世界的視野をもつ弁理士として顧客のビジネス成長に尽力(後編)

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特許事務所の6割以上が集中する関東圏において40年以上、幅広い業務を担当する筒井国際特許事務所所長で弁理士の筒井章子さん。前編「顧客の外国出願ニーズに160か国のネットワークで応える」では業界の現状などについてご紹介くださいました。
後編では、商標権の取り扱いにおけるトラブル事例などもご紹介しながら、商標権や特許に関する注意事項、事業承継後の展望などについてお話しくださいます。

「一人前」になるまで8.5年

Z-EN――弁理士の業務の幅はかなり広いようですが、弁理士になるのは難しいですか?

筒井章子氏(以下、筒井氏)――そうですね。弁理士になってからも、1人で何でもできる「一人前」になるには、平均で8.5年もの年数がかかります(日本弁理士会の会員へのアンケートより)。
高齢化していますし、加えて若い人材がなかなか入って来ません。
初任給も私が登録した頃に比べると200万円程度の差があります。
DX化についても、最先端の技術を出願するにもかかわらず、非常に後れを取っていると感じています。

企業の根幹となる権利を守る特許制度

筒井氏――弁理士は基本的に、お客様を1人で担当します。
ですから、例えば技術的な相談もあれば、マークの相談もあり、そのすべてを請け負います。
申請作業自体は数年で慣れるかと思いますが、大企業の最先端の技術特許関連は、技術について深く理解し、さらに訴訟のリスクなどさまざまなケースを想定してカスタムメイドで作成するため難易度は高いです。

特許に関しては、明細書を1件書くにも、1週間程度の時間がかかる上、日本の特許庁は他国に比べて審査が厳しいこともあり、いろいろなバリエーションをこなしてプロフェッショナルになるまでは本当に時間がかかります。

弁理士の代理作業の範囲は広いですが、特許を担当する人は特許申請に集中することになり、商標関連は担当しなくなるなど専門化が進み、いまや一人で全業務をこなすのは不可能な時代に入っています。
正直、1つの分野でも難しいです。
日本の訴訟件数はいま、特許に関しては年間200件を切っています。技術力・実務能力をより高めていくことは大前提として、他の分野にどう業務を広げていくかが課題ですね。

――20年以上この業界で従事されている筒井さんですが、日本の特許制度をどのようにご覧になりますか。

筒井氏――特許は、企業が時間と手間そしてお金を費やして開発した新技術や革新的なアイディアの権利を守るための制度です。
一朝一夕に築くことが難しく、ビジネスを展開するうえで根幹ともなる権利は、特許権や商標権を取得することで、類似製品の参入を阻み、日本の産業を守ることにも繋がります。

特許庁の審査スピードは従来と比較してずいぶん早くなっており、昨今の目まぐるしいビジネス環境の変化に対応しようとしてくれています。
しかし、特許権や商標権を保持しているにも関わらず、それが保護されない場面にも遭遇してきました。
裁判所には、プロパテント※1の視点で権利を重視し、権利者から「訴訟を起こしてもコストがかかるだけで無駄だ」と思われない環境を作っていただけたらと思います。
※1 特許の保護範囲の拡大など、知的財産権の保護を強化すること

商標権の更新忘れで起こったトラブル事例

――特許や商標を取得していなかったために生じたトラブルもあるようですね。

筒井氏――中国において、いまビジネスの乗っ取りのような事例を目の当たりにしています。
きっかけは、昔登録した商標の更新申請を行わなかったことです。
商標権は10年単位で更新することができ、使えば使うほど価値が上がります。

更新申請がされなかったことで、その商品の中国での権利がなくなってしまったのをいいことに、ブローカーである個人が勝手に商標権を取得し転売されたうえに、その商品とパッケージを同じように作られて展示会に出され、ビジネスを乗っ取られてしまいました
もともとの権利者が中国で既存の商品を販売すれば、悪徳で取った商標権者から商標権侵害だと訴えられ、最悪の場合、損害賠償を払わされてしまいます。

こういった訴訟を避けるために申請時に争いごとを想定して特許明細書を書くのですが、余計なひと言で相手の商品が権利の範囲を外れてしまうこともあり、どうやったら止められるかは非常に悩むところです。
知財ミックスで、商標だけでなく、特許でも守ることができればベターですが、特許を申請できない方の場合は必ず商標をとっておいたほうがいいですね。

商標は他者と区別し実情に合わせた登録を

――なるほど、参考になります!商標は具体的にどのように取るのですか?

筒井氏――まず、特許庁のHPに特許情報プラットフォームというのがあるので、商標として認められるかを見ます。

画像は特許庁HP内 商標登録出願書類の書き方ガイドより

商標登録するときはふたつの側面があります。
どういうマークかということと、それをどんな商品やサービスに使うのかということを検討します。

商標は識別標識※2ですから、サービスを説明する言葉そのものはダメです。
例えば、コンサル業について商標として「コンサル」を取ることはできません。
その言葉だけでは他人(他社)と区別ができませんからね。
そういったことを認識して、登録する商標名を考えていきます。

あとは、どういった分野に登録するかを確認します。
国際的な条約に従った事業分類が全部で45あるので、「こういうことをしたい」という実情に合わせて出願を進めていきます。

※2 自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマークのこと

▶特許と商標の違いを理解し、更新申請にも注意が必要だという筒井さんのご指摘は、自らのビジネスを守るために覚えておきたい内容です。続いて、グローバルビジネスマーケットに対する視点についてもお話しくださいます。

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筒井章子
筒井国際特許事務所 所長

投稿者プロフィール
慶應義塾大学総合政策学部卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
ストラスブール大学大学院。
  国際工業所有権研究センター(CEIPI)修士課程(商標・意匠)修了、同修士課程(特許)履修。
専門は商標、ビジネスモデル、著作権、不正競争。
特定侵害訴訟代理業務可能。

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