未来を生きる子どもたちには、経済事情や環境に関わらず学びの機会を得て、「自分の人生」を生きてほしいーー。
大学受験をめざす高校生たちに無料で学習支援を行うNPO法人「テラコヤ」は、代表の前田和真さんのそんな熱い思いから誕生しました。企業の空きスペースでの無料塾の展開や、実際のカフェ営業を通じたキャリア教育などに取り組んでいます。教員時代には昼夜問わずの熱血指導がゆえに完全燃焼してしまい挫折を経験された前田さんは、それでも「教育分野の先駆者になりたい」との想いで「現代版寺子屋」を立ち上げました。
企業や大人が、直接的に、間接的に教育を支援できることを教えてくださる前田さんの言葉と思いについて、ぜひお読みください。
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夕方以降の空きスペースを「塾」に
Z-EN――大学受験をめざす中学・高校生を対象に、無償で勉強をサポートする「カフェ塾テラコヤ」を開いていらっしゃいます。変わった名称ですが、取り組みについて詳しく教えてください。
前田和真氏(以下、前田氏)――無限の可能性を秘めているのに、家庭の経済事情などさまざまな要因から、望む学びの機会を持てずにいる中学・高校生を支援したいという気持ちから2020年4月に始めた取り組みです。
夕方以降の稼働率が下がったオフィススペースや定休日の飲食店をお借りし、ボランティアの大学生たちが勉強をサポートしています。
お腹が減る時間帯なので、お菓子などの軽食や飲み物も無料で食べ放題・飲み放題にしています。
現在の運営は都内5拠点。
中には、お借りするオフィスの社員の方がボランティアで勉強を見てくれたりします。
企業にとっても場所を提供することで、SDGsの取り組みを始めるきっかけになったり、社員のボランティア精神の醸成、人材採用などに役立ったりしているようです。
――空きスペースの有効活用であり、貸してくださる企業にもプラスの部分があるのですね。どんな生徒さんが集まっていますか。
前田氏――SNSでしか情報は発信していないので、勉強に対する高い志を持ち、自分で情報をキャッチした子どもたちが、来てくれています。
決まったカリキュラムはなく、講義形式でもないので、生徒たちの自学自習、自走力が頼り。
勉強を教えてくれるのは、取り組みに共感した東京大学や早稲田大学などの現役学生、元高校教員などで、進路相談などにも気軽に応じていますし、雑談も楽しんでいますね。
嬉しいことに1期生の高校3年生は全員大学に合格することができました。
継続する中で、高校生が提案してくれたことから、中学生の勉強などを高校生がサポートする「テラコヤ中等部」も活動しています。
大学受験で「結果を勝ち取る達成感」を実感
――ところで、ご自身はどんな学生時代を過ごしたのですか。
前田氏――高校から始めた野球部ではキャプテンを務め、軽音楽部でボーカルをするなど、とても楽しい高校生活を送っていたのですが、楽し過ぎて勉強がおろそかになっていました。
進路相談でも志望大学に受かる確率は3万分の1と言われたのですが、その言葉への反骨精神だったのか(笑)必死に勉強して合格を勝ち取りました。
努力して結果を勝ち取る達成感や素晴らしさを実感したのは、この時ですね。
卒業後は、楽しかった高校時代を懐かしんだのか、都心の私立高校で国語教師の職に就くことになります。
――教員生活でのご経験がいまの仕事に活かされているのですね!
前田氏――最初はそんな大きな志を持っていたわけではなかったのですが、担任する生徒の学年が上がるうちに愛着が湧くとともに、「いい進路に導かなければ!」と、責任感も増していきました。
最後は元旦とお盆と大晦日を休んだだけ、朝7時から夜11時まで熱血指導するまでになっていました。
生徒たちもよくついて来てくれ、結果的に希望進路に進めた生徒は多かったです。
でも、体力も精神力も削って生徒たちを卒業に送り出すと、燃え尽き症候群に陥ってしまって。
そんな時、同僚との「教員って同じサイクルの繰り返しだよね」という会話に共感し、この生活を何度も繰り返すのは無理だと感じて辞めました。
▶空きスペースの提供を受け、中学・高校生の勉強を無償でサポートする取り組みを始めた前田さんは、以前、“熱血先生”だったことが明らかになりました。その熱血指導で燃え尽きてしまうものの、次に選んだ道もやはり教育に関わることでした。