立てば7回は失敗するのです。凡人の私たちは、イチローではありません。失敗することを前提に、経営を組み立てなければなりません。1回経営を失敗しても、次の打席にも立てるように、準備をしなければいけないのです。
“次に来る幸せ”ために“不要な今”を捨てよう
次の打席に立てる程度に失敗を留めてください。すべてを失ってしまうような失敗は、絶対に避けてください。ビジネスがうまくいかなければ、球団を変えればいい。球団を変えるということは、私たち経営者にとっては、ビジネスモデルを変えるということです。すべて、“次”があるように“今”を捨てなければいけないのです。幸せになるように、捨てなければならないのです。なぜなら私たちは、幸せになるために生まれてきたのですから。
出典:井上一生著「経営道」eiaishuppan.Kindle版
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。