保育サービス事業へ進出するメリット・デメリット(前編)

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はじめまして。保育士資格をもつ公認会計士として、「保育事業引継ぎ相談所」を運営し、保育サービス事業のM&Aを専門としている貝井と申します。
近年、保育サービスが注目を集め、企業から「M&Aで保育サービスに進出できないか」という相談もよくいただくようになってきました。
保育サービスに進出するにあたって、どんなメリット、デメリットがあるのか?今回はその疑問に詳しくお答えしたいと思います。

保育サービス事業進出とメリット

数少ない成長産業

「待機児童が社会問題となっている」と聞くと、この少子化の時代になぜ?
と、違和感を持つ読者もいるかもしれません。
「保育」とは、乳幼児を養護し、教育することです。
幼稚園への入園は3歳以降であることから、とくに0歳から2歳までの乳幼児の保育が問題となります。
日本では、戦後長らく、母親が家庭で保育を行うのが当然とされていました。
従って、保育所とは、「母親が保育に支障がある場合に、仕方なく」利用するものという認識でした。
しかし、近年では、女性の社会進出とともに、保育サービスのニーズが増大しています。
これが、大都市圏での、待機児童問題につながっているというわけです。

一方で、保育サービスを提供する保育所も、「保育が営利追求の手段となるのは許されない」という考えのもと、長らくは、社会福祉法人にしか認可保育所の認可が下りないという実情がありました。
しかし、保育サービスのニーズの増大、民間活力の活用のための規制改革を背景に、2000年3月通達「保育所の設置認可等について」により、営利法人、学校法人、NPO法人も保育所運営に参入できるようになったのです。
その後も、「子ども・子育て関連三法」(2015年施行)など、営利法人による保育サービスへの進出が促されてきました。

保育サービス事業の市場規模は19,100億円(2009年)から、35,500億円(2019年予測)に、なんとこの10年間で1.9倍にも急拡大しています(矢野経済研究所調べ)。

引用:矢野経済研究所HPより

一方で、業界トップのJPホールディングスでも、売上高317億円(2020年3月期)であり(※1)、まだまだ、業界の勢力図は固定されておらず、群雄割拠で誰にでもチャンスがある業界と言えます。
※1 同社第28期有価証券報告書調べ

多様な提供サービス

保育所と聞くと、砂場やすべり台などの遊具がある園庭があり、調理場があり、という姿を想像するかもしれません。
それはオーソドックスな保育所であり、認可保育所となるには、そのような施設は不可欠となっています。
しかし、待機児童問題が問題となっている大都市圏においては、そのような土地を見つけるのは、困難も多く現実的ではありません。

そこで、そのような標準的な認可保育所以外にも、様々な保育事業が制度で認められています。

たとえば、東京都では、認可保育園よりも緩和された基準を満たした「認証保育所」という保育所があります。
※各自治体で認定を受けて運営経費の助成を受けている認可外保育施設があります。各自治体で呼称が違います。
その他にも、「地方型保育事業」と呼ばれる保育サービスでは、20名以下のこどもを預かる「小規模保育」、5人以下のこどもを預かる「家庭的保育」、在宅でベビーシッターとして預かる「居宅訪問型保育」、企業の事業所内に設置する「企業主導型保育」などもあります。
これらは、小規模で保育事業を始めることができ、いきなり、大規模な認可保育園を始めるよりもハードルが低いと言えます。

そもそも、認可保育所でもなく、認証保育所や地方型保育事業でもなく、まったく認可を受けない認可外保育所であれば、事業者が、かなり自由で広い裁量を持つことができます。
特色のあるサービスを提供したいのであれば、まったくの認可外保育所という選択肢も大いにあるでしょう。

また、当初は認可外保育として始めた保育所を、認可を受けて認可保育園に鞍替えしたり、認証保育所に鞍替えしたりした事例もあることなど、多種多様な保育サービスの中から、貴社の行いたいと思う保育に合うサービスを選択できるのです。

手堅い収支

先ほどの、認可保育所や認証保育所、地方型保育事業には、自治体から給付金が支給されます。
そもそも、保育所が簡単に倒産や撤退をしてしまっては、地域住民は困ってしまいます。
そこで、給付金の金額は、保育所を安定的、継続的に運営できるように考慮されているのです。
ということは、いったん、保育園を開園すれば、(相応の努力は必要ですが)その収支は保証されている、といってもよいかもしれません。
たとえば、上場している保育サービス企業「株式会社グローバルキッズCOMPANY」の決算は、売上高196億円、営業利益17億円(2019年9月期)と、なかなかの収益力があります。(※2)
※2 2019年9月有価証券報告書調べ

このようなメリットを見ていくと、保育サービス事業には、「バラ色の未来」しかないように見えます。
しかし、実際には、私のもとに、「理想を胸に、保育サービス事業を始めてはみたものの、撤退したい」という相談が寄せられています。
収支も黒字で儲かっているにも関わらず、です。

その理由は、みなさん、不思議なことにほぼ同じ内容なのです・・・。

次回は、保育事業のデメリット、撤退理由について執筆したいと思います。

貝井 英則
貝井経営会計事務所代表
株式会社M&Aの窓口取締役
保育事業引継ぎ相談所 運営

投稿者プロフィール
1978年奈良県生まれ。京都大学総合人間学部卒
公認会計士、税理士、中小企業診断士、社会保険労務士、証券アナリスト、システム監査技術者、宅建士、保育士。
M&Aのディールはもちろん、企業価値評価、デューデリジェンス、PMI、M&A部門立ち上げなどM&A関連実務にも精通。

M&A業界では、「困ったらとりあえず、貝井」と名を馳せる、M&Aのオールラウンドプレーヤー。
なかでも、保育士資格を保有する会計士として、保育業界のM&Aの第一人者。

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