事業投資は不確定要素が高く、不動産や金融商品に比べリスクが大きいというイメージがあるかもしれません。しかし、投資利益率=ROI(return on investment)(※1)20%を遵守することで、事業投資におけるリスクは軽減できると井上一生さんは断言します。税理士でありながら、幾つもの事業を立ち上げてきた連続起業家として多数の起業家を指導されてきた井上氏。著書「経営道」には、ご自身の体験に基づいた実践的な事業投資におけるリスクを軽減する手法や考え方が随所に記載されています。
その一部を抜粋し連載でご紹介する全3回シリーズ。第1回目は「経営道~ROI 20%を経営指標に」です。
(※1)投資利益率=ROI(return on investment)とは、投資した額に対し得られる利益の割合のこと。事業などから得られた利益額÷費やした投資額×100(%)で表わす。
ROI 20%が経営指標
正垣(※2)さんの教えに「ROI20%厳守」があります。中小企業の経営者の側にいる「先生」と呼ばれる人には、税理士が多いでしょうが、税理士は会計の専門家ですから、どうしても決算書上の数値で会社運営を判断する指導が多くなります。それ自体は正しいことですが、経営管理上で経営を縦横両方から見ていくためには、異なる指標が必要です。
(※2)ファミリーレストラン大手サイゼリヤの創業者で同社会長の正垣泰彦氏。
見えてくるのはビジネスとしての是非
ROI20%を厳守すべきことは、税理士が教えないことの一つです。経営資源の乏しいベンチャー企業における全ての投資は、年利20%を超えなければいけません。例えば、製造ラインを作ったら、そのラインから投資利回り20%を稼ぎ出さなければ投資してはいけないということです。初めて「ROI20%厳守」の教えを聞いたときは、そんな無茶苦茶なことができるのかと思いました。正垣さんの教えは、「車にタイヤが4つあるなら、3つにしてでも投資金額を落としてROI20%を厳守せよ」という過激なものでした。
創業時に大きな投資をしても、行うビジネスモデルが成功するかどうか分かりません。まずは最低限の投資によってビジネスモデルが確立できるか実証し、それから正式な投資をするべきという教えだと私は理解しています。今になって考えれば、ROI20%厳守という表現は、教えを強く印象付けるために少し大げさに言ったのかもしれません。
装備を軽くして資金を温存せよ
ですが、サイゼリヤがロードサイドにつくるフリースタンディングの店舗は、どこもペラペラのプレハブでできており、耐用年数は10年と聞きました。ペラペラのプレハブで店舗展開したのは、私が知る限りサイゼリヤが最初だと思います。投資を安く収める。機材を中古で調達する。そのようにして、貴重な資金を温存させ、ビジネスビジネスモデルが変化したときにすぐさま機材を廃棄して次のステップに移れるように、軽装備で居続けることを教えたのです。
ゼロからの起業と軌道に乗った今と
私が独立したとき、先輩から独立のときに必ずしなければならない2つのことを教えていただき、実行しました。私の場合、なにも経営資源を持たない状態からの独立で、ある資源は身体一つだけです。独立して成功したら、値段の書いていないお寿司屋さんのカウンターで、財布の中を気にせずお寿司とお酒を飲めるような人になりたいなぁと思っていました。産まれたばかりの0歳の娘がいて、木造賃貸アパートで暮らしている、そんな29歳の時です
成功をイメージしてほしいものを書き出そう!
先輩から教わり、実行したことの1つは、人生で欲しいものを書き出すことです。独立してなんとか成功にこぎ着けるというイメージを持ちながら、家、別荘、会員制リゾートクラブ、小さくてもいいから仲間で手に入れるヨット、そして乗りたかったボルボの車…などです。また、子どもには勉強させたかったので、中学校から私立学校に入れることが希望でした。
ライフプランと現実の間にはギャップも
基本的な生活費に合わせて、時々に必要な資金需要を書き出します。まだ0歳の娘の成長。もう一人産まれてくるであろう次の子ども。自分の年齢と家族の年齢。それらの数字を書き込み、大きなライフイベントである、子どもたちの受験の準備費と私立学校の入学費・学費も書き込んでいきます。家や別荘など、欲しいものの取得予定日も書き込みました。
結論から言うと、書き出したものは全て手に入れました。現在、会社も大きくなって社員はグループで160人ほどいます。しかし振り返ってみれば、いずれ子どもは家からいなくなるのですから、家を買うことはまったくの無駄でした。今は人に貸しています。経営者は役員社宅に入ればよいのですから、会社の経費で立派な家に住めばよいのです。リタイヤ後は、都心にある病院の近くで、買い物にも便利な小ぢんまりとした中古マンションで十分です。
シリーズ第2回目は「働き方改革を機にストレッチ企業となれ!」でお届けします。
出典:井上一生著「経営道」eiaishuppan.Kindle版
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。