スタートアップラボ第1回~米国NASDAQ上場の実情と可能性
- 2024/2/9
- ファイナンス
新興企業向けの米国市場NASDAQには、GAFAMをはじめ、米国を代表する巨大テック企業が上場していますが、2020年12月にヘルスケア事業を手掛ける「メディロム」が、2022年2月にはドラッグストアを経営する「吉通貿易」といった日本の企業も上場を果たしており、NASDAQ上場を検討する日本のスタートアップ企業が益々増えることが予想されています。
事業投資ラボの分科会「スタートアップラボ」1回目は、2023年7月に、株式会社アーリーワークスのNASDAQ上場をCSOの立場から成し遂げた五味田 匡功氏に、日本企業がNASDAQ上場を行う際のプロセスやメリットについてお話いただきました。
目次
米国株式市場の圧倒的規模
米国には、オールド企業が中心の「ニューヨーク証券取引所(NYSE)」と、多くの革新的企業が上場する「NASDAQ」があります。
NYSEには、日本を代表する企業も上場を果たしていますが、NASDAQに上場する日本企業は未だ9社のみです。
米国でのグローバル市場における上場企業数は5,938社、日本の東京証券取引所(プライム)及びスタンダード市場、グロース市場の合計企業数は3,799社ですが、時価総額で見ると、グローバル市場が日本市場の7.8倍規模で大きく上回っています。
売買代金も日本市場に比べ7.9倍の規模と、グローバル市場がマーケット(市場)規模として破格に優位であることは明らかです。
2024年は、NASDAQに上場する日本の企業が増えるのではないかと予想されます。
日本の人口1億2700万人に対し、アメリカ3億3300万人、中国に至っては13億6000万人です。
中国は人口が多いわりに1人当たりのGDPが少なく日本の6分の1のうえ、中国で上場しても資金を日本に持ってこられないというカントリーリスクがあります。
中国の上海市場、深圳市場、香港市場のうち、日本の企業が上場しているのは香港市場で、他の2市場と異なり海外上場企業も多くグローバルさが人気です。
また、圧倒的な成長国で海外投資家からも人気で注目されるのが、アジア4位となるフィリピン市場でしょう。
それでも圧倒的に米国市場への上場に集中するのには、米国市場の活況が背景にあると考えられます。
米国IPOの方法
米国IPOの仕方には、直接上場とSPAC上場とがあります。
直接上場は、日本で行われているような、証券会社や監査法人等とやり取りしながら上場対応していく方法です。
一方、SPACとは、Special Purpose Acquisition Companyの略で、特別買収目的会社と訳されます。
SPAC上場とは空箱上場と言われ、中身のない状態で先に上場し、上場後に中身にするターゲット企業を買収していく手法です。
SPAC上場は、日本の証券取引所ではできませんが、イギリス、フランス、ドイツなどのヨーロッパ諸国やカナダ、韓国などでは行われています。
上場までの期間が、直接上場の場合は最短でも9か月程度かかりますが、SPAC上場では買収発表から完了まで4~6か月程度で済むという違いもあります。
SPAC上場のメリット
実は、アメリカではSPAC上場は一般的な手法として使われていて、ターゲットとなる事業を行っている非上場会社を合併(買収)する目的で一般投資家から資金調達をして設立する仕組みです。
会社設立直後に上場するため事業実態はなく、上場する時点でどの企業を買収するか決まっていないケースも多く存在します。
これが「Blank Check Company」「空箱」と呼ばれる所以です。
上場したSPACが非上場会社と合併することで、非上場会社が実質的に上場を実現できるというメリットもSPACの魅力の1つです。
SPAC上場の問題点
このように、NASDAQに上場したい企業がSPACを買って上場後に合併する会社を見つけてくるというのを可能にする仕組みなのですが、ここで生じる問題は、事業が成り立っていないという点です。
例えば、SPAC上場の場合、投資家から資金を集めたとしても、合併させたい会社を見つけて買収する資金が必要なため、それで手持ちの資金がなくなってしまうという問題も生じます。
直接上場の場合上場した時に新規株を発行できますが、SPACは合併させるだけですので、最初から市場での資金調達はしません。
ですから、NASDAQ上場はできるけれど、市場からの資金調達はできないという弱点もあります。
NASDAQ上場のメリット
日本企業にも期待値の上がるNASDAQ市場への上場には、以下のようなメリットがあります。
- GAFAM(Google・Apple・Facebook・Amazon・Microsoft)と同じマーケットで上場することによる「知名度・ブランド力」のアップ
- SPACの箱を購入できれば3か月から6か月での上場が可能となる準備期間が短い
- 監査基準、内部統制基準は免除される
- 一定期間経過後、資金調達ができる
- ADR手数料が不要、海外からみて株式が購入しやすい
※ADRとは、ニューヨーク証券取引所などに上場されている、米国外の企業が米国で発行する預託証券のこと。外国株式等を米国証券市場で流通・売買できるようにするために発案された。その権利内容を米国の受託銀行が表示した証書。
NASDAQに上場している日本企業
株式会社メディロム
スタジオ運営やFC、ヘルステックをメイン事業として資本金13億円、売上20.3億円(上場時)で2000年7月に設立された企業。
2020年12月にNASDAQに上場し、上場時の資金調達は12億円でした。
翌2021年の売上は40.1億円、時価総額は35億円(2700万ドル)。
グローバルで優秀な人材の強化などが行われ、NASDAQ上場していることが優位に働いている事例です。
くら寿司株式会社
資本金20億円、国内400店舗、海外40店舗を展開するくら寿司が、2019年8月にNASDAQに上場し、上場時の時価総額は177億円、資金調達は43億円でした。
その3年半後、2023年1月期の時価総額が657億円と371%のアップ、売上も1,831億円(2022年)と、134%の伸び率で、非常にうまくいっている事例と言えるでしょう。
株式会社アーリーワークス
2018年に資本金2億円で設立されたブロックチェーンシステムを手掛けるアーリーワークスは、2023年7月にNASDAQに上場しました。
上場時の売上は4億6,000万円ですが、上場時に8,4億円の資金調達ができ、上場時の時価総額は84億円です。
国内上場だった場合の調達額は、およそ1億6千万円~2億5千万円と予想され、8億以上の資金を集めることはできなかったと思いますので、NASDAQへの上場で、資金調達の強みが顕著に現れた事例です。
NASDAQには市場が3つあります。
「グローバル・セレクト・マーケット」「グローバル・マーケット」「キャピタル・マーケット」の3層になっていて、企業の財務力でどのマーケットに入るかが決まります。
例えば、「キャピタル・マーケット」に上場する場合、資本基準、時価総額基準、利益基準のうち、いずれか一つをすべて満たさなければなりません。
アーリーワークスのケースでも、時価総額基準US$50,000からUS$75,000ドルを満たすため、日本で4億円、アメリカで4億円を調達し、総額が84億円になるように株価を設定して条件をクリアしたという経緯があります。
「グローバル・マーケット」、さらに上の「グローバル・セレクト・マーケット」となると、売上や収益の要件がさらに厳しくなっていきます。
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