働くことのパラダイムシフトを加速する~採用マーケティング支援
- 2024/12/5
- インタビュー
採用×マーケティングの知見でブランド力を持たない中小企業やベンチャーの採用ブランディング、採用マーケティングを支援する新会社「Evangely(エバンジェリー)」を起業された左近司賢尚さん。急成長フェーズのIndeedで日本の採用が大きく変革していく時期を経験され、順調に成果を上げていた左近司さんが起業にシフトチェンジした経緯やご自身のキャリアについてインタビューさせていただきました。新事業への抱負と、心身の健康のために続けられているブラジリアン柔術についてもお話を伺っています。
目次
起業に至るまでの歩み
目標に向かって一心不乱に仕事をした20代
Z-EN――2024年8月にIndeedを退社され起業された左近司さん。起業に至るまで、どのようなキャリアを築かれてきたのでしょうか。
左近司賢尚氏(以下、左近司氏)――子どもの頃からいつか起業したいという思いはずっと持っていました。
大学時代になるとバイトに明け暮れ、2回留年して社会人になりました。
同級生は先に卒業したので、知らない後輩だらけ。
留年してからは気持ちを入れ替えて勉強し、同年代に追いつけ追い越せという思いがモチベーションになっていました。
そのわかりやすい指標の1つが、30歳までに1,000万円稼ぐという目標でした。
その延長線上に起業というキーワードもありました。
2008年に独立系のSIerに新卒入社し、IBM出身の上司の元で、システム開発、BPO、研修、技術者派遣など、多様なITサービスのソリューション営業として、ビジネスの基礎を学びました。
6年後、ウェブの新規事業に関わったことをきっかけに、インターネットとマーケティングをやりたくなって、不動産系のデジタルマーケティング支援会社に転職。
マーケティングコンサルタントとしてサイトの企画・制作、システム開発のディレクション、コンテンツ制作、広告戦略設計と運用など、様々なことを経験しました。
その後、2016年10月にIndeedに転職しました。
大資本の会社で自分のキャリアを試したかったこと、Indeedが採用市場を大きく変えるタイミングで、業界の変革にワクワクしたことが転職を決めたポイントです。
入社した直後からIndeedの急成長がはじまり、前職のデジタルマーケティングの知見を活かして成果を上げられました。
この急成長期はとてもスピード感があり、組織もどんどん大きくなり…。
試行錯誤をしながら成果を出していくことはとてもエキサイティングで、とても楽しかったです。
もちろん、給与面にも成果が現れました。
転職して初年度から年収1000万円を超えて、20代の時に目指していた目標を1つ達成しました。
当時の具体的な仕事は、人材業界向けの営業から始まり、営業マネージャー、パートナー経営渉外となりました。
主業務は営業や営業マネジメントですが、兼任して、様々なプロジェクトに関わりました。
特にトレーニング系のプロジェクトが多かったです。
社内外に向けて、デジタルマーケティング、ソリューション営業、求人原稿クリエイティブなどのトレーニングプロジェクトをリードしました。
上り詰めた後に訪れたスランプ
――20代の時に考えていた経済的な目標を達成したんですね!そのあとはどのように過ごされましたか。
左近司氏――入社した時は上司に「2-3年で起業します。」と言っていましたが、”起業する”というイメージがだんだん薄れていました。
急成長期に成果を出し、クライアント企業の課題解決や事業成長に貢献して、社内的には昇進昇格して、年収も上がっていくという環境が楽しかったんです。
気がつけば、成果を出して、組織のヒエラルキー的地位を上げることが目標になっていました。
このような環境で仕事を頑張り、成果を上げ、順調にプロモーションしていき、マネジメントレイヤーになった時は、起業するという目標は考えなくなっていました。
順調なようにも思えましたが、この時から、少しずつ違和感を覚えはじめました。
会社が急成長期から安定期に移行し、状況が変化したこともあると思いますが、大きな組織でマネジメントポジションでの仕事をしはじめると、組織の期待値に応えることを目的に働くようになっていました。
元々、興味のあることに関しては、極端にリソースを投入してしまうほど夢中になって勝手に動くタイプですが、誰かにやらされていると感じると、どうしても行動が遅くなる傾向があり、段々と、エキサイティングだったスピード感が落ちていきました。
グローバル企業で待遇や環境も最高、こんなに良い環境は他にはない。
だけど、自分の職業人生はこのままで良いのだろうか…。
それが違和感の正体でした。
モヤモヤした状態で仕事をしているとパフォーマンスも上がりません。
気がついたら、いわゆるミドルクライシスのような、スランプ状態になっていました。
柔術とコーチングで本来の自分を取り戻す
――スランプ状態はどのように脱したのでしょうか。
左近司氏――その時に出会ったのがブラジリアン柔術でした。
当時はコロナ禍で、家から出ず、運動もせず。多分身体的にも良い状態ではなかったです。
柔術を始めて、身体的に良い状態になると、またチャレンジしようという気持ちになれました。
そこで、1年後に、“プロコーチになる”と決断しました。
コーチングは、一言で言うとリーダーシップ開発であり、自身の内発的な動機を深く理解し、それを原動力に自分らしいチャレンジをできるようにすること。
理論を学び、自己適用するなかで、 改めて自分がやりたいことが明確になりました。
やりたいことを実現する手段として、“起業する”という目標を取り戻しました。
いわゆる、一般的に良いと言われているキャリアアップの途中で違和感を覚えてしまった。
だから今すべきなのは、自分らしく生きる決断をすること!
自分を深く理解し、内なる声に耳を傾け、それに従う勇気を持つことを学んだのです。
業界構造への違和感が起業のきっかけに
求職者から選ばれる会社になるにはマーケティング思考が必要
――Indeedの成長期に様々なキャリアを積めたのは、これからの会社経営やキャリアアップにも役に立つご経験だったと思います。Indeedで経験したことのうち、一番糧になっていることはなんでしょうか。
左近司氏――マーケット視点でものごとを考えられるようになったことが大きな糧になっています。
インターネット広告が登場する前は、マス広告かチラシぐらいしかなく、いわゆるマス広告は高額で大企業しか使えませんでした。
中小企業にはチラシくらいしか手段がない状況下で、インターネット広告が登場したわけです。
これまでの広告1枠何百万円~何億円という価格帯から、Googleの登場によって、1クリック数十円〜数百円というモデルに変わった。
ネット広告をうまく使えば、大企業だけじゃなく中小企業も集客やマーケティングができるという、大きな変革がマーケットに起こったわけですよね。
僕は不動産会社のマーケティング支援の会社にいるとき、広告媒体に頼るのではなく、自社でマーケティングできる、いわゆるオウンドメディアマーケティングを不動産業界向けに支援していたんです。
Indeedに入ってHR業界に関わってみると、構造が非常に似ていて、HR業界も媒体依存していることに気が付きました。
媒体型の純広告から運用型広告への変革が、マーケティング・プロモーション広告だけでなく、採用広告でも起こる。
だから、HR業界も媒体依存から脱却し、自社で採用をマーケティング思考で行う、採用マーケティングが広がっていく。
Indeedがその変革を起こすプラットフォームだったわけです。
そのような大きなマーケットの潮流を、Indeedの内部から見られたことで、マーケット視点が身についたと思っています。
このような貴重な経験はIndeedで働かなければできなかったので、Indeedには本当に感謝しています。
これからは「求職者に選ばれる存在」になる必要がある
――HR業界の変革期の中で、マーケット視点で潮流を読む力を身につけられたのですね。今後はどのような変化がマーケットで起こっていくと思いますか?
左近司氏――「人的資本経営」をよく聞くようになりましたが、企業の資本として人が最重要の資本になることでしょうか。
お金も情報も人も、活用するのは”人”なので、 結局“人”が1番重要な資本である、の意味だと思います。
“人”を集められない会社は、資本として1番大事なものがないことになる。
だから、人への投資を最優先に考えて、投資していくべきだと思います。
そのために、会社にとって最も重要な資本である“人”に選ばれる会社になる必要があると思っています。
――今、中小企業も含めて採用コストが上がって、上がりすぎている業界では、粗利が下がって逆に人手不足になり、倒産も増えているようです。求職者に選ばれるには、どうすればよいのでしょうか?
左近司氏――選ばれるための戦略が必要だと考えています。
マーケティングは、商品やサービスを消費者に伝えるためのもの。
採用は、会社や仕事を求職者に伝えるものです。
では、誰に(WHO)、何を(WHAT)、どのように(HOW)、伝えるのかを、考え抜いた上で伝えているでしょうか?
この、誰に(WHO)、何を(WHAT)、どのように(HOW)の設計をすることが大切です。
これまで、求人媒体企業に肩代わりしてもらったり、人材紹介企業に丸ごと任せてしまったりしていたと思いますが、これからの人的資本経営の時代においては、人材獲得の難易度が上がります。
つまり、従来通りの手法では、資本力のない中小企業やベンチャーは、大手との競争に勝てなくなっていきます。
――そうですね。実際、採用のプロセスをDX化できるかは難しいですね。使いこなせていないのもあるのでしょうが、結果的にちゃんと会社のPRをしているところは反応率もいいので、差別化されているという印象も受けますね。
左近司氏――結局、Indeedもスカウト媒体も、有効活用するために重要なのは人的資本市場、求職者とのコミュニケーションなんです。
しっかりとマーケティング思考で求職者とコミュニケーションする機能が必要なのに、 今まで外部に丸投げしてしまっていたから、なかなか社内人事かつ採用の担当者にノウハウが蓄積されない。
採用のアウトソーシングにしても、うまく使いこなせる会社があまりないのが実態です。
▶次のページでは、起業された「Evangely株式会社」で左近司氏が実現したいことについて語っていただきます。