地盤沈下する日本株、ドカ貧を抜け出すには(前編)
- 2022/2/25
- ファイナンス
目まぐるしい政変やコロナ禍などの社会情勢と連動して推移する日本株は、海外の投資家や企業からどのように見られているのか。中長期の目線で国内の状況を追い、さらに海外企業の動向を注視することで、“現在地”が見えてきます。長く国内外の経済状況や株価変動に着目し、金融・資本市場担当として日本経済新聞に定期コラムで情報発信していた元日本経済新聞編集委員で、マーケットコラム「マーケットエッセンシャル」主筆を務める前田昌孝さんが、現状脱却に必要な視点を示してくださいます。
目次
日本の株価の推移
日本の株価は、この20年の間どう推移してきたのか。
日経平均株価の市場最高値は1989年12月29日の38,915円、最安値はリーマンショック後の2009年3月10日で、7,054円まで下がりました。
そこから30,000円前まで戻ったものの、その後は力なくダラダラと下がり続けています。
小泉政権時代(2001〜2006年)は堅調でしたが、続く民主党政権の3年間(2009〜2012年)で8,000円前後まで落ちるなど非常に低迷しました。
2012年12月に安倍晋三首相(当時)がアベノミクスを提唱した際には少し勢いが出ました。
その後、日銀の黒田東彦総裁が大胆な金融政策を講じたことによるアップダウンを経て、2021年の9月14日の日経平均は30,670円10銭の水準まで戻ったという流れです。
コロナ感染者数増加でも、株価上昇
コロナ禍に見舞われた2020年3月は市場参加者の動揺が大きく、13日に日経平均株価の取引時間中の下げ幅が1,128円58銭と歴代13位の大きさを記録したほか、19日には3年4か月ぶりの安い水準となる16,552円83銭まで下げるなど、一時は世界大恐慌かとも言われ、もっと下がると思っていた人も多くいたでしょう。
プロの運用者にも、この時に危ないと判断し株式を売った人が多くいました。
今から考えると、当時のコロナ感染者は、ほんの少ない人数でした。
しかし、そこから不思議なことに、感染者が増えるにつれて、どんどん株価が上がっていくという現象が起きました。
コロナ禍で経済が大変な状況になった割に株価は上がっているため、岸田文雄首相が心配しているように、「貧富の格差が拡大している」という印象も持つかもしれません。
政権交代が株価の潮目に
2021年の日経平均株価は、2月に30,000円台に乗りましたが、8月には東京オリンピック開催により感染者が増加したことで、20日27,013円25銭まで下落。
その後、再び上昇して9月14日には30,670円10銭とおよそ31年ぶりの高値をつけました。
しかし、その日をピークに下がり始め、2022年2月現在は27,000円台になっています。
原因は何か。
9月14日は、野田聖子氏が自民党総裁選出馬に向けて、推薦人確保に手ごたえがあると語ったことが報道され、本人のブログに最終準備に入ることが綴られた日でした。
その数日前、当時の菅義偉首相が辞任発表すると、河野太郎氏が首相に就任して政権が刷新され、日本経済の構造改革が進むのではないかという期待感から株価が上がったのです。
しかし、野田氏の出馬により票が割れ、河野氏は政権がとれないと市場関係者が判断したことで、株価は下がり始めたのです。
円安で進んだ日本の株式相場の地盤沈下
ちなみに、世界の投資家はドルベースで投資をしているため、円安になると日経平均がいくら上がっても日本株で損をします。
この1年間は円安が10%ぐらい進んだので、もし日経平均と同じように動く株を持っていたとしたら、世界の投資家は日本株を買うことで6%前後の損をしたことになります。
そのため2021年は日本の株式相場の地盤沈下が進み、米ドル換算では世界95市場の中、日本は78番目の戦績にとどまりました。
これはギリシャやスペイン、韓国より下位です。
日本株の時価総額は40%から5%台へ
地盤沈下が進んだ結果、世界の株式市場を全部買い集めたとすると日本の割合はどの位になったと思いますか。
1番ピークだった1989年末は、銀座の一角の土地を買えば、アメリカのひとつの州が買えると言われた時代でした。
当時、東京株式市場の日本株の時価総額が世界で占める割合は、40%ぐらいでした。
それはそれで異常なことでしたが、その後はだらだらと低下。
2020年末には6%程度だったものが、2021年末にはさらにガクンと下がり、最も低い時で5.11%まで落ち込みました。
消えた海外企業の「ジャパンデスク」
ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの大きな証券会社には、以前は必ず「ジャパンデスク」があり、日本株、日本企業を専門に分析するアナリストがいました。
1980年当時、それら企業の東京支社長には、次に本社の社長になると言われるレベルの幹部候補者が送り込まれ、東京は「国際金融センターに1番近い存在」でした。
でも今の日本に、「経費のかかる外国人幹部」を置く証券会社などありません。
アジア統括は、既に香港やシンガポールに移っています。
それくらい日本株のウエートは低下しているのです。
今、世界の投資家にとって日本株は持っていても持っていなくても、自分の世界分散ポートフォリオにほとんど影響がなく、そのため関心も持たれていません。
日本株の保持がマイナスに
「世界投資」という意味は、いろいろな国の株式を、それぞれの国の株式市場の規模に応じて分散して持つという意味です。
現在は、日本株を持たないポートフォリオの方が、日本株を持つポートフォリオよりも投資ファンドの成績が上がります。
そのため、日本株を含む世界全体として投資するよりも、日本株を含めずに投資する方が数字は良い結果になってしまうのです。
世界企業のトップクラスから脱落した日本企業
1989年末の世界企業の時価総額ランキングでは世界トップが日本電信電話(NTT)、2位が日本興業銀行、3位が住友銀行でした。
アメリカのIBM(6位)やエクソン(8位)などの名前もありましたが、10位までに7社の日本企業が入っていました。
しかし、2022年1月末は時価総合ランキング上位の多くがApple、Microsoftをはじめとしたアメリカ企業で、その他は中国企業やスイスのネスレなどが続きます。
日本企業の名前はありません。
30位前後に、時価総額が40兆円になったと報道されたトヨタ自動車が、50位以下にソニーグループ、NTT、リクルートが続きます。
現在、世界のランキングに登場できる日本の大企業はそれくらいです。
この30年間で、いかに日本企業が弱くなったかお分かりいただけると思います。
オーナー系企業に強さ
こういった状況なので、例えば、1989年末に買った株を、今まで30年以上持ち続けたとしても、配当を含めてまだ元本を取り戻していない会社が約6割あります。
当時から10倍以上になったのは、ニトリ、キーエンス、日本電産など13銘柄だけです。
これらの企業の多くはオーナー系で、創業経営者の精神を持って経営している会社は強いという印象があります。
日本がドカ貧を抜け出す鍵は、これらのオーナー系企業が握っているのかもしれません。
次世代経営者も創業精神を継承
考えてみれば、アメリカのGAFAMも、力のある創業経営者が起業した会社です。
アメリカの会社は、次世代に継承しても、株は上がり続けています。
なぜかというと、創業経営者の精神をしっかり組織に埋め込んでいるからであり、次の経営者がそれをしっかり受け継いで革新させていくため、トップが変わっても上がり続けるのです。
そういう観点では、日本企業は弱い企業が多いです。例えば、㈱Canonの代表取締役会長兼社長、御手洗冨士夫氏は、次の経営者にバトンタッチする度に株価が下がったため、辞めては戻ることを都合3回繰り返し、社長を務めていらっしゃいます。
この例は、創業経営者の基盤の強さとともに、創業精神を後継者に引き継ぐことの難しさと重要性を示しているといえるでしょう。
後編では、日本株価に大きな影響を与える東証の市場区分改革について、ご紹介いただきます。お楽しみに。
出典:【STARTUP DB 独自調査】2022年世界時価総額ランキング。世界経済における日本のプレゼンスは?