職人技を伝承する老舗企業を承継!経営理念を貫くための変革とは(前編)
- 2022/2/14
- インタビュー
目次
社内変革の第一歩
地球益という考え方
――公益資本主義ですか。どのようなお考えで、どうして心打たれたのか教えてください。
大塚氏――従来の欧米型の資本主義をあえて言うならば「金融資本主義」でしょう。
ゼロサムが象徴するように格差を生んでしまうような仕組みのなかで、儲かればとか、自分だけがという思いが強い考え方であると思います。
また、その他の国などでは国家資本主義的な考え方もあるでしょうが、これらの対極にあるのが公益資本主義という考え方です。
もともと日本には「三方良し※1」「和を以て貴しとなす※2」「吾唯知足※3」などの精神があり、企業は世の中のお困りごとを解決するために存在し、仲間や地域を大切にする「利他の精神」に溢れていたと思います。
それこそが、王道経営なのではないかという考え方、社業を通じて世の中のお困りごとを解決し、社員や仕入れ先、地域へと利益・幸せの分配をするという考え方が公益資本主義であると思っております。
※1 売り手と買い手双方が満足し、さらに社会貢献もできるのがよい商売であるということ
※2 何事もみんなが仲良くやり、いさかいを起こさないのが良いということ
※3 分相応に満ち足りた気持ちを持つことが大事ということ
大久保会長のお話のなかの「地球益」という考え方によって、私のなかの霧が晴れました。
私のなかにいちばん重くのしかかっていたのは、未来の子どもたちが泣いたり、苦労したりしている姿を思い描きたくないということ。
将来、苦しい環境に置かれる子どもたちを何とかして救いたいという願望が強かったのですが、地球益という発想によって、社中分配の大切さと社業を通じて世の中に貢献することの大切さを、私の想いと合致させることができたのです。
また、その社業である「ろ過布の製造」を通じて、地球上でもっとも重要な資源のひとつである水を守ることもできる。
そう考えながら、会長の話を何度も繰り返し聞いて、頭の中に叩き込んで実践するのみと考え、会長の後を追いかけて全国の講演会を聴きに行きました。
――社内の反応はいかがでしたか。
大塚氏――社内では、「社長が変な宗教にはまっている」という評判が広まってしまいました(笑)
もちろんそんなことはありませんから、学んだことを管理職の人たちに投げかけてみたところ、たとえば朝礼ひとつとっても、やり方が変わり、社内の意識が変化してきたのです。
もっとも、職人さんのなかには、「俺たちがやりたかったことと雰囲気が違う」ということで反発する人も出てきました。
しかし、時間が経つにつれて少しずつ組織が変わってきたのです。
そして、さまざまな組織改革を打ち出し、その都度いろいろな意見が出てくるものの、半年も経つと徐々に変化しているのが感じられました。
社員も反発するだけでなく、「こうしたほうがいいんじゃないか」などと提案するようになり、前向きに考えられるようになってきたのだと思います。
内発的動機の醸成
――現在の経営理念は、公益資本主義の考えを通じて作られたものですか?公益資本主義が会社に浸透したことで、会社や社員はどのように変わりましたか。
大塚氏――弊社の経営理念は、以下です。
家族・共に働く仲間、顧客・仕入先・地域社会等、全ての関わり合える人々の幸福を笑顔を創造する。
そのために、社業を通じて、人と事業の可能性を探求し、自然と環境を護る。
これを未来へ継承する。
この理念が浸透してきて、いちばん大きく変化したことは、社員が損得勘定で動かなくなったことです。
もともと職人気質の社員が多く良いものをつくりたいという意識が高かったのですが、それに加えて自分たちが持っている技、技術を世の中に役立て、伝承していきたいという想いが強くなっていったようです。
それによって、いままでは「ここまでできれば十分だ」と自分たちで限界をつくっていたものが、「もう少しできるかもしれない」と、一歩でも半歩でも先に進もうとするマインドに変化しその思いが強くなっているのだと思います。
この続きは、後編「経営者こそがワクワクして、従業員の輝く場を提供しよう」でお届けします。お楽しみに。