M&Aは両社合意後がスタート PMI成功者が語る実態と成功の秘訣

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M&Aは両社が合意するまでが大変で、合意後はホッと一息となりがちです。しかし、実は最も大切なのが買収後の経営、業務、意識の統合プロセスのあり方、つまりPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)です。買収側は企業理念と行動指針を示し浸透に努め、グループ化と融合を果たさなければ「何のための買収だったのか」という結果に陥ってしまいます。では、PMIは具体的にどのように進めればよいのでしょう。買収した会社に代表取締役副社長として親会社から異動し、わずか1年でPMIを成功に導いた経験をお持ちの株式会社エイトレッドの岡本康広代表取締役社長に、PMIの実態と成功の秘訣を伺いました。

買収劇の舞台裏

2018年4月、ITサービス事業を行う3つの傘下会社を統括する株式会社ソフトクリエイトホールディングス(以下、SCHD)は、株式会社エートゥジェイ(以下、AtoJ)をM&Aし子会社化しました。
傘下の一つでEC(電子商取引)ソリューション事業を行う株式会社ecbeingと、コンテンツマーケティング支援事業、ECサイト構築・運営事業を行うAtoJとの親和性が高く、シナジーが生み出せると判断したからです。

買収の検討は2017年夏ごろに始まり、株式会社ソフトクリエイト(以下、SC)の執行役員WEBビジネス事業部長だった私が情報収集、対話、信頼関係構築の任務に当たりました。
秋にはAtoJの経営陣、社員と接触し始めてヒアリングや説明を行うとともに、AtoJへの転籍候補となるWEBビジネス事業部所属の社員への説明と調整をスタートさせました。

岡本氏作成図

転籍する社員が不利益にならない仕組み作り

転籍する社員は10人。
まず私が着手したのは、彼らが不利益にならないように仕組みとルールをどう落とし込むかでした。

AtoJは一言で表現すると「野武士集団」で、会社の制度として賞与や退職金制度がありませんでした。
役職(肩書)も一般、リーダー、マネージャー、シニアマネージャー、役員の5種類しかなく、いたってシンプル。
転籍する社員の給与が下がったり、肩書がなくなったりすれば、士気が下がり、存分に働いてくれないだろうと、転籍後の処遇をどうするかはかなり気を遣いました。

買収前にマンツーマンで不安解消ランチ

AtoJの経営陣、全社員とは買収前に1人ずつランチミーティングを行いました。
「不安を取り除き、信頼を得ることが融合への近道」と信じていたからです。

当時、AtoJはWeb制作(ディレクター、デザイナー、コーダー)が30人、SEO(検索エンジン最適化)とWebコンサルが5人、営業が5人、管理が5人くらいだったと思います。
社員は子会社化について何も知らされていないわけですから、対話を繰り返すことでしか不安解消はできません。

同時に、子会社化による成長と安定への期待感もあるはずですから、不安要素を解消さえすれば、統合が順調に進むだろうと考えました。
経営陣や部門のキーマンとは、ランチミーティングだけでなく夜の会食も何度も行いました。

買収後のビジョン共有で機運を高める

企業理念構築と評価制度運用開始へ

社員の不安を解消できたところで、2018年4月にAtoJを子会社化し、私は代表取締役副社長に、転籍する社員10人はAtoJ社員となりました。
買収は人材を買っているわけですし、人材が残ってくれないと経営は成り立ちません。
そこで、社員みんなで会社の成長性、未来を常に語り合い、経営陣にも未来のビジョンを共有してモチベーションを上げ、「良い会社にしていこう」という機運を盛り上げました。

そこから生まれたのが現在も残っている企業理念です。
これは「クライアントの成果(Happy)を、カスタマー目線で実現する『プロ集団』であり続ける」というもので、「我々はユーザーのために仕事をしているプロだ」と定義し、これを土台に、評価も運用していきました。

コスト効率化で利益倍増

AtoJの社員は一人ひとりのパワーは十分でしたが、当時、スーツは誰も着ていないし、毎月1回は社内でパーティーを開き、年1回は社員旅行に行っている、ある意味、緩い集団で、好き放題やっていた感がありました。
そのため、人件費や広告費などの本当に必要なものだけを残し、コスト効率化にも着手しました。
その結果、経常利益が買収後の1年間で2倍以上になったのです。
私は本来、管理業務は苦手なのですが、管理担当役員のようになっていましたね。

家族ぐるみの付き合いが心の壁を取り払う

組織改革を行い、収益管理スタイルを親会社に合わせる一方で、人事や給与水準のテーブルはそのままにしました。
個人的な感想を言うと、代表取締役が2人というのは結構大変でした。どうしても互いに遠慮してしまいがちになります。
そのため、よく飲みに行きましたし、家族ぐるみの付き合いをして、遠慮の壁を取り払うよう努めました。

PMI成功の秘訣

買収される側の社員の想いを聞き不安を取り除き、信頼を得ることが融合への近道と語る、岡本社長
(写真は岡本氏提供)

買収される側の目線で人を融合、共通ビジョンを持つ

結局、PMIは人が融合して、共通の目標・ビジョンを持つことができるかが成功の分かれ目になると思います。

M&Aをする側もされる側も「お互いさま」の気持ちで、ルールや方針、目標の旗印をつくらないといけません。
個性をすべて尊重することは難しいですが、大切なのは買収される側の社員の意見や想いをきちんと聞いて汲み取ること。
つまり、買収される側の立場に立てる人間がPMIを実行することが重要なのです。

辞めた社員はゼロ!

親会社から送り込まれる代表者は、自分のなかに芯を持たなければPMIを成功に導けません。
親会社の考えや理屈で押し通すのではなく、人を巻き込みながら調整を行う「折衷案」のアイデアや指針を出していくことが大切になります。

AtoJの場合は、経営陣や社員が成長と安定のシナジー効果を理解して統合を迎えたこともあり、M&Aがきっかけとなって辞めた人は1人もいませんでした。
余談ですが、AtoJでは管理部門の女性2人が私の考えを理解してくれて、社内調整役として協力してくれました。
社員は、今まで身内であった仲間から言われることはスムーズに納得してくれますので、非常に心強かったですね。

私はAtoJ買収から1年1カ月後の2019年5月に親会社から異動の打診があり、6月にエイトレッドの代表取締役社長に就任しました。
AtoJにおける1年余りは、非常に思い出深い経験となりました。
AtoJが現在もSCHDグループの中で確固たる地位を占めていることを嬉しく思っています。

岡本康広
株式会社エイトレッド
代表取締役社長 兼 ワークフロー総研所長

投稿者プロフィール
1971年島根県生まれ。システムエンジニアから営業に転身後、ロボット事業を立ち上げ、事業責任者を歴任。2018年、株式会社ソフトクリエイトホールディングスがM&Aした株式会社エートゥジェイの代表取締役副社長に就任。2019年6月より現職。
システムエンジニア、営業、事業企画、アライアンス、広報、マーケティング、新規事業など幅広い経験を生かし、現在は経営に力を注いでいる。
大切にしていることは信頼とスピード。営業時代、お客様との関わり合いの中でビジネスは最終的に人であるという気づきを得る。

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