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“新しい日本酒”目指し試行錯誤
「ワイルドサイドを歩け」をコンセプトに
――辛い時期が長く続いたのですね。
馬宮氏――はい。東京から帰ると、幼い娘たち3人が聞くんです。
「お父さん、お酒売れた?」と。
心配してくれていたんですよね。
私は1本も売れなかったとは言えず、「たくさん売れたよ」と嘘をついていました。
正直、何度も辞めようと思いました。
でも、娘たちの「良かった、 良かった」と嬉しそうな様子を見ると、「もっと頑張って、何とか蔵を続けなければ!」と気を取り直すことができ、結局ここまで踏ん張ってこられたのだと思います。
――状況を打開するにあたって、ぶれないための軸になったことはどのようなことでしょうか。
馬宮氏――日本酒業界の保守的な常識や既存の価値観にとらわれず、新しい日本酒を造りたいという思いを強く持っていて、そこは終始変わることなく試行錯誤を続ける原動力となりました。
苦しかった当時、自分の酒造りのコンセプトを、「ワイルドサイドを歩け」と決めました。
アメリカのミュージシャンであるルー・リードが1972年に発表した代表曲ですが、「自分の歩きたい道があるなら危険を犯してでも、歩き続けることは楽しい」というメッセージに影響を受けたのです。
自分の不動のポリシーとし、三芳菊の世界観も重ね合わせています。
酵母や麹の造りを見直し、蔵も改装
――今までにない日本酒を提供するという強い信念をお持ちだったのですね。酒造りにおいては、具体的にどういった点を変えていこうとされたのですか。
馬宮氏――味わいとしては、水とアルコールと香味成分の調和をめざしています。
言い換えると「現代人の舌にあった日本酒」で、アルコール感を感じずに飲める日本酒とも言えるかと思います。
そのために、酵母についても見直し、「徳島県酵母」を開発しました。
使ってみたところ、濃厚で甘い香りが強く出たので、それに負けずバランスが取れる味わいにしようと麹の造りや仕込みの段取りなども考え直しました。
お酒を醸す酵母がよく発酵できるよう、5年掛けて酒蔵を改装するなど、環境づくりにも力を入れました。
ラベルをポップに、アニメとコラボも
――酵母や麹を見直し蔵も整備されて酒造りの現場が整い、あとは新しい日本酒をアピールしていく方法ですね。御社のボトルは、日本酒業界ではあまり目にしないタイプのラベルが目を引きます。
馬宮氏――味わいはもちろん、見た目でも注目されるものにしたいと考え、ラベルもポップなものにしました。
プロのデザイナーさんにお願いすると変えにくくなるので、友人やラベルを描きたいと言ってくれる方、5人ほどにお願いしています。
こちらから具体的な注文はせず、実際にお酒を飲んでもらって、味のイメージで好きなように描いてもらっているので、どれも個性的ですね。
「日本酒らしくない」と言われることもありますが、ラベルのデザインもひとつのメッセージだと信じています。
――さまざまなコラボも展開していますね。
馬宮氏――ミュージシャンの方やアニメとのコラボも積極的に進めています。
通常、老舗の酒蔵はそうしたことはあまりしませんが、コラボによって新しいお客さんが増える可能性もあるじゃないですか。
これまでに、タツノコプロや「ルパン三世」、BUCK-TICKでドラムを担当しているヤガミさんの誕生日カップ酒などを作りました。
アニメ「刀剣乱舞」のラベルのお酒は、たくさんの若い女の子に買ってもらいました。
でも、飲まないで飾るだけの子も多いようなので、ぜひ飲んでから飾ってほしいです(笑)
ミュージシャンの三上寛さんのお酒は、2015年にうちの蔵でライブをやってもらった時に作りました。
ジャンルミックスで、小回りが利くインディーズ的なことをやっていきたいです。
「飲む会」に女性ファン続々
――そういった新しいアプローチに対して、お客さまの反応はいかがですか。
馬宮氏――香りと酸に独特の特徴がある味わいをめざしているので、「ワインみたい」「こんなにフルーティな日本酒、他にはない」と褒めていただくことが多いですね。
フルーティで飲みやすい日本酒に仕上がったことに誇りを持っています。
うちのお酒はシンプルでわかりやすい味なので、日本酒を飲み慣れない人でも入りやすいのではないかと思います。
ありがたいことに女性ファンも多いので、度々、「三芳菊を飲む女子会」を開いています。
たくさんの女性ファンの方が集まってくださるのは、嬉しい限りです。
今後は、お酒の知識がなくても楽しく飲めて、音楽もあるようなライトなイベントとか、日本酒のハードルを少しでも下げられるようなイベントも作ってみたいですね。
後編では、最新技術を採り入れた挑戦や、地域社会と地酒の関わりを若い世代に伝える取り組みなどについてご紹介します。お楽しみに!