日本酒を世界酒に!トレンドで終わらない日本酒と酒蔵の在り方を創る(後編)

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海外からも称賛を浴びる日本酒

――最近では海外でも日本酒が高く評価されているようですね。海外へ販路を見出す酒蔵も出てきていると聞きましたが、やはり輸出量は増えているのでしょうか?

そうですね。
日本酒の課税売上高は総額4,000億円を超えるくらいです。
実は大手ビール会社1社の売上よりも少ないのです。
確かに、海外への輸出は11年連続で最高記録を更新して、241億円を突破し増えていますが、それでもまだ全体の10%にも満たない程度です。

――日本酒の輸出は品質保持の面から難しいのですよね?

日本酒は熱に弱いですから、物流面は確かに課題です。
ですが、最近では革新的な技術も生まれています。
例えば、真空状態にしたタンクでの輸送や、日本酒の状態をシャーベット状にするなどして蔵から注いだままの「生酒」の品質を保ちながら海外に輸送することも技術的には可能になってきているんです。

ヨーロッパやアメリカへの酒蔵参入

――海外はどの辺りが狙い目なのですか?

香港、台湾、中国を中心としたアジア圏が伸長していて、ブランディングという観点ではヨーロッパに注目しています。
輸出に関しては、製造業の免許と同じく輸出卸免許が酒蔵に交付されているので、ある程度の規模の酒蔵であれば自分たちでやられていますね。

輸出数量がトップのアメリカは、海外での日本酒生産量がトップのエリアでもあります。
日本から「獺祭だっさい」が進出されようとしていますが、宝、大関、月桂冠などの大手酒蔵が進出し現地生産を行っています。
品質保持や輸送コスト、税金のことを考えると、海外で求める声が多いほど現地で造るという選択肢になりますね。
日本以外では日本酒の製造免許が必要ありませんから。

出典:WAKAZE「KURA GRAND PARIS(クラ・グラン・パリ)」

フランスでは、カマルグという地域でとれた米をつかって、「醸し人九平次」で知られる愛知県の萬乗醸造が日本酒をリリースしていたり、資金調達をして2019年から海外生産を開始したベンチャー酒蔵WAKAZEがパリに酒蔵を作ったりしています。
また欧米以外でも、ベトナム、台湾、ニュージーランドなど、各国で現地生産は行われています。

――夢のある話ですね!

日本で酒造免許を取れなかったベンチャー企業が現地生産に乗り出すことで、小規模な酒造に対応する機械設備の輸出事業を行う会社も出てきています。
日本酒を日本人が作るのは当たり前ですが、海外の方が日本酒に目覚めて日本で修行をしたのちに、自国の小規模な研究室のような場所で「クラフトサケ」を一升瓶で100本程度造り、現地で販売しているようなケースもあります。
若手醸造家がこのマイクロブリュワリーを次々に誕生させているのが、世界的に観た日本酒の新しい潮流です。

――そうなると、日本酒の飲み方も変化しますね。現地の人の好みに合わせた飲み方を提案してみるのはいかがでしょう。

それはいいですね。
最近缶スパーリングが流行っていますから、そこに日本酒を載せてもいいかもしれませんね。
日本酒カクテルなんかは人気になるんじゃないでしょうか。

TOKYO SAKE FESTIVAL」は2021年も開催予定

――日本酒を広める活動について教えてください。

昨年2020年8月に新宿都庁前の公開空地で、日本酒との出会いを演出することを目的に日本酒イベントを行い、全国51蔵が参加しました。

「TOKYO SAKE FESTIVAL 2021」公式サイトより

2021年は101蔵200種類以上の出品酒を取り揃え、コロナ対策をしっかりと行いながら開催を予定しています。
昨年同様海外の方の来場は難しいですが、ゆくゆくは国内外から日本酒を知って頂くための窓口としてこのイベントを継続できればと思っています。

2024年、日本酒がユネスコの無形文化財へ

――今後、日本酒の事業の展開について将来のビジョンなどありましたら教えてください。

究極的には自分たちの事業を大きくするということよりも、「日本酒を世界酒に!」することだと思っています。
社名の由来でもある私たちの想いは、いろんなモノや人を掛け合わせることです。

例えば、日本酒に詳しい人同士が話をすれば、それだけ知識は深くなるけれど、日本酒を知らない人にも広く浅く知ってもらうきっかけ作りをしたい。
日本酒とサムシング・ニューをクロスさせる広場を作りたいと思っています。
まだあまり知られていませんが、2024年に日本酒がユネスコの無形文化財に登録されることを目指しています。
そこに向けて政府も予算を投入し、日本酒を盛り上げる活動を行っていくはずです。

日本酒の需要が減り、酒蔵の廃業も増えるばかりというような暗いニュースが多いですが、これからの日本酒と酒蔵の未来は明るいと私は思っています。
ワインが日本人の食習慣に根付いてきて日本でも作られるようになったように、日本酒が世界の食文化に根付き各国で日本酒造りが盛んに行われるようになると信じています。

本稿「日本酒を世界酒に!トレンドで終わらない日本酒と酒蔵の在り方を創る」の前編はこちらから

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畔柳伸
クロッシング株式会社 代表取締役社長

投稿者プロフィール
愛知県出身、青山学院大学史学科卒
サントリーグループ・CJプライムショッピング・パソナテックから、日本酒に特化したスタートアップ企業での勤務を経て、2020年8月より現職。
唎酒師として、国内外から注目され称賛を浴びる日本酒をテーマとし、「おいしい日本酒」の魅力を伝えるデジタル・メディア『おいしい日本酒』を運営。日本酒を醸(かも)す造り手と、飲み手、次世代のファンを繋ぐ役割を担う。

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