第6回目/専門家活用術を身に付けよ(最終回)

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日本M&Aアドバイザー協会の大原達朗会長による解説、スモールM&A、個人M&Aに取り組むうえでの12のポイントのうち、前回は第5回目「経営者が自ら動く」をお届けしました。今回は最終回「専門家活用術を身に付けよ」です。

本記事は、大原氏がYouTubeで配信する「【1時間で学ぶ 】2020年 スモールM&A現実と成功のための12のポイント」を編集したものです。

交渉を弁護士に任せるべきなのか。

~ポイント9~

弁護士はリスク管理のプロ

M&Aの交渉代理人として、弁護士は適任だと思います。ただし、弁護士はリスク管理の専門家ですから、ポテンシャル、ビジネスの可能性を伸ばすことと利益相反となる可能性が生じます。このあたりの調整が得意な弁護士は報酬が高額。一般的には、弁護士からリスクに関する意見を聞ご自身で相手と条件をすり合わせ、落としどころを探りながらバランスをとって交渉を進めていくのが良いでしょう。

アドバイザーは交渉のプロ

これらのことは通常、アドバイザーがやることです。弁護士にも取引交渉には関わってもらいますが、弁護士は顧問先の利益だけを考えるのが使命ですから、相手にとってはデメリット。そこで、アドバイザーが自身の業務として、お互いの主張をバランスよく調整して、交渉を前に進めていくのです。

ただし、依頼するコストもかかりますから、ご自身で交渉や調整をするというのも一つの方法です。当事者同士の交渉でもめてしまった場合にのみ弁護士を入れて解決策を探っていくという交渉の仕方もあります。

適材適所でサポートを受ける

いずれにしても、当事者自身で交渉していける力や情報を持つことは大切です。その上でアドバイザーを上手く使う、一部だけ弁護士に出てもらう等のやり方をしていかないと、コストは膨大にかかってしまいます。大事な場面は優秀なアドバイザーにやってもらい、弁護士からもサポートを受けるのがM&Aの王道です。しかし、コストを掛けられないケースの多い、個人・スモールM&Aでは、交渉や交渉の管理について知識を付け自分たちで専門家の代替をしていかなければなりません。トータルの管理を怠ると、M&A自体ができなくなってしまうので注意しましょう。

資金調達は金融機関の本業

~ポイント10~

買収資金の調達は金融機関の本業ですから、任せていいと思います。また、金融機関でもM&Aのアドバイザリー業務をやっています。金融機関は融資先の情報を、その企業の内部者の次に持っていると考えられ、融資先同士のM&Aでは最強です。対象企業もM&Aと同時に資金融資が受けられ、大変有利です。ただし、融資先にやり過ぎると、優越的地位の濫用として監督される可能性が生じ、ジレンマになっています。

ただし、金融機関は、融資先以外の企業M&Aとなると弱くなります。それでも、業績のよい会社に貸し倒れの可能性もある業績の悪化した融資先を買収してもらえれば、買い手側の保証や親子ローンも期待できて、自分たちの回収可能性も高くなることからマッチング先を探します。金融機関からの案件紹介には、このような事情があることを理解しておくことも大事です。

コンプライアンス、遵法な手続きこそプロに委託すべき

~ポイント11~

契約書の作成・レビュー、投機、各種手続きなど、法に則った手続きは、その道のプロに任せるべきです。たとえアドバイザリー契約をフルパックでしていても、アドバイザーもこれらはやりません。要望があればドラフトは作りますが、不動産の変更が伴ったり、役員が変更したりする場合などは、ドラフトの最終チェックを弁護士に任せます。これが契約書のレビューですが、登記に関するものや、その他、許認可に関する手続き諸々は、司法書士を筆頭に各々のプロに私たちも委託します。ですから、アドバイザーの使い方はいろいろあるとしても、ミスを避ける意味で、これらの手続きはプロに任せるべきだと思います。

情報の価値を理解すべき

~ポイント12~

公的支援の活用

情報の価値を理解していただきたいと思っています。タダより高いものはないとよく言われますが、事業承継に関しては、官の無償サービスである、引継ぎ支援センターが非常に有効です。昨年1年間だけで1,000件近く案件をこなし、M&A市場への貢献度が大きい。このような公的支援を活用するのも一つの方法です。

ただし、タダには限界があります。M&A案件が10倍、100倍と増えていく時に、国がその資金・予算を持ち続けることはできないからです。よって、情報にはある程度、お金を出すべきだと私は思っています。

成功報酬の本当の意味を知ろう

成功報酬が成り立つのは、成功するのが難しい話だからです。確度が低いので、売買が成立したら報酬をもらう仕組みなので、アドバイザーは、成功報酬をもらうまでは、途中でもいつでもやめられます。また、成功報酬でやる業務には、優先順位が必要です。完全成功報酬型の案件を同時進行で複数件抱える場合、高く売れる、または早く売れる、そして、その可能性が高いところを優先してやらざるを得ないのです。

相談できる人を作っておこう

アドバイザー側はこのように考えていますので、本当の意味で自分たちのために動いてもらいたいのであれば、着手金を払うのも一つの方法です。これも情報の価値を認めることの一つでしょう。できるプロに依頼するにはお金がかかります。だからこそ、会社を売る・買うとはどういうことか、何をしなければいけないのか、わからないことを相談できる相手を作っておくことが大事です。

今のM&A業界の一番の問題は、優良な売り案件が少ないことです。優良な売り案件を持っているところは、報酬がとれます。希少価値が高いのですから、あたり前のことでしょう。自分で動かなければコスト高になると理解して、情報を集め、欲しい会社の具体的なイメージを持つこと、この会社が欲しいと個別具体的にリストを作る、そこのキーパーソンにどのようにしたらコンタクトがとれるのかを考える、といったことをしていく必要があると思います。M&Aのアドバイザリー会社も積極的にアプローチしています。ですから、皆さんもただ待つのではなく、主体的に動き情報を得たらM&Aの知識を備えて相談できるネットワークを作っていくことが重要です。

【著書】
この1冊でわかる!M&A実務のプロセスとポイント
サラリーマンが小さな会社の買収に挑んだ8カ月間

出典:【1時間で学ぶ 】2020年 スモールM&A現実と成功のための12のポイント
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。

シリーズ『スモールM&Aを成功させたいあなたに』はこちらからご覧ください。

大原達朗
日本M&Aアドバイザー協会代表理事
アルテパートナーズ㈱代表取締役
アルテ監査法人代表社員
公認会計士

投稿者プロフィール
青山監査法人プライスウオーターハウスに入社し、大手一部上場企業を含む国内街の会計監査、IPO支援コンサルティング、買収監査(デューデリジェンス)等を担当
2004年大原公認会計士事務所を開業独立
インドネシアPT.SAKURA MITRA PERDANAを立ち上げ、実業家として国際的に活躍。会計監査、M&A、IPO、PMI、DDなどファイナンス・アカウンティングの領域で23年の経験を持つ

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