日本酒を世界酒に!トレンドで終わらない日本酒と酒蔵の在り方を創る(前編)

世界的にも人気を博す日本酒を活用し、プロモーションやブランディング戦略の立案・企画、日本酒PRの総合広告代理業を営むクロッシング株式会社代表取締役社長の畔柳伸くろやなぎしんさん。唎酒師でもある畔柳さんは、デジタル・メディア「おいしい日本酒」を運営し、自ら編集長として情報発信を行っています。またコロナ禍においても、日本酒の魅力を伝えるオンラインイベントを開催する等、誰にでも分かりやすく、おいしい日本酒のある楽しいライフスタイルを提案していらっしゃいます。さらに、酒蔵の抱える様々な課題の解決にも取組み、承継問題や若手後継者の支援にもパートナーと一緒に尽力されています。前編では、起業された経緯と日本の酒蔵の現状についてお話しくださいました。

日本のいいものを世界に発信

出典:デジタル・メディア「おいしい日本酒」

――創業のきっかけを教えてください。

畔柳氏――創業は昨年の8月ですが、おいしい日本酒を活用したプロモーションやブランディング戦略の立案・企画を柱とした現在の事業は、今までの仕事の延長線上にあります。きっかけは、日本の本当にいいモノを国内外に伝えていきたいという想いからですね。

以前、CJプライムショッピングというテレビ通販会社で、世界のいいモノを日本に紹介して、日本国内でのディストリビューターとして流通させていくという仕事をしていました。当時一番売れたのはアブトロニックというお腹に巻いて電気信号で腹筋を鍛える商品です。輸入した商品をブランディングして人気を集め、国内市場へ広めていくということを10年以上行っていました。

海外に周知させた経験を生かして

畔柳氏――日本にはいいモノがたくさんある。でも、この先内需は減少していく一方です。ではそれを、アジアなどの成長性の高いところに紹介していったらどうだろうか。ゼロから市場を開拓してモノを売るのは大変ですが、本当にいいモノを例えばテレビ通販の手法で、しっかり説明をして売ることができれば、爆発的に売れるんじゃないか。これからは国内商品を輸出する番だろうという逆転の発想です。

そんな使命感を持ってテレビ通販会社を辞めた後、当時経済産業省が推進していたクールジャパン構想のなかで、近畿経済産業局が主体となり関西の地場産業品と伝統工芸品を海外に輸出し広める取組に携わる機会がありました。手を挙げた事業者と、個々が抱える情報不足や人材不足等の課題を解決するために、クリエイターやデザイナー等の異分野の事業者を引き合わせて、ネットワークを形成しました。次に海外ノウハウを持った専門家と一緒に海外展示会でのPR、サンプル商品から海外バイヤーの意見を取り入れ、最終的に海外向けにカスタマイズした商品を輸出するという3年計画事業です。この初年度に事務局として携わっていました。

志ある企業との協業で起業

――いよいよ日本のいいモノを世界に発信する準備が整ってきたわけですね!

畔柳氏――1年取り組んでみて、経済産業省の仕事を継続させても良かったのですが、自分のやりたいことを自分が中心になってやってみたいという思いに至りました。じゃあ、何をやるか?と考えたときに、それが日本酒だったんです!日本酒を扱うには酒蔵さんとの繋がりが大切ですし、資金や人材のリソース確保の問題もありましたので、志のあるスタートアップ企業と一緒に新規で日本酒のPR事業を行うことからスタートし、約4年で独立し、クロッシングを創業しました。現在は、日本酒造組合中央会や、出身の愛知県から委託事業として、日本酒の需要開発の推進する仕事をメインに、日本全国の地酒蔵が加盟する「日本地酒協同組合」や日本酒を国内外に卸販売しているジザケジャパン社、酒蔵再生のコンサルティングを行うリボーン社と協業しながら日本酒に特化した発信を進めています。

存続の危機に直面する各地の酒蔵

出典:デジタル・メディア「おいしい日本酒」

――日本酒の酒蔵はいま日本に何軒あるのですか?

畔柳氏――残念なことに日本酒の酒蔵は年々減り続けています。2000年には2,000蔵近くありましたが、今実際稼働している酒蔵さんは1,200~1,300蔵程度だと言われています。廃業までには至っていないけれど、操業は休止していて免許だけもっている酒蔵さんも多いですね。このコロナ禍でますます減少するとの予測もあります。ちなみに日本酒の製造に必要な清酒製造免許は新規発行されていません。つまり新規参入できないということですから、今後数も増えないのです。だからこそ、酒蔵経営に興味のある方には、M&Aしかない!という状況が続いています。

継ぐことでマイナススタートになることも

――コロナ禍で飲酒の機会も減っていますから、財務状況は厳しいでしょうね。

畔柳氏――酒蔵の製造規模を示すものとして石数があります。「一石=一升瓶100本分」として、地酒蔵の多くは300石~2,000石くらいを製造されています。ざっくりですが500石以上あるところでないと、家族経営から脱却して利益を出すのは難しいイメージを持っています。

まだまだ世襲で継承する酒蔵は多いですが、継いでしまうと、借金も引継ぎマイナスからのスタート。そのため、若い後継者にとって酒蔵を引き継いだときのデメリットは、やはりこの負の承継が大きな負担になることでしょうね。しかし、メリットもあります。酒蔵は地域の中心となっている場合が多いので、地域に広いネットワークを持ち、歴史的バックグラウンド、昔ながらのブランドがある。このブランド力こそ地域で唯一無二の無形の財産であり、それを引き継ぐことができるわけです。それでも苦戦しているのは、需要が減って昔のように回らず解決策も見い出せないからなんですね。

新たなチャネルを切り拓く若手後継者たち

――以前、弊社でも酒蔵M&Aの相談がありまして、その会社は24歳の新しい経営者を招聘した後、数年で財務改善したという話を聞きました。酒蔵の財務体質はどうやって改善していくものなのですか?

畔柳氏――ものづくりの背景からいくと、長い歴史のなかで培った技と、バイオ等の技術革新も進み、下手なものは造らないでしょう。問題は、これだけ需要が減っている中で従来と同じ流通にのせるままでは販売量は減る一方だということです。各酒蔵がどれだけ新しいチャネルを切り拓けるかで、その後の財務状況が大きく変わってくるでしょうね。経営的センスももちろん必要ですが、より需要の高いチャネル開拓によって、財務面も改善します。また、世代交代した若い経営者は、最新技術導入による機械化にも意欲的で、効率が上がるうえ、結果的に品質、味もよくなっています。東京農業大学OBの蔵元杜氏の人脈からの情報交換や、代替わりした新しい世代の今までにない発想で販路開拓し利益を出せるようになった酒蔵さんもあります。

酒蔵への経営改善を支援

――御社は酒蔵への販売手法の紹介、コンサルティングも行っていらっしゃるんですか。

畔柳氏――はい。協業するリボーン社では、酒蔵に販売手法を紹介するだけでなく、コンサルティングとして販路の開拓や、最新技術導入などの設備投資支援、働く方々の内部統制方法の提案など、経営面での改善支援を行っています。酒蔵は同族経営であることも多いですから、家族のいざこざの相談もされたり(笑)どっぷり入り込んで改革しています。同族経営にありがちな議決権のない少数株主の存在などもあり、変革は一筋縄ではいきません。コンサルとして手を差し伸べるだけではなく、自立してもらうことも必要なので、酒蔵の問題に合わせて一つ一つ課題解決に取り組んでいます。

――素晴らしいです!メイン事業である日本酒のプロモーションやブランディングは、どのようなことを行っていらっしゃるのですか。

畔柳氏――日本酒の生産量が減ったことで、今や問屋も疲弊しています。昔のように酒蔵が酒造りに徹して販売を問屋に頼り、石数を追って量を捌いて利益を生むのが難しい時代です。かといって、上代をいきなりあげて、利益額を増やすことも難しいですから、直販で利益率を上げようとオンラインショップを開設するところも増えています。ところがいざネット販売を始めても、集客は一筋縄ではいかない。弊社が昨年10月にデジタル・メディア「おいしい日本酒」を開設したのは、そんな酒蔵の課題解決がきっかけになっています。効果的に露出できるサイトを作って、酒蔵のオンラインショップに送客することを目的としています。

クロッシングが運営するオンラインメディア「おいしい日本酒」
100年続く日本酒ブランドを構築

銘柄自体は伝統的に受け継いでいるものですが、ラベルデザイン等の刷新で魅せ方を変えたり、クラウンドファンディングを活用して資金を調達しながら新しいことにチャレンジしたり、普段飲みするお酒と、ハレの日に飲むお酒の需要と、価格帯も二極化していく中で、日本酒にはこの先ターゲティング、マーケティングが重要になります。

この続きは後編でお届けします。

※日本地酒協同組合は、お水やお米にこだわった地酒を日本に普及させた日本全国の地酒蔵の組合です。ジザケジャパン社は、組合の加盟蔵が醸す地酒の販売会社としてスタートしました。

畔柳伸
クロッシング株式会社 代表取締役社長

投稿者プロフィール
愛知県出身、青山学院大学史学科卒
サントリーグループ・CJプライムショッピング・パソナテックから、日本酒に特化したスタートアップ企業での勤務を経て、2020年8月より現職。
唎酒師として、国内外から注目され称賛を浴びる日本酒をテーマとし、「おいしい日本酒」の魅力を伝えるデジタル・メディア『おいしい日本酒』を運営。日本酒を醸(かも)す造り手と、飲み手、次世代のファンを繋ぐ役割を担う。

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