好機を掴む原動力に人心掌握は不可欠
- 2021/7/5
- コラム
幕末の儒学者 佐藤一斎が、経営者やリーダーを支える“重職”のための心得を記した「重職心得箇条」から、8回にわたって紹介していく連載コラム。4回目は、好都合な状況や時期をすばやくつかんで的確に行動するための人心掌握について、一般社団法人数理暦学協会の代表理事 山脇史瑞氏が考察しています。
応機と云う事あり肝要也。
物事何によらず後の機は前に見ゆるもの也。
其機の動きを察して、是に従うべし。
物に拘りたる時は、後に及んで
とんと行き支えて難渋あるものなり。
(重職心得箇条 第5条 佐藤一斎)
重職心得箇条とは、幕末の儒学者である佐藤一斎が、自藩の重役たちに向け、藩の重職の心構えなどについて書き記したもの。第5条では、経営者が決めた方針を実行するため、状況を把握しながらどのタイミングでどんな判断をすればよいのか。重職が自身の役割をしっかりと理解するための心構えを説いています。
機(時機)とは、冷静に状況をみていれば、
ある程度は事前に察知できる。
そのため、的確に察知し、
素直に呼応することが大切だ。
踏み出すことに勇気を持てず、
出来ない理由を探している内に、
その時機を逃してしまうと、
その時は無難に過ごせても、
時間の経過と共に行き詰まり、
どうにもならない事態に陥ってしまう。
後悔噬臍(こうかいぜいせい)
そうなってから戻ろうとしても、
一度逸した機を取り戻すことなどできない。
リーダーに機(チャンス)を掴ませよ
重職(管理職・コンサルタント)の役割は、
時機を的確に把握して、
リーダー(経営者)を勇気づけ、
機(チャンス)を掴みとらせることである。
経営者の「今こそチャンス!」という感覚を、
様々な情報に照らし合わせて検証し、
従業員、株主、債権者、銀行などの利害関係者
ステークホルダー全員に論理的に納得させ、
全員一致の機運で挑戦して、チャンスを掴ませる。
これこそが重職の重要な役割だ。
M&A、事業承継、業務提携でも、
「今が時機だ」と分かっていても、
周囲を感情的に納得させられず、
機を逸してしまうことがある。
道理と情の二側面から全体を調整し、
組織全体を前進させ、
リーダーに機(チャンス)を掴ませること。
それこそが、
重職の大切な仕事でないか。
ファイザーも秀吉も機を掴んで勝利した。
患者ファースト・主君の仇討ちという目標を優先し、
何万という部下の意識を統一、
実現するために『従来の常識を破る考え方』で
動いたことが勝因だ。
その裏には、部下が喜んで協力する体制を創り出した
経営陣の配慮がある。
部下の掌握力こそ、機に応じるための最重要な要因。
これには日頃からの仕組み作りが大切だ。
佐藤一斎(1772~1859年)は、美濃(岐阜県)岩村藩の代々家老を務める家柄に生まれ、幼少の頃から聖賢の経書に親しんだといわれています。22歳の時、大学頭・林簡順の門を叩き、儒学で身を立てることを決意。林家の養子となり、34歳で林家の塾長に抜擢されます。多くの門弟の指導に当たり、70歳のとき、現在の東京大学総長の立場である昌平黌の儒官に任官。日米和心条約の外交文書の作成にも携わりました。
出典:東洋古典運命学「経営者を支える者の心得④ 機に応じる秘訣 ファイザーと秀吉」
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。