保育サービス事業へ進出するメリット・デメリット(後編)
- 2020/10/23
- M&A
こんにちは。保育士資格をもつ公認会計士として、保育サービス事業のM&Aを専門として、「保育事業引継ぎ相談所」を運営している貝井と申します。
近年、保育サービスが注目を集め、企業から「M&Aで保育サービスに進出できないか」という相談もよくいただくようになりました。
前回、「保育サービス事業へ進出するメリット・デメリット(上)」では、保育事業進出に進出するメリットについてお話しました。
今回は、デメリット、「なぜ、保育事業から撤退するのか」についてご説明させていただきます。
保育サービス事業進出とデメリット
保育士の確保が困難
保育士はかなりの人手不足です。
有効求人倍率は東京では3.41倍となっています。
(令和2年4月時点 ※出典:厚生労働省「職業安定業務統計」より)
この要因は、単純に保育士資格保有者が不足しているわけではありません。
保育士資格保有者が、保育の現場で働かないことにあります
(ちなみに、私も保育士資格を保有しながら、保育の現場で働いていない者のひとりです)。
子供好きには魅力的な職場ですが、他人の大切な子供を扱うプレッシャーや、保護者からのクレーム、それに見合う報酬が得られにくい、など、単に「子供が好き」というだけでは、なかなか続けていくのが難しい職場、という側面があります。
また、参入初期の段階の場合には保育士を集めようにも、待遇面では、どうしても大手に見劣りがしてしまいます。
このような相談を受けた場合、私は、たとえば以下のようなご提案や支援を行っています。
まずは、採用に際して、新しい保育所を作り上げる同士として迎え入れるのであって、出来上がった保育所を回すための単なる歯車ではないことをアピールして、意欲ある保育士の心に響かせる。
採用後も、理念やビジョンを共有し、保育所への帰属意識や一体感を高め、定着率を上げるように工夫します。
とはいえ、保育士紹介会社と提携することで保育士を確保するという、現実的な対応も欠かせないことです。
膨大で曖昧な行政対応
前回のメリットで、「保育事業には、給付金が支給され、収支が手堅い」と説明しました。
しかし、給付金とは、みんなの大切な税金です。不正や無駄遣いは許されないのです。
従って、その給付のためには、細かい、膨大な基準を満たすとともに、それを書類にして提出する必要があります。
「箸の上げ下ろし」まで規制されてしまい、当初に描いていた理想の保育の実現ができない、と嘆く声も聞こえてきます。
また、この行政対応は、単に、全国一律の法令に従うものではなく、各自治体に大幅な裁量が認められています。
従って、A区では認められた認可が、B区では認められない、ということも平気で生じています。
たとえば、待機児童が非常に多く、保育所をすぐにでも誘致したい地区と、それほどでもない地区では、対応が異なるのは当然であると言えます。
このように、保育事業には、膨大な事務手続きと、自治体と密なコミュニケーションが不可欠であり、これに嫌気がして撤退を希望する事業者も多いのです。
M&Aで保育事業に進出するにあたっても、この認可などの行政手続きが最大のネックとなります。
そもそも、給付金をもらっている事業を売却して、事業者が利益を得るなど、行政からすれば、けしからんというわけです。
会社全体を譲渡する「株式譲渡」であれば、まだ、対応は容易な方です。
しかし、これが会社の保育部門のみを切り離して譲渡する「事業譲渡」となると、通常のM&A業者では、まず、対応は難しいでしょう。
保育を専門としているM&A業者に相談した方がよいと言えます。
採算がとれない
前回のメリット、「保育事業には、給付金が支給され、収支が手堅い」と矛盾すると思われたかもしれません。
ここでの話は、主に、認可保育所でもなく、認証保育所や地方型保育事業でもなく、まったく認可を受けない認可外保育所の話となります。
まったくの認可外保育所は、認可保育所や、認証保育所、地方型保育事業とは違い、行政からの規制が緩いため、自由があり、理想の保育が実現できると言えます。
しかし、その自由は、給付金を受け取ることができないことと裏返しとなっている事実があります。
給付金を受け取らずに、採算ベースに載せるのは、なかなか困難です。
認可外保育園といえども、最低限の設置基準はあります。
たとえば、0歳児3人に対して、保育士1名を置かなければならない。
つまり、保育士1名の給与を0歳児3人の保育料で賄う必要があるということです。
しかも、これは人件費だけの話で、賃料などの他の経費も必要となるのです。
認可外保育園は、相当、高額な保育料を請求できる差別化されたサービスを提供しなければ、なかなか、採算にはのってこない。
安直な進出はお勧めしません。
前回、お話したように、保育事業進出にメリットがあるのは事実です。
しかし、このようなデメリットも考慮して検討する必要があることを、皆さんにお伝えして締めくくりたいと思います。
⚫︎貝井経営会計事務所⚫︎
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本稿「保育サービス事業へ進出するメリット・デメリット」の前編はこちら