「ヒットは狙っても当たらない」──チョロQを生んだ佐藤氏が語る、ものづくりと経営のリアル
- 2026/2/5
- インタビュー

『リカちゃん人形』『チョロQ』──。日本の玩具史に名を刻むヒット商品の裏側には、常に“当たるかわからない”決断がありました。タカラ(現タカラトミー)創業者の長男として生まれ、自らも取締役・社長を経験した佐藤博久氏は、これら人気商品のほか、『トランスフォーマー』シリーズの日本市場への導入に貢献された人物です。多角的な視点から、経営、承継、そして人生そのものについて、率直な言葉で語っていただきました。
目次
創業家の長男として「最初からこの業界でやる!」
Z-EN――佐藤さんは、「リカちゃん人形」や「チョロQ」などのヒット商品を生み出した玩具メーカー「タカラ(現タカラトミー)」の創業者のご子息でいらっしゃいますね。ご自身もタカラで取締役に就かれていますが、社会人になってすぐに入社されたのですか。
佐藤博久氏(以下、佐藤氏)――創業家の子どもの多くは、大学卒業後、代理店などで経験を積むことが多いですが、僕はどうせやるんだったら最初からこの業界に入ろうと思っていました。
でも、暑いところは嫌だと言ったら、北海道に行くことになって、1年くらい修行し戻ってからビジネススクールに行って、タカラに入社しました。
「チョロQ」誕生秘話
――タカラに入社されてから取締役になられるまでの間は、どのような事業をやっていらっしゃったんですか。
佐藤氏――僕が入ったのはまだ上場していない時で、1番最初に手掛けたのが「チョロQ」です。
1980年に発売し、多くの子どもさんに愛された商品です。

――みんなたくさん持っていました!
佐藤氏――40万ダースの在庫があったので、「チョロQ」だけの事業部を作りました。
当時、立ち上げたばかりの月刊「コロコロコミック」と組んで、初めて漫画化して世に送り出した商品です。
それまで売れてきたほとんどのヒット商品は、テレビで宣伝したもので、キャラクターものが売れる時代でしたので、なぜ「チョロQ」が爆発的に売れたのかと、皆が不思議がっていましたね。
キャラクター人気にあやかってもダメなものはダメ。
売れるものは売れると知って、結局おもちゃって、やってみないと何が売れるかはわからないと強く感じました。
テレビCM全盛期に起きた異例のヒット
――佐藤さんは、世界的にも人気の「トランスフォーマー」シリーズを日本で展開された時期に事業部を任されていらしたのですね。
佐藤氏――『トランスフォーマー』のルーツは、日本国内でタカラから発売されていた『ダイアクロン』や『ミクロチェンジ』シリーズにさかのぼります。
これらの玩具をアメリカの企業が新たな設定を加えて『トランスフォーマー』として販売し、それをタカラが1985年に逆輸入したもの。
当初、8~13億円だった売上を37億円まで伸ばしました。
――それはすごいですね。売り上げを予想する際にどのように見込まれるのでしょう。
佐藤氏――おもちゃ業界は、年間3,000アイテムくらいを作ります。
そんななか、どんなことがあっても黒字にできる経営体制を求められると、当然売り上げを大きくは見込めない。
商品1アイテムに、最低売価×1万倍の投資が必要だからです。
実際、売れるかどうかわかるのは1年半後で、回収できない、時期も遅いとなると、手の打ちようがなくなるような業態です。
これまで、テレビキャラクターを商品化することでヒット商品を出してきた業界なので、テレビ番組が終われば打ち切ることもできる。
でも、持ち込みのアイデアをオリジナルで作った『たまごっち』は、人気があったものの止める時期が定まらないので、400万個ほどの在庫を抱えたこともあります。
モノづくりの難しさでもありますね。
38歳で社長就任、43歳で退任──赤字と承継のリアル
――タカラの2代目の代表取締役を辞められたのには理由があったのでしょうか。
佐藤氏――タカラが初めて赤字に転落した年に父が社長を退き、僕が38歳で社長になりました。
その5年後、会長になっていた父が、また自分で社長をやりたいと言ったんです。
父が目標に掲げていたのは、「1000億円規模の売上」
一方、社長だった僕は、現実的に売上300~500億円で利益を出していく方が妥当だと考えていましたので、経営スタイルが違ったんですね。
でも、元々は父が作った会社ですし、本人がまたやりたいというのだから、自分が辞めればいいかと思いました。
うちの父みたいに、もう自分は経営できないと思った時に退く経営者はいるけれど、やはり身内に承継させたい。
2回目の社長を退くとき父は、僕の弟である次男を社長に据えました。
タカラ退任後のキャリア──“着うた”を生んだものづくりの本能
――おもちゃ業界の隅々を見てこられた佐藤さんがタカラを退任された後、どのようなことをやってこられたのでしょうか。
佐藤氏――タカラを辞めてからは、株式会社セガの執行役員や株式会社エムティアイの取締役副社長、株式会社ミュージック・ドット・ジェイピー代表取締役社長などをしてきました。
ミュージック・ドット・ジェーピーでは、“着うた”というジャンルを作ったので、そういうものづくりは基本的に楽しいと感じてやってきましたね。
現在は、創業社長を中心にコンサルや顧問業に専念しています。
社長という立場は、60歳くらいには退いた方がいいと思いますが、実際、オーナー社長は後継者の問題が片付くまでは辞められない。
だから、ずーっと現役で社長をやっている人が多いですし、その子どもにしても、後を継ぐかどうかの選択を一度はしなければならない。
家族内の問題にも発展する、難しい問題ですね。
「人生にゴールはない」70歳でたどり着いた決断の哲学

僕は今年70歳なんですね。
43歳でタカラを辞めていろいろやってきて気づいたのは、人生にはゴールと言えるものがないということ。
だから、結局、今日やりたいことは今日やる。
それに尽きると思っています。
経営に限らず、人には当然、浮き沈みがあります。
良くない状況でも、ここが1番底だと分かれば、あとは上がっていくだけなのに、実際は途中でもがくから、いろいろ問題が複雑になっていく。
自分ができることをシンプルにやっていくというのも大事です。
他の人の辞書にあって自分の辞書にないこと、例えば、他人の「悩み」なども分かりようがない。
3日後に決めることは、迷ったとしてもあまり差がないのなら、悩んで考える時間がもったいないと思うんです。
――なるほど。佐藤さんのコンサルを受ける経営者の方々は、そういうアドバイスを受けていらっしゃるんですね。
佐藤氏――1つのことを決めたら、次に行けるじゃないですか。
それが違っていたら反対に戻ってもいいし、またさらにその時に決め直してもいいと思えれば、時間の無駄を省くことができます。
社長に必要なのは覚悟だけ──中小企業経営の本質

――中小企業の経営者に必要な資質、考え方とはどのようなものだとお考えですか。
佐藤氏――僕がタカラの社長をやっている時に、1番最初に手を上げてやったのは、新卒の採用です。
新卒で入社した社員は誰に採用されたかを絶対に忘れないですし、経営とは「人を育てること」だと思うからです。
多くの場合、中小企業は、優秀な人材を採用したいが、実際はなかなかいない。
いたとしても、中途の人材は、入った会社のいいところに惹かれたのに、入社後は、今の会社の悪いところを別の会社と比べて値踏みしています。
つまり、自分が社長でいる間に優秀な人材を育てたいと思うなら、新卒の採用に力を入れるべきなんですね。
社長である以上、何かを誰かがやってくれると思うのは間違いです。
全部自分でやる覚悟があるなら、真摯にアドバイスをしますけど、結局決めるのは社長自身。
負うリスクも大きいですが、それが嫌だったら、社長は辞めた方がいいと思います。
若い経営者こそライバル──人と会い続ける理由
――若い経営者の方々とのお付き合いも幅広いとお聞きしましたが、彼らにはどのようなコンサルや支援をされていますか。
佐藤氏――僕はモノに執着しない、すごい現実主義です。
でも、自分の時間をより多く使うのは、人と会うことです。
そこだけはずっと大事だと考えていて、特に、若い人たちと会って話すことが面白いと感じています。

自分も経営者の1人として、ライバルは若い経営者たちだと思うようにしています。
年齢に関係なく、新しいことに挑戦していく若い人たちを意識することは大事な視点ですね。
僕は、バブルの前も後も知っているので、そういう経験や実績を周囲の若い人が吸収して伸びていってくれると、嬉しいです。
僕に関心を持ってくれる人は支援したいと思いますし、短期的にでも僕のアドバイスで助かる経営者がいるんだったら、金銭的なことを度外視して応援する気持ちもあります。
再生支援を「やる人」を見つける
――Z-ENは、事業投資がテーマのメディアですが、革新的なことや新しいアイデアで商品をヒットさせてきた佐藤さんは、沈んでしまったものを再生する、立ち行かなくなったところをまた盛り上げるといったこともやられますか。
佐藤氏――再生させようとする人を見つけるのが僕の役割ですね。
事業の業績が悪くなった原因にもよりますが、ある程度自分が理解できている領域で、自分がやれば立て直せるところであれば関わってもいいと思えます。
日本人は、損得の「得」という言葉を使いたがらない。
でも僕は社員に、「今まで君らが得をする手配しかしたことないと思うが、そうじゃないと思うなら、今この場で手を上げて言ってほしい。後から言うのはやめてくれ」と言ったんです。
企業の再生に限らず、たとえ1社員だったとしても、提案したことに何も答えない場合は賛成したことになるから、君たちにも責任があると、トップは教えなければいけないですね。
――経営をしてみたい方へのアドバイスなどありますでしょうか。
佐藤氏――起業するなどして経営をやってみたい人は、1度はやってみた方がいいですね。
問題は、お金が必要かどうかということです。
何の経験もない、資金を出す人もいないのならば、今、1番いいのはクラウドファンディング。
支援を求める人の覚悟がよく分かり、前売りみたいなものですから。
その意味では、今は経営者になる良い土壌がいろいろ用意されていると思いますし、それを活用しない手はないと感じますね。
――ヒット商品を生み出しながら経営の浮き沈みも経験されてきた佐藤さん。迷うくらいなら決めて進む。違ったなら戻ればいい。そのシンプルで厳しい哲学こそが、ものづくりと経営を生き抜く答えなのだと感じました。とても楽しいお話ありがとうございました。














