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海外への資産流出を防ぐ
中島氏――どんな通貨(銘柄)が取り扱われるのか、楽しみですね。税制についてはいかがでしょうか?
小田氏――税制改正についても動いています。
よく言われるのが、「暗号通貨交換業者が事業をしやすくするためにルールを変えるのではないか」という指摘です。
私はそうではなく、「日本社会のためにルールを変えた方が良い」と感じています。
日本の暗号資産保有者は、世界の暗号通貨市場の4%ほど しかいません。
本当にそうでしょうか。
実際には、日本の税制に納得できずシンガポールやドバイに人もお金も移ってしまっています。
税制を変えれば、海外に出ていってしまった資産が日本に戻ってくるかもしれません。
中島氏――確かに、シンガポールやドバイに移住する人は多いですよね。
野村総合研究所の「純金融資産保有額の階層別に見た保有資産規模と世帯数」という資料では、世帯の純金融資産保有額が5億円以上の超富裕層は全体の1.6%で8.7万世帯、保有額は総額で97兆円ほど。1億円以上の富裕層は全体の2.3%で124万世帯、保有額は236兆円ほど。5000万円以上の準富裕層は全体の6.3%で341.8万世帯、保有額は255兆円ほど。
3000万円以上のアッパーマス層は全体の13.2%で712.1万世帯、保有額は310兆円ほどとされています。
中島氏――この「超富裕層」に当たる人口が多い世界の10都市は、2018年のWealth-X World Ultra Wealth Reportによれば、香港1万人、ニューヨーク8,900人、東京6,800人、ロサンゼルス5,300人、パリ4,000人、ロンドン3,800人、シカゴ3,300人、サンフランシスコ2,800人、ワシントンD.C. 2,700人、大阪2,700人です。
日本の都市が2つ入っているわけですが、税制改正が実現すれば、海外移住してしまった人たちが戻ってきて香港を超えられるかもしれませんね。
小田氏――そのとおりです。
FXの税制改正が行われたのは2012年のことで、当時の口座数は300万口座で7800億円ほどの市場でした。
暗号資産はすでに1兆円以上の市場になっていますから、税制改正しても良いのではないかと思うのです。
暗号資産はサスティナブルなイノベーション
中島氏――ところが、まだ日本では「ビットコイン=怪しい」「円天みたいなものだろう」という見方が多くて、「なんだか怪しいから」と後回しになってしまうのでしょうね。海外では、もう「怪しい」というイメージもなくなってきていませんか?
小田氏――はい。海外では怪しいイメージは払しょくされてきています。
「暗号資産とSDGs」「暗号資産はサスティナブルか」などの文脈で語られることが増えました。
最近は、「Web3(Web3.0)※1」の文脈でも語られます。
ですから、「なんだか怪しいもの」というイメージを覆す必要はなく、イノベーションの1つとして位置づけられています。
例えば、よく「マイニング※2は環境破壊ではないか」という議論がされます。
電源単価は安くても十数円かかり、普通にマイニングしてもペイしません。
再生エネルギーはムラがあるものの電源単価が数円ほどに抑えられます。
再生エネルギーを使う方が、マイニングを行うマイナーにとっても経済的合理性があり、環境にも良いわけです。
※1 ブロックチェーン技術によって実現する分散型ネットワーク(Decentralized Web)のこと。ユーザー自身がデータの所有権を持ち利用をコントロールできるメリットがある。
※2 第三者による取引の承認および確認作業のこと。マイニングマシンと呼ばれるコンピュータを使ってマイニングを行いブロックチェーンと呼ばれる取引台帳に追記していく。
中島氏――ケンブリッジ大学のビットコイン電力消費指数によると、ビットコインのマイニングは世界の電力消費量の約0.6%です。
また、ARK Investment Management※3の調査によると、ビットコインが消費するエネルギーは、従来の銀行システムに必要なエネルギーの10%以下であるとされています。
再生エネルギーだけでマイニングするGryphon Digital Miningのようなベンチャー企業も出てきていますし、よりサスティナブルな存在になりますね。
※3 ARK Invest Management(アーク・インベストメント・マネジメント)社は「破壊的イノベーション」への投資に特化した運用会社
この続きは後編でお届けします。暗号資産に関する世界的な動きや日本の未来像について語っていただいていますので、お楽しみに。
出典:暗号資産の課題に真摯に向き合い、新しい明日をつくる(前編)
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。