【書評】2030年 未来の予兆はどこにある?「水平思考」でチャンスを掴め

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2030年、世界の消費スタイルは、今とは異なったものになります。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール教授のマウロ・ギレンの『2030世界の大変化を「水平思考」で展望する』は、アジアやアフリカなどの新興国の今後10年間の変化に力点を置いた予測本です。本書が主張するような、消費の中心が欧米からアジア・アフリカに移り、世界の富は男性より女性の方が多く持つようになると、私たちの暮らしにどのような変化がもたらされるのでしょうか。コミュニケーションデザインや企業支援コンサルタントのエキスパートとしてご活躍の書評ブロガー、徳本昌大氏の書評でご紹介します。

 2030:世界の大変化を「水平思考」で展望する
著者:マウロ・ギレン、翻訳:江口 泰子(早川書房)

本書の要約

2030年には、インドとアフリカの人口が増加して購買力が高まり、高齢者人口も増えて14億人の市場を形成します。新たな需要と技術革新によって、なくなっていく職業がある一方、新たに生まれる職業も出てきます。経営者は今後、変化のシグナルを察知し、様々なデータを活用して水平思考に基づき戦略を立てるようにすべきです。

※水平思考(Lateral thinking)は、心理学者のエドワード・デボノによって1967年に提唱された直感に基づく思考方法。順序立てて論理を積み上げる垂直思考(論理的思考)に対し、常識や既成概念にとらわれず、自由で斬新な発想でアイデアを生み出し問題解決を図ろうとする考え方を水平思考とした。

世界の主役がインドとアフリカになる

私たちの知るそのような世界は急速に消えつつあり、目の前に広がるのは、新たなルールが動かす、ひどく困惑する新たな現実だ。いつの間にか、ほとんどの国で祖父母の数が孫の数を上まわる。アジアのミドルクラス市場が、アメリカと欧州を合わせた規模をしのぐ。男性より女性のほうが多くの富を所有する。ふと気がつくと、産業ロボットが製造労働者の数を超えている。人間の脳よりコンピュータのほうが多くなり、人間の目よりセンサーの数が増え、国の数より多くの通貨が出まわる。それが2030年の世界である。

私たちは未来に起こる変化を知ることで、その変化をチャンスに変えられます。人口データや都市の変化、イノベーションの推移を予測できれば、ビジネスのヒントを見つけられるようになるのです。 2030年は先が見えない未来ではありません。

本書が描く未来像の影響を受ける人は、すでにそのほとんどが生まれている。彼らの学歴や現在のソーシャルメディアの利用パターンを考えれば、消費行動をおおまかに描き出すことは可能だろう。あるいは、80~90歳まで生きる人の数についてもかなり正確に算出できる。また、現時点でそれなりに確かな自信を持って予測できるのは、一定の割合の高齢者が介護者──人間にせよ、ロボットにせよ──を必要とすることだ。後者の場合、そのロボットは様々な言語を多様なアクセントで話し、自分の意見は押し通さず、休みは取らず、高齢者の金融資産を騙し取ることもなく、精神的や身体的に虐待することもない。

現在は中国と東南アジアが新たなマーケットとして注目されていますが、今後、マーケットは2つの大きな柱を持ちます。エリア的には最大の人口規模になることが予測されるインドとアフリカ、年代的には人口がもっとも多くなる高齢者にフォーカスした企業がシェアを高めていきそうです。

存在感を増すグレーマーケット

役に立つのは、新たな時代へと向かう変化を、ゆっくりと進行するプロセスだと捉えることだ。一つひとつの小さな変化が私たちをパラダイムシフトへと近づけ、ある日とつぜん、何もかもを大きく変えてしまう。つい忘れがちだが、小さな変化は積み重なる。変化を、ゆっくりと容器を満たしていく一滴の水だと考えよう。

2030年に焦点を合わせると、南・中央アジア(インドを含む)は人口規模での世界1位は確実なようです。2位はサハラ以南のアフリカ、僅差で東アジア(中国を含む)が3位に後退。東南アジア(カンボジア、インドネシア、フィリピン、タイなど)が4位、ラテンアメリカが5位と続いて、1950年に世界第2位を誇った欧州は6位に転落してしまいます。

ケニアやナイジェリアのようなサハラ以南の国でも、出生数が減ることは間違ありませんが、それでも、ほとんどの国と比べ出生率ははるかに高くなります。と同時に、新興国における平均寿命の著しい延びは、人口規模を推測するうえで重要なポイントとなるのです。

10年もしないうちに最も大きな世代となるのは60歳以上だ。今日、その世代がアメリカの富の80パーセントを所有し、「高齢者市場(グレーマーケット)」が生まれつつある。彼らこそ最大の消費者層だ。改めて高齢者にも焦点を合わせておかなければ、大企業も中小企業も時代に取り残されてしまう。

ボストン・コンサルティング・グループの試算によれば、成長するグレーマーケットへの準備ができている企業は7社に1社しかないことがわかっています。既存企業もスタートアップも、ほとんどの技術、マーケティング、セールス部門が若者をターゲットにしていますが、今こそこのグレーマーケットに商機を見いだすべきです。

今後も世界的に少子高齢化が進み、富は都市に集中します。現在、世界中で10億人いる60歳以上のグレーマーケットは、2030年頃には14億人に増加し、購買力は20兆ドルにも達すると言われています。

若者だけにフォーカスするのではなく、グレーマーケットの動向をしっかりと把握し、チャンスをものにしましょう。女性の教育レベルが上がり、収入も増え、女性の富裕層が今後増加していくことも見逃してはなりません。

未知の脅威をチャンスに変える「水平思考」

来たるべき2030年に向けて、著者は以下の8つの視点から世界を展望することが重要だと主張しています。それらを個別に考えるのではなく、まとめて捉えることで、新たなチャンスが見えてくると言うのです。

  1. アフリカのベビーブーム
  2. 経済社会における高齢者(グレー)の購買力
  3. 中国やインドなどアジアのミドルクラス拡大
  4. 女性の所得増と地位アップ
  5. 地球温暖化時代の都市の役割
  6. スマホによる技術革新・創造的破壊
  7. シェアリングエコノミー
  8. ブロックチェーン・仮想通貨

人間の視界と同じように、企業やいろいろなタイプの組織も効果的に機能するためには、中心視野の周辺から入ってくるかすかなシグナルを察知して解釈し、それに基づき行動しなければなりません。著者がピックアップした8つの未来の予兆から、水平思考を養い、自社の戦略を組み立てるようにしてはいかがでしょうか。

徳本氏の著書「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)

出典:徳本昌大の書評ブログ!毎日90秒でワクワクな人生をつくる「日常に多様性を取り込むために重要な3つのこと」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

徳本昌大
Ewilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
iU 情報経営イノベーション専門職大学特任教授

投稿者プロフィール
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。
現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動するなか、多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施中。
ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。
マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

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