農業体験×食育×農家支援でESG経営に取り組む(前編)

情報とモノがあふれた今の時代、商品の差別化が難しくなりました。商品から個性が失われると消費者の多くは価格を基準に選ぶようになり、価格競争が激化します。特に、日本の果物などは価格面で外国産に太刀打ちできないため、農家はさまざまな課題に直面し存続の危機に陥っているのです。

今回お話を伺った、ファミリーツリー株式会社の代表取締役 安藤仁希さんは、そんな日本の果樹園が抱える経営課題が起業したきっかけだと話されています。生産環境と社会を調和させるESG経営を重視し、果物と人をつなぐ独自のサービスを生み出した、ご自身のキャリアに迫ります。

ファミリーツリー株式会社 代表取締役 安藤仁希さん

オーストラリアで見た大自然や農業が原体験に

――本日はありがとうございます。まずは、安藤さんのご経歴について教えてください。ファミリーツリーの起業前はSEO会社にいたと伺ったので、なぜ農業に着目したのか、とても気になります。

安藤 仁希氏(以下、安藤氏)――高校卒業後に大手自動車メーカー関連会社(部品工場)に就職し、物流生産管理の仕事を3年半ほどしました。その後、オーストラリアに7か月ほど滞在する機会があったんです。そのときに、現地の大自然や農業に魅了されてしまいました。自分で手間暇かけて育てたものを食べるというのは、かつては当たり前のことだったのかもしれませんが、日本で、特に都心で暮らしている私にとってとても新鮮な体験でした。都会には自然が少ないですし、作物を育てる機会もありません。実ったときの達成感や採れたての味わい、農業を通じての地域との交流など、農業でしか体験できないことがたくさんあるとオーストラリアで感じました。それで、自分でも農業を本格的にやりたくなってしまって。帰国後に浜松市の果樹園で働くことにしました。

――多くの人は、「ときどきする農業体験」で満足してしまうと思いますが、安藤さんはそうではなかったわけですね。実際に農家さんで働いてみて見えてきた光景というのもあったのでしょうか?

安藤氏――そうですね。働いてみて直面した果樹園農家の経営課題というのが、後の起業のきっかけになっています。例えば、年に1回しか収穫のチャンスがない果物を育てている場合、年に1回しかキャッシュポイントがないということです。

  • どうすれば安定した収益を上げられるのか?
  • どうすれば安定した雇用を生み出せるのか?
  • 売上を伸ばすために農地を広げるのか?
  • 生産効率を上げるにはどうすれば良いのか?

など、経営課題は数多くあります。直売でない限り、農家の方が価格を決められるわけではありませんから、多く出回る時期に出荷すれば単価は下がってしまいますし、台風や大雨など気候の影響を受けやすく収穫率を下げてしまう可能性も高いのです。自力ではどうしようもない課題もあり、限界を感じてしまう農家さんもいらっしゃいます。また、スーパーには外国産の安価な果物が並んでおり、安さでは太刀打ちできないほどです。そんな背景に加えて高齢化も重なり、果樹農家は年々減少。このままでは「美味しい国産の果物が食べられなくなるのではないか」という危機感を私は持っています。

このままでは国産の果物が絶滅してしまう…

――なるほど。その危機意識がファミリーツリー起業の源泉になったわけですね。

安藤氏――そうですね。国内の果樹園農家が減っていくということは、果物の国内生産量も減っていくということです。このまま美味しい国産の果物が食べられなくなって、子どもたちに「昔は日本でも果物を育てていたんだよ」と話すようになる未来は見たくありません。日本の果樹園農家の方々を守っていかないといけないと強く感じました。それで、なにか支援できる方法はないかと思い、マーケティングを学ぶためにウェブマーケティングの会社に入ったんです。どんなに良いものを育てても、広く知ってもらえなければ買ってもらえませんし、買ってもらえなければ農業として存続することができなくなります。ですから、やはりマーケティングの力は重要です。そこで学んだノウハウを活かして農家さんに貢献したいと思い、ファミリーツリーを2020年に設立しました。

農林水産省「食料需給表」より作成

スーパーでは、圧倒的に安い外国産の果物を買えるのですが、国産のものを食べてみると、やっぱり美味しいですし、できれば果樹園直送のものを食べてほしいんです。鮮度の違いを実感してもらえると思います。例えば、房からポロっと実が落ちるブドウはかなり傷んでいるブドウです。スーパーに並んでいるものは、正直そういうものも多いんですよ。果樹園の直売・直送であれば、新鮮ですからそういうことはありません。本当の美味しさを体験していただけると思います。

「農業や農家の現状を伝えること」「農家の方々が安心して栽培に取り組める環境をつくること」「農家を応援してくれるファンを増やすこと」に注力して、農業をもっと身近にすることが自分の使命だと感じています。

1年間1本の木のオーナーになれる「マイクロオーナーサービス」

――マイクロオーナーサービスという独自商品も特徴的で面白いですね。どんなサービスかご紹介ください。

安藤氏――マイクロオーナーサービスは、「果物+果樹園体験をまるごと味わえる」をコンセプトにしています。年2万5000円~で、みかんや柿、マンゴーなどの1本の木のマイクロオーナーに1年間なれるサービスです。期限が決まっているので、「マイクロオーナー」としています。マイクロオーナーになると、オーナーカードが発行され、農園の見学や収穫体験ができます。また、毎月成長レポートが届くので果樹の状況もわかります。日々の手入れは農家のプロが代行しますので、オーナーサイドで作業が必要になることはありません。収穫されると、20キロ程度の果物の他にジュースなどの加工品も届きます。ご友人などにプレゼントとして贈っていただくことも可能です。オーナー限定で年2~3回、肥料撒き、間引き作業、摘花、摘果などの体験イベントも企画しています。

ファミリーツリー社提供写真

――どんな方々がオーナーになっているのでしょうか?

安藤氏――小学校低学年のお子さんをお持ちのファミリー層の方々が多いですね。収穫時期になると、ご家族で遊びに来てくださいます。やはり、農業を通じて食育をしたいというニーズがありますし、アクティビティとして楽しんでいただくニーズも感じています。また、農園は広いですからお子さん以外にもワンちゃんを連れてお越しになる方もいらっしゃいますね。「ドッグランをつくってみようか」という話も農家の方としているところです。7割ほどは果樹園の周辺にお住まいの方ですが、都内や関西から来てくださるオーナーの方々もいらっしゃいます。

今後は、個人のオーナーだけでなく、企業にも展開していきたいと考えています。「ワーケーション」という言葉もありますが、オンライン会議が続いたり、外出が制限された都心での生活が続いたりすると、やはりストレスも溜まってしまいます。飲みに行ってストレス発散というのも以前のようにはできませんから、月に数日だけでもワーケーション的に果樹園で自然に触れていただくのもよいのではないでしょうか。IT系の企業など、自然と触れ合うことから遠い職種の方々にぜひ利用していただきたいですね。すでに大手企業の福利厚生としてご利用いただいている実績もありますから、今後はBtoBにも力を入れていきたいと考えています。

後編に続く…)

安藤仁希
ファミリーツリー株式会社 代表取締役

投稿者プロフィール
大手自動車メーカー関連会社に就職後、物流生産管理の業務に従事。
オーストラリアで出会った自然や農業に魅了され、帰国後は浜松市のみかん農園で働くように。
農園では、果樹園農家が直面するさまざまな経営課題を間近に感じ、農家支援を行うためにウェブマーケティング会社に就職してマーケティングノウハウを習得する。それらの経験とノウハウを活かし、「日本の農家を救い、国産の果物を次世代につなぐ」ためにファミリーツリー株式会社を設立。農業体験や食育、農家支援などの活動を通じて、環境(Environment)、社会(Social)などの問題に取り組んでいる。果樹園の木のオーナーになれる「マイクロオーナーサービス」を展開中。

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