地方創生・地域密着型のビジネス、成功のコツ

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地方創生、地域活性化において、官民様々な取り組みが行われていますが、持続可能性という視点でみるとまだまだ成功事例は少ないように感じます。今回は、2008年に国内初となる地域密着型のプロサイクル(自転車)ロードレースチームの初代GM・監督に就任し、スポーツイベントを軸に地域活性化を行っている馬場隆司さんにお話をお聞きします。

システムエンジニア48才からの転身

Z-EN――自転車業界に入ったきっかけは何でしたか。
馬場隆司氏(以下、馬場氏)――サイクリングの趣味が高じて、自転車競技団体の運営をサポートしていたのがきっかけです。
週末にボランティアスタッフとして関与していました。
その時に宇都宮出身の選手から、地元でJリーグのような地域密着型のプロチームを立ち上げたいとの相談を受け、サポートしていたのですが、気づいたら会社を登記して社長兼GM、時に監督にもなっていました(笑)。

――前職は大手企業でしたよね。不安はありませんでしたか。
馬場氏――元々、独立志向はあったのですが、情報システム部門に在籍していたので転勤もなく、報酬も含め会社に特段の不満もなく過ごしていました。
もちろん、妻は不安だったと思いますが、いつかは自分で事業をやるだろうと覚悟していたようですし、期は熟したと自然な流れで独立を決意しました。

宇都宮BLITZEN設立会見

出典:シクロワイアードニュースより

地域密着型のプロサイクリングチームの発足

――それが、成功モデルと言われる「宇都宮ブリッツェン」ですね。資金調達などはどのようにされたのですか。

馬場氏――他のスポーツ種目と同様に、それまで日本の自転車ロードレースチームは、自転車メーカーの企業内活動だけでした。
そのため、運営会社の経営方針が変わればチームが撤退・解散に追い込まれ、突然消滅してしまう。
応援しているファンとしてはたまったものではありません。

これを避けるために、企業ありきではなく地域ありきのチームを第一義として、主に地元の企業や団体から小口でも大歓迎の資金調達を幅広く行うようにしたのです。
一社独占の企業チームではなく、地域の多くの支援者やファンが資金面と精神面で支えるチームを設立当初から目指しました。

――言うは易く、実行は大変ですよね。具体的にどのようにされたのですか。

馬場氏――地域経済学を参考にしながら、企業・地域ネットワークが集積して経済効果を生み出すような「クラスター戦略」を検討しました。
具体的には、中小企業の社長でも、無理なく協賛頂ける金額の範囲で「ひと口スポンサー」をお願いし、同時に個人のサポーター制度もつくりました。

効果のあった活動施策としては、選手が小中学校に出向いて行う「自転車安全教室」ですね。
警察・自治体がこれまで行ってきた教室と異なり、交通法規だけでなく、自転車の乗車技術を高めて危険を回避するという内容です。
一本橋や簡単なスラローム走行などゲーム性のあるカリキュラムが中心なうえ、鍛えられたプロ選手が指導してくれるので、生徒たちは大喜びでしたね。

就任会会見

出典:シクロワイアードニュースより

自転車安全教室は、これまでのべ5万人(2019年時点)が受講したと聞いています。
この活動は選手のPRになると同時に、生徒はもちろん、親御さんたちにもファンが増えていく絶好の機会となり、選手の意識が徐々に高揚する相乗効果を生んだのです。
ロードレースは市街地で公道を使用して開催することもあるのですが、こうした地道な活動によって警察の信頼も得られるようになり、レース開催も円滑にいくようになりました。

スポンサーを募る際も、協賛「金額」以上に参加「数」にこだわりました。
祝賀会などスポンサーを交えてのイベントでは、地域を想う経営者が沢山集うため、自然と話が盛り上がり、ビジネスチャンスへ繋がる親密な交流ができた気がします。
協賛社数が多くなれば、自ずと地元の大手企業や地域行政からも注目されるようになり、徐々にチーム運営もビジネスとしても軌道に乗りました。

「輪業」から「林業」へ

――そういえば「林業」も手掛けていますよね。

馬場氏――「輪業」セミナーと間違えて「林業」セミナーに参加したのがきっかけです(笑)。
林業だけでなく、山林活用全般と関わっていますね。
ロードバイクには山坂をひたすら登り続ける「ヒルクライム」という競技があり、そこに参加する中で自然と森に触れる機会が増えたことも大きいでしょう。

日本の森林率は約7割と高く、国土の約2/3が森林という世界でもトップクラスの森林大国です。
しかしながら、産業としての林業は衰退し、林業従事者数はわずか4万5千人(2015年国勢調査)。
その結果、手が入らない山は荒廃が進み、さらに水源を目的とした海外資本に山を買われているのが現状です。

そんな情報を耳にするたび、日本の本来の美しい森の姿を守りたいと思うようになったのが山林との関わりのスタートです。

――どのような切り口で林業を支援しているのですか。

馬場氏――日本には奈良吉野地方などに見られる「長伐期択伐施業」という林業手法があります。
これは山を資産として孫子の代まで受け継げるよう、一代の事業で伐り尽くしてしまわず、伐る木と残す木を選択し、長い時間をかけ山を育てていくやりかたです。

この手法には、山を荒らさず、壊さず、丁寧に手を入れていくことが求められ、その結果として、川や海の保全にも繋がっているのだと思っています。
具体的には、この環境保全型の持続可能な林業手法を広めている自伐型林業推進協会というNPO法人の趣旨と活動に賛同して協力しています。

――いわゆる小規模林業ですよね。ビジネスとして成立するのでしょうか。

馬場氏――ビジネスとして成立するか、難しい質問ですね。やり方による、とも言えますが、林業自体が資本主義的な指標にそぐわない事業だというのがネックになっています。
その理由は「時間軸」にあり、そもそも、1年という会計年度で評価できるものではないからです。
3年、5年あるいは10年といったスパンの中長期的な結果に評価基準を当てはめていく必要があり、その間に山の営み方を見誤る危険性すらあります。

と言っていても始まらないので、継続と将来投資のための破綻しない収益モデルの確立を前提として、経済合理性だけで語るべきでない森林の持つ環境・健康への貢献度や、木質バイオマス利用による地域内循環エネルギー利用等を含めた林業を核とした複合的な森林活用という考え方を広めていきたいです。

地方創生、地域活性化の本質

――今後の抱負と、地域が活性化するコツについて教えて下さい。

馬場氏――そうですね、今後の抱負と言っても、私も決して若くはなく、あと何年動けるのか分かりませんので、大層なことは言えませんが、日本中の森林を活性化させたいですね(十分、大言壮語ですね。自己ツッコミ)(笑)。
今、私が関わっている皆さんとは、幸いにも価値観が近く、また熱い使命感を持っている方たちばかりなので、そうした同志とでもいうべき方々と面白がりながら、色んな活動をしていけたらと思っています。

私なりの地域活性のコツは、主役は地元の方、というスタンスを忘れないことでしょうか。
そして、その地域の良いことは良い、悪いことは悪いと正直に話して、その地域ならではのやり方、スタイルを提案することを心がけています。
時に不快な思いをさせることもあるかもしれませんが、よそ者の強みで臆することなく客観評価し意見を交わす、そこからスタートして初めて、地方にありがちな有名観光地や都心の模倣、二番煎じ主義から脱却できるものと信じています。

馬場 隆司

投稿者プロフィール
1959年10月20日生まれ
地域振興&森林活性活動家&サイクルスポーツ・プロデューサー

株式会社UNITED SPORTS 代表取締役、地域活性化企画会社(株)THE CO取締役、財)日本スポーツ協会 公認スポーツ指導者、損害保険会社のシステムエンジニアを経て独立。
プロ自転車チーム「宇都宮ブリッツェン」設立 初代社長兼GM
一社)全日本実業団自転車競技連盟 連盟本部長兼事務局長

現在は、日本各地での森林活用による分散型地域エネルギーシステムの導入と、スポーツコミュニティの普及に注力。

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