日本酒を世界酒に!トレンドで終わらない日本酒と酒蔵の在り方を創る(後編)

日本酒をPRし、日本酒を活用したプロモーションやブランディング戦略の立案・企画を行うクロッシング株式会社の代表、畔柳伸くろやなぎしんさんは、唎酒師でもあります。前編では、日本全国の酒蔵、経営者たちの問題解決を支援されている現状についてお話しいただきました。畔柳さんは経営者の傍ら、デジタル・メディア「おいしい日本酒」を運営し、日本酒のある豊かな日常をテーマにしたブログや、日本酒、蔵元に関わるニュースやイベント情報などを発信していらっしゃいます。後編では、日本酒を国内外に広める取り組みや今後の抱負についてお話しくださいました。

出典:デジタル・メディア「おいしい日本酒」

地域に根差す酒蔵のストーリーを打ち立てる

――酒蔵ブランディングの好事例がありましたら教えてください。

酒蔵の経営者は地元の名士の場合が多く、何代にもわたって先祖の方々が地域に根差しているんですね。つまりそれぞれの酒蔵にストーリーが必ずあるんです。例えば、江戸時代に先祖が創業した時には地域でこんなことがあっただとか、祖父の代ではこんなことに貢献して感謝されただとか。そんな酒蔵の歴史の縦の繋がり、名士としての面の繋がりをブランディングに生かしてはどうか?と考えています。

出典:デジタル・メディア「おいしい日本酒」

官民協働での取り組みも

観光庁が企画・振興するプロジェクト「酒蔵ツーリズム」では、酒蔵を解放し酒蔵体験や日本酒をテーマにしたイベント、スタンプラリーなど、酒蔵を中心とした観光ツアーの取り組みが行われています。

また、新しい事例として、北海道十勝の帯広畜産大学の構内に、上川大雪酒蔵碧雲蔵へきうんぐら」が2020年に設立されました。十勝地方の酒蔵はすべて廃業していたことから40年ぶりの復活となり、地域創生に一役買っています。上川大雪酒蔵自体も、三重県にあった休眠蔵の日本酒造免許を北海道に移転して2017年に開設されました。企業と行政が一体となり、クラウドファンディングでの資金集めをするなど、革新的な取り組みをされています。

出典:上川大雪酒造「碧雲蔵」公式サイトより

食と日本酒の深い関係

――日本酒を中心として人やものが集まる構造ができているのですね!素晴らしいです!

もともと日本酒には「神様」「人を寄せる」という意味合いが濃いんです。日本人は米の一粒一粒に神が宿っていると教えられて、その米から作る日本酒にも神が宿り、そのおかげで造ることができると考えます。日本酒はまずは神様に捧げられ、次に人々が口にします。ちなみに、サケ、サクラなど、サは神を表します。神に捧げるサケ、神が座るクラがサクラです。春の訪れとともに豊作を願い、サクラを中心に車座になって集まり、神の宿る飲み物を飲みながら、「交信」=コミュニケーションをするんです。日本の豊かな食生活もそこから始まっていくんですね。

――世界に誇る「和食」と「日本酒」についても教えてください。

はい。私たちは日本酒と料理のそれぞれの良さを引き立てる組み合わせのことをペアリングと呼んでいます。ワインだとマリアージュなんていいますよね。日本酒はもともと食事に寄り添う、食事の邪魔をしないものなんです。タイプによっては食事の油を落とす効果をもたらすものもあります。日本酒は「料理を邪魔しない」脇役に徹することもできますし、「料理を引き立てて、酒も旨くなる」相乗効果もあるのです。あまり知られていないのが残念ですが、とても奥が深いんですね。

海外からも称賛を浴びる日本酒

――最近では海外でも日本酒が高く評価されているようですね。海外へ販路を見出す酒蔵も出てきていると聞きましたが、やはり輸出量は増えているのでしょうか?

そうですね。日本酒の課税売上高は総額4,000億円を超えるくらいです。実は大手ビール会社1社の売上よりも少ないのです。確かに、海外への輸出は11年連続で最高記録を更新して、241億円を突破して、増えていますが、それでもまだ全体の10%にも満たない程度です。

――日本酒の輸出は品質保持の面から難しいのですよね?

日本酒は熱に弱いですから、物流面は確かに課題です。ですが、最近では革新的な技術も生まれています。例えば真空状態にしたタンクでの輸送や、日本酒の状態をシャーベット状にするなどして、蔵から注いだままの「生酒」の品質を保ちながら海外に輸送することも技術的には可能になってきているんです。

ヨーロッパやアメリカへの酒蔵参入

――海外はどの辺りが狙い目なのですか?

香港、台湾、中国を中心としたアジア圏が伸長していて、ブランディングと言う観点ではヨーロッパに注目しています。輸出に関しては、酒蔵が製造業の免許と同じく輸出卸免許が交付されているので、ある程度の規模の酒蔵であれば、自分たちでやられていますね。

輸出数量がトップのアメリカは、海外での生産量がトップのエリアでもあります。日本から「獺祭だっさい」が進出されようとしていますが、宝、大関、月桂冠などの大手酒蔵が進出し現地生産を行っています。品質保持や輸送コスト、税金のことを考えると、海外で求める声が多いほど現地で造るという選択肢になりますね。日本以外では日本酒の製造免許が必要ありませんから。

出典:WAKAZE「KURA GRAND PARIS(クラ・グラン・パリ)」

フランスでは、カマルグという地域でとれた米をつかって、「醸し人九平次」で知られる愛知県の萬乗醸造が日本酒をリリースされたり、資金調達をして2019年から海外生産を開始したベンチャー酒蔵WAKAZEがパリに酒蔵を作ったりしています。また欧米以外でも、ベトナム、台湾、ニュージーランドなど、各国で現地生産は行われています。

――夢のある話ですね!

日本で酒造免許を取れなかったベンチャー企業が現地生産に乗り出すことで、小規模な酒造に対応する機械設備の輸出事業を行う会社も出てきています。

日本酒を日本人が作るのは当たり前ですが、海外の方が日本酒に目覚めて日本で修行をしたのちに、自国の小規模な研究室のような場所で「クラフトサケ」を一升瓶で100本程度造り、現地で販売しているようなケースもあります。若手醸造家がこのマイクロブリュワリーを次々に誕生させているのが、世界的に観た日本酒の新しい潮流です。

――そうなると、日本酒の飲み方も変化しますね。現地の人の好みに合わせた飲み方を提案してみるのはいかがでしょう。

それはいいですね。最近缶スパーリングが流行っていますから、そこに日本酒を載せてもいいかもしれませんね。日本酒カクテルなんかは人気になるんじゃないでしょうか。

TOKYO SAKE FESTIVAL」は2021年も開催予定

――日本酒を広める活動について教えてください。

昨年2020年8月に新宿都庁前の公開空地で、日本酒との出会いを演出することを目的に日本酒イベントを行い全国51蔵が参加しました。

「TOKYO SAKE FESTIVAL 2021」公式サイトより

2021年は101蔵200種類以上の出品酒を取り揃え、コロナ対策をしっかりと行いながら開催を予定しています。昨年同様海外の方の来場は難しいですが、ゆくゆくは国内外から日本酒を知って頂くための窓口としてこのイベントを継続できれば思っています。

2024年、日本酒がユネスコの無形文化財へ

――今後、日本酒の事業の展開について将来のビジョンなどありましたら教えてください。

究極的には自分たちの事業を大きくするということよりも、「日本酒を世界酒に!」することだと思っています。社名の由来でもある私たちの想いは、いろんなモノや人を掛け合わせることです。

例えば、日本酒に詳しい人同士が話をすれば、それだけ知識は深くなるけれど、日本酒を知らない人にも広く浅く知ってもらうきっかけ作りをしたい。日本酒とサムシング・ニューをクロスさせる広場を作りたいと思っています。まだあまり知られていませんが、2024年に日本酒がユネスコの無形文化財に登録されることを目指しています。そこに向けて政府も予算を投入し、日本酒を盛り上げる活動を行っていくはずです。

日本酒の需要が減り、酒蔵の廃業も増えるばかりというような暗いニュースが多いですが、これからの日本酒と酒蔵の未来は明るいと私は思っています。ワインが日本人の食習慣に根付いてきて日本でも作られるようになったように、日本酒が世界の食文化に根付き各国で日本酒造りが盛んに行われるようになると信じています。

畔柳伸
クロッシング株式会社 代表取締役社長

投稿者プロフィール
愛知県出身、青山学院大学史学科卒
サントリーグループ・CJプライムショッピング・パソナテックから、日本酒に特化したスタートアップ企業での勤務を経て、2020年8月より現職。
唎酒師として、国内外から注目され称賛を浴びる日本酒をテーマとし、「おいしい日本酒」の魅力を伝えるデジタル・メディア『おいしい日本酒』を運営。日本酒を醸(かも)す造り手と、飲み手、次世代のファンを繋ぐ役割を担う。

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