敷地に価値なし、エリアに価値あり(前編)

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目まぐるしい時流の変化のなか、“まち”を取り巻く環境も大きく変化しています。「リノベーションまちづくり」を提唱し、都市・地域経営の課題を解決する第一人者である、株式会社アフタヌーンソサエティの清水義次さんに、“今ある資源”を活用して、低コスト・低リスクさらにスピーディに“まち”に事業を生み出し、エリア全体を盛り上げる仕組みについて、お話を伺いました。

清水義次氏のオフィスにて  Z-EN撮影

“まち”のリノベーションとは資源すべてを活かすこと

Z-EN――清水さんのまちづくりは「今ある資源」の活用を大切にされていると伺いました。具体的にどのような資源のことを指すのですか?

清水義次氏(以下、清水氏)――“まち”のリノベーションというと、どんなことをイメージしますか?
空き家などの遊休不動産をテナントや人で埋めて活用することをイメージされる方も多いと思いますがそこにとどまらず、地域には、人的資源や歴史的資源、産業資源など、探せば沢山の資源があります。
それらを余すことなく活用すれば、低コスト・低リスク、かつスピーディに事業を生み出し育てることができると考え、それを大切にまちづくりをしています。

子ども時代のまち探検が原点

――清水さんが、まちづくりに関わるようになったきっかけはどのようなことだったのですか?

清水氏――私は子どもの頃からまち歩きが大好きだったんですよ。
元々、出身は野山ばかりの田舎なんですが、ある時甲府のまちに引っ越しまして。
まちって面白いなぁと自転車でふらふら探検していました。

背が高かったので大人のふりをして、色々なところに潜り込んでいましたね。
社会風俗にとても興味を持っていたんです。
それが原点ですね。

大学を卒業してから、マーケディングコンサルとして、上場企業を相手に新規事業の立上げ支援をしていました。
入社時はわからなかったのですが、偶然にも、私の大好きな社会風俗観察が大いに生かせる仕事だったのです。
面白みを感じて17年続けましたが、コンサルの仕事は、支援先の事業が上手くいかなくても文句言われるくらいでリスクもない。
リアリティがないことが歯がゆかったのでしょう。

実業をやろうという私の言葉に、当時のボスは、「コンサルタントや評論家の立場だった人が実際のビジネスをやってうまくいったのを見たことがない。絶対うまくいかないからやめろ」と言って止めましたね。
なおさら闘志が湧いて、自分は実業をやろう!と決心して独立したんです。

ピンチはチャンス!銀行の不良債権を生かしてのスタート

――独立はどのような形でされたんですか?

清水氏――当時はバブル崩壊直後の1992年。
なんでこんな時期に独立するのか?なんて人には言われましたよ(笑)

でも、ピンチはチャンス。
南青山交差点からすぐの4軒を暫定利用で格安で借りられましてね。
銀行の不良債権で、こんな時期でもないと借りられない物件。
リノベーションして、そのうちのM字型のなんとも面白い建物を事務所に構えてスタートしました。

民間の力でエリアにインパクトを!

――事務所以外の3軒では何をされていたのですか?

清水氏――かねてからやりたかった飲食店にしました。
半年の暫定利用だから都度更新をしていくんですけどね。
スパニッシュバルやワインレストランなど。
これが当たりまして、近所にその店を中心に25軒くらいの店が集まりました。

駐車場と野良猫だらけだった風景は3年で一変したのです。
これが、民間の力でエリアにインパクトを与えることができると実感させてくれた体験です。

コンストラクション・マネージメントの重要さ

――その後事業の方向性はどのように考えられたのですか。

清水氏――それからは、やりたかったことは全部やってみようという精神で、建築やまちづくりのプロデューサーを主な仕事として継続しています。
ただ、それをやるために建築費をどうコントロールするのか分からないといけないのですが、建築には何重にもブラックボックスがあって、原価や利益がどれくらいなのか不透明で全然分からないんですよ。
本当の原価と適正な利益があるんじゃないか?という疑問が湧き、であれば、合理的な組み立て方を考えようと思いました。

アメリカではコンストラクション・マネージメントというノウハウは体系化されていますが、日本には今もまだありません。
実際に住宅は割高な買い物をさせられています。
建築には様々な経費があり、労賃、建材、その他諸々の経費など根底の部分を考えて、これを適正な利益から逆算して導き出します。

全体の工程・工期を把握し圧縮すればトータルコストがものすごく下がるので、実際に、適正利益をとったとしても従来の住宅施工費用からみて3割は安くなります。
このノウハウは、その後の建築のプロジェクト・マネジメントを引き受ける時に大いに役に立ちました。
結果、建物の空き家、空きビル、空き店舗をスピーディに変えていけるようになったんです。
これが、その後のリノベーションまちづくりに繋がっていきます。

▶次のページでは、表参道の再開発に見る、清水さん流エリアづくりについて、詳しく伺います。

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清水義次
株式会社アフタヌーンソサエティ 代表取締役
建築・都市・地域再生プロデューサー

投稿者プロフィール
東京大学工学部都市工学科卒業後、教養学部アメリカ科学士入学
アフタヌーンソサエティを設立
建築・都市・地域再生、家守事業等のプロデュースを手がける。千代田区神田、新宿区歌舞伎町で現代版家守によるまちづくりを実践。その後、北九州市小倉魚町でリノベーションまちづくりの指針となるエリアヴィジョンづくりやまちを変えるエンジンとなるリノベーションスクールの仕組みを構築する。以降、全国の仲間とともに縮退時代に適合したまちづくり、人々の健康で幸せな暮らしを支える地域づくりを行っている。
♦︎株式会社リノベリング代表取締役
♦︎一般社団法人公民連携事業機構代表理事

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