人を大事にする企業は、採用から退職までのフローを仕組化している!

この記事を読むのにかかる時間: 5

会社への入り口となる採用から、出口である退職までを仕組化し業務フローとして捉えることで、企業の業績が上がり、人を大事にする組織が生まれる。中小企業を中心に、人のフロー化の実装を支援する宮子労務管理事務所所長の宮子智子さんは、企業の成長に欠かせない「人」との関係性を客観的視点からご説明くださいます。将来的な事業計画やリスク管理などにも関わる企業と「人」との関係性について、改めて学ぶ機会となる内容です。

入り口(採用)から出口(退職)までを仕組化する

「人が大事」

会社において、当たり前すぎる話です。
会社の資産となる「人」の採用、定着・育成、そして退職。
この一連の流れを業務フローとして考える企業はどのくらいあるでしょうか?

今は採用難と言われています。
そのため、企業は給与を上げたり、必要以上に処遇や福利厚生を見直したりして、「とにかく採用したい」と頑張ります。
この気持ちは中小企業事業主である私もよくわかります。

その上で申し上げたいのは、採用だけで会社は成長しない、今いる人が気持ちよく効率よく働く環境を作ることが大事だということ。
弊社の顧問先では「業務効率を上げたら採用しなくても業務が回るようになった」「業務フローを整理したら必要な人材が明確になって採用しやすくなった」という声を聞きます。

採用段階(もっというと採用前)から、「人」に焦点を充てた自社の業務フローを作っておけば、結果としてその会社にとって必要な人材が採用でき、人は成長し、会社も成長するという好循環になるのです。

入り口(採用)で選択するための環境整備

いくら採用したくても入れる人を間違えると社内が混乱します。
会社にとって必要な人が退職してしまうこともあります。
社内全体の空気が変わり、業務効率が落ちる・・そんな会社を多く見受けます。

入社する人も同じです。
入社する会社を間違えると自分のスキルを活かせませんし、成長できません。
そしてモチベーションが落ち、やる気を失います。

とかく企業は採用難になると給与を上げ待遇を良くしようとします。
私も採用お手伝いすることがありますが、「採用難」と言われれば言われるほど「給与をいくらにしたらいいんだ」「どんな評価制度を作ったらいいんだ」「どんな福利厚生が必要なんだ」というご質問を受けます。
これらがある意味正しい一方で、今、社内で貢献している人のためではなく、「採用するための給与・人事制度・福利厚生」であることには、違和感を覚えざるを得ません

今、働いている社員に目を向けよう

今いる社員たちが気持ちよく働き、その環境が良い循環を招いて新しい人材が入ってくる。
この流れが好循環であることを忘れては危険です。

採用の時にこそ「自社の価値観や理念」をきちんと伝え、「入社した際の働き方」について共通認識を持って、入社への入り口をコントロールしなければなりません。
採用コストが1人につき100万円かかると言われる時代です。
にもかかわらず、採用された本人も、受け入れる側の企業も幸せでないといった状況は、やはり健全ではないと思います。
大切なのは、たとえ応募の数は少なくなっても、求める人材は入り口できちんと絞って採用すること。

採用とは経営と全く同じです。
経営において選択と集中が常に求められるように、採用においても、どんな選択をし何に集中するのかを明確にすることで、企業とともに成長できる人を採用することが可能になります。

育成し定着させる各段階での教育

次に、採用した社員が定着するためには、採用から退職までの間、つまり育成・定着、そして社内でのトラブル防止といった様々な局面でフォローすることが必要です。
入社初日、あるいは最初の休日前、1か月後、そして半年後、1年後、と段階的に見合った細やかなフォローをしながら教育し、定着を図ります。
この過程を経ず「入社したら放置」すると、採用に掛けたコストをすべて無駄にしてしまうことにもなりかねません。

求める人物像を明確にしよう

人を育成するためには「どんな人材に育ってほしいのか」「どんな教育が必要なのか」を採用する前段階から明確にしておくことです。
そこに合致するかどうかによって、個々人に応じた給与や教育の仕方も変わっていきます。
そのうえで組織をまとめていく。
これが定着・育成・トラブル防止に重要な流れです。

例えば、中小企業では「家族の顔が見えてしまう」「明日から指示に従ってくれないかも」「退職されてしまうかも」など、評価基準とは関係のない理由で評価を公正にできない上司が多くなっています。
結果、評価は、頑張っても頑張らなくても、成果を出しても出さなくても変わらないので、モチベーションを落とします。

適材適所の人材配置

中小企業ではポストが足りないという問題だけでなく、最近ではそのポストに就きたくない、あるいは文句は言うけど動かない、という社員が増えているようです。
組織内の適材適所を考える際に、どんな対応をすればよいのでしょうか?
「訴えられたら困る」「面倒くさい」などと放置するのは禁物です。
「放置をする=このままで良い」と解釈されてしまったら・・自社に必要な人から辞めていくことになって、会社は成長できなくなるのです。

そこで必要なのが、公正な仕組みを作ること。
出来る社員を社内独立させて自由に動けるようにする。
文句の多い社員は社内独立させてやりたいようにやらせてみる。
第三者機関に評価・相談・周知・説明をアウトソースする。
このような方法も選択肢の1つです。


目的は適材適所と体験です。
会社によっては、「スキルを磨きたい、残業時間関係なく働きたい」という人を社内独立させて経営者として教育する仕組みも徐々に増えています。
労働者から経営者になれば、残業規制はなくなり責任感も生まれます。

いろいろな施策の中で、自社にとって必要な人材が社員又は子会社の経営者として定着する仕組み、活かし方ができるのです。
結果、会社の価値観・理念に沿って一緒に成長できる人が残ります。
一方で、会社の価値観・理念と合わない社員は居心地が悪くなって退職するでしょうから、会社の雰囲気も社員のモチベーションも上がり、会社の成長につながります。

退職(出口)をより良い次へのステップとするために

最後に、出口となる退職とは何かを考えてみましょう。
いくら入り口でコントロールしたとしても、人の気持ちや会社の方向性が変わることは多々あります。
理念は同じでも目標が変わったり、社会情勢が変わったりすることによって、会社の中身も変わっていきます。
そこに順応できない社員が出てくると、「退職してほしい」「やめさせたい」といった相談がよく持ち掛けられます。

弊社では、「自社に合わないから辞めさせたい」「問題になったから辞めてほしい」といった理由のご相談はNGです。
なぜなら、入り口・定着・教育・フォローなどいろんな準備段階で、その社員が辞めることによって社内にどんな影響があるか、それまでどんな関わり方をしてきたか等を踏まえたうえで、お互いにとって「退職という手段」がベターならその方法を考えるべきだからです。

本人にとって、もっと自分を活かせる会社があると考えるのであれば、そこへ辿り着くための方法を一緒に考えます。
一方で会社側も、その社員が退職に至った原因がどこにあるのかを明確にして再発防止を図ったうえで本人と話し合っていく必要があります。
だから、弊社の顧問先では退職でもめたり、裁判になったりした事例が1件もないのです。

そしてもう一つ、効果的なのが「退職勧奨」という仕組みを使うことです。
退職勧奨とは 会社から社員に退職を勧め合意を得ることです。
失業給付の扱いは「会社都合」になりますが、会社にとっては解雇ではなく円満に退職してもらえるので社内の混乱もありません。
助成金等は一定期間受給できないものの、円満にトラブルなく退職すれば、無用な手間・時間・コストがかからないうえ、後日「不当解雇」といわれる可能性もほぼなく、円満に双方が次の道へ進めるのです。

最後に

中小企業にとって人が定着するには、「採用から退職まで」の各段階で、どのような業務フローを作りコントロールしていくかが重要になります。
そこに注力することによって人を最大限生かし、トラブル等によるマイナス効果を最小限に抑えられ、会社の成長を促す最大効果を得られるはずです。

宮子智子
宮子労務管理事務所 所長
株式会社LM&C代表取締役
株式会社Share Intelligence代表取締役

投稿者プロフィール
平成9年1月社会保険労務士事務所開業。
平成19年コンサルティング部門を独立させ、株式会社LM&Cを設立。
令和2年9月に資金繰りに特化した株式会社Share Intelligenceを設立。
一貫して中小企業、特に50人未満のオーナー企業に特化して関わっている。
・ここ数年は東京都事業承継促進事業の専門委員として事業承継・M&Aに寄与
・わかりやすい説明、実績的かつ即効果につながる手法は全国の商工会議所・業界団体からのセミナー依頼が10年超継続していることからも明らかである

関連記事

ピックアップ記事

  1. 「PR」と聞くと、企業がテレビやラジオなどのメディアで流すイメージCMや、商品やイベントなどを情報発…
  2. 決算は、株主、投資家、金融機関など、外部のステイクホルダーに会社の財政状態・経営成績を伝達する役割を…
  3. ブラウザで作れる履歴書・職務経歴書「Yagish」ヤギッシュで人気の(株)Yagishが、企業の採用…

編集部おすすめ記事

年別アーカイブ

ページ上部へ戻る