日本酒の2022年度の輸出金額・数量は、ともに過去最高を記録※し、外国人の間でも日本酒が「SAKE」の愛称で親しまれ始めています。日本全国の酒蔵が造る美味しい日本酒を国内外で紹介し交流会やイベントを催されているサケ・ラバーズ株式会社代表取締役の今西由紀さんは、会社員時代からの日本酒への愛が高じて起業された方です。日本の地方に点在する多くの酒蔵に足を運び、長い年月育まれてきた品質の高い日本酒を販売・紹介する今西さんに酒蔵の現状やそのサポート活動についてお聞きし、日本酒造りという事業を継続していく課題についても解説いただきました。
※日本酒造組合中央会より
目次
25年勤続会社員から起業家への転身
Z-EN――今西さんのご経歴を教えていただけますか。
今西由紀氏(以下、今西氏)――大学卒業後、NECに入社し、25年間、経理の業務をしていました。
社内に起業準備ができるシステムがあって、それを活用したので、退社する最後の1年間くらいは半分会社員、半分休みつつお給料をもらいながら起業の準備をするというコトをやっていました。
当時、神田の日本酒の小売店の仕入れのお手伝いをして酒蔵さんを紹介したり、お酒を仕入れたりするサポートをしていたんです。
その後、2018年1月に会社を設立しました。
人生は1回きり!やりたいことをやり続けようと、今6年目を走っているところです。
日本酒を愛する会社「サケ・ラバーズ株式会社」設立
「サケ・ラバーズ」という社名にしたのは、お酒が好きなのが一目で分かる名前にしたかったからです。
事業内容は、日本酒の輸出ニーズとインバウンド需要に応えるべく、英語での酒蔵・日本酒の紹介や、外国人向けの酒蔵ツアーの企画から添乗まで行っています。
また、2020年には、「サケ・コミュニケーション(株)」という、日本の方に日本酒を広く知っていただくための会社も立ち上げています。
「サケ・コミュニケーション」は、日本の飲食店などに日本酒を小売りしたり、酒蔵さんとの交流会やお酒の飲み比べ会などのイベントを開催したりする会社です。
2つの会社は日本酒という同じ軸を持っていますが、目線の異なる分野で事業展開しています。
起業を決意させた日本酒業界の衰退
――長く会社員をされていた今西さんが起業しようと決意されたきっかけは何ですか。
今西氏――もともとお酒が好きなんですが旅行も好きで、酒蔵巡りをする名目で地方のあちこちを旅していました。
さまざまな酒蔵さんとお話していくなかで、酒蔵がどんどん減っていたり、実際訪れたことのある酒蔵さんがなくなったりしているのを知って、日本酒を広める活動にお手伝いできたらいいなと思ったのが起業した一番大きな理由です。
――会社のサポートも助けとなったのでしょうが、会社員時代からしっかりとプランがあったのですね。
今西氏――起業の前準備という意味合いで「和酒会」という日本酒のコミュニティを立ち上げ、日本酒を起点にした異業種交流会のようなものを会社員時代から5~6年やっていました。
“酒蔵ツアー” リアルからオンラインへの転換
――日本酒を国内外に広めるという事業のなかで、コロナ禍は大変でしたね。
今西氏――本当に!
輸出がなくなり、国内でも交流会やイベントが一切できなくなって、インバウンドもなくなった。
非常に大きな打撃でした。
そんなすべてがダメな状況でしたが、オンラインでの酒蔵見学を割と早い段階でやり始めたのは良かったと思っています。
最初は小規模な内輪の会だったんですが、これは面白い!と、SNSや過去の酒蔵見学メンバーなどに声掛けしたところ、参加者が集まるようになりましたね。
――自社ブランド日本酒「令和酒(Reiwashu)」は新元号のお祝いにオリジナルで作られた日本酒だとか。国内だけでなく海外でも販売されて評価され、ジャパンタイムズに特集されましたね。
今西氏――この「令和酒」は、日本酒を飲んだことのない日本酒初心者でも飲みやすいものを造ろうというコンセプトのもと造った微発砲の日本酒です。
桃のほのかな香りがさわやかに感じられ、少し甘めのシャンパンのような日本酒で、アルコール度数も5%と低めに造っていますから、ワイングラスで乾杯するのにも使えます。
そういうところから入ってもらって、日本酒を飲む方が増えていけばいいなと思い発売しました。
――さまざまな取組によって日本酒を広める活動をされているなかで、依頼されるお仕事とはどのようなものなのでしょうか。
今西氏――コロナを機に仕事の内容が変わったというのはあるのですが、コロナ前は国内、海外かかわらず日本酒を介したイベントを多種多様にやっていることをPRしていましたので、日本酒に因んだイベント・交流会の依頼などが多くありました。
コロナ後は大きなイベントがなくなってしまったので、逆にオンラインで交流会や酒蔵見学をしてほしいという依頼が増えていきましたね。
これからはリアルなイベントも徐々に復活していくだろうと思っています。
――継続できるコツは何でしょうか。
今西氏――やっぱり、自分自身も楽しいからではないでしょうか。
日本酒のご縁で会話やお料理とのコラボが生まれ、それがビジネスに発展していくこともあります。
異なる業種の方々とも知り合って情報を得たり、質問したりしているので、いつもありがたいなと感謝しています。
▶今西さんは、日本酒と酒蔵への情熱でコロナ禍の苦境を乗り越えられたのですね。次のページでは、実際に行われているイベントをご紹介いただきます。