ととのいラボ~手術治療の最前線!肺がん治療のエキスパートから学ぶ
- 2025/4/16
- 事業投資

事業投資ラボの分科会の1つ「ととのいラボ」が、2025年3月6日に東京都港区三田の弘法寺にて行われました。今回は、広島大学病院呼吸器外科教授の岡田守人氏をお招きし、肺がん治療と最新の手術法についてお話いただきました。世界的なスーパードクターとして数々のメディアでも紹介されている岡田教授は、常に患者さんのことを第一に考えた治療を実践され、高い技術だけでなく患者さんにとっての最適解を模索し続けていらっしゃる肺がん治療の第一人者です。非常に気さくにお話くださった岡田教授のお話から、私たちが考えるべき健康についてのヒントを得る機会となりました。
※今回、岡田教授がお話くださった内容を抜粋して、以下にお届けします。
肺区域切除術の第一人者

広島大学腫瘍外科の岡田守人教授
私は、広島大学の腫瘍外科の診療科に勤務する医師です。
腫瘍とはがんのことで、がんの手術が専門です。
通常多くの外科医は、世界一の外科医になりたい、すなわち、手術の技術を極めたい、といったところを目指します。
私も目標をよく聞かれますが、私は技術だけではちょっと嫌だなと思っています。
すなわち、手術が上手なだけじゃなく、その理論、サイエンスがかなり重要だと思っています。
まず、このサイエンスの部分の話として、私のライフワークである「肺区域切除術」が、1つのキーワードです。
この肺区域切除術の教科書を書いて2011年に出版し、その英訳を2013年に出しています。
これが今、世界中で非常に売れているんですが、出版時は、出版することが大事だと思ったので、売れたときの印税が入ってくるという契約はしなかったです。
でも、世界の書店に並ぶように発売したので、最近は、世界の標準になって、世界中で売れまくっています。
また、昨年2024年、心臓外科と呼吸器科共有の教科書で、30年前の初版本を、全面改定第4版として、私に「肺区域切除術」の執筆依頼がありました。
これは、日本を含むアジアでは唯一施設として執筆しています。
ハードカバーで1300ページ、価格はおよそ6~7万円という分厚い本です。
これは、10数年前の教科書をアップデートした内容で、大体13ページぐらいにイラストや写真ととともに記載されています。
こういうのがエビデンスとして大事だと私は思っています。
肺がんについて
ここからは手術についてお話したいと思います。
肺がんは、がんによる死亡の中ではトップなんですね。
がんの罹患率、すなわち、がんになる確率では、男性は1位が前立腺がんで2位が肺がん、女性は1位が乳がんで2位が肺がんです。
罹患率では圧倒的に1位と2位の差がついているんですが、がんで亡くなる方を見ますと、男女ともに1位と2位がひっくり返り、圧倒的に肺がんが多い。
さらに、前立腺がんや乳がんは悪性度が低いがんだと言われる一方、肺がんは、1度なってしまうと完治が難しい悪性度の高いがんです。
欧米を始め日本でも、がんの研究などにおいても圧倒的に肺がんへの注目度が高い。
肺は基本的にピンク色ですが、喫煙される方の肺は真っ黒です。
肺がんの原因は喫煙、タバコが圧倒的に高い。
ほんとうにタバコはいいことは一切ないですし、心筋梗塞や動脈硬化にも相当影響しますので、やめていただいた方がいい。
肺は、右は3つ、左に2つ、上中下と肺葉が分かれています。
肺がんの手術は、私が医師になった30数年前に比べ何が進歩したかというと、いかに患者さんに優しい手術、低侵襲の手術ができるようになったかという点です。
手術の種類や中身が変わったわけではない。
では、この肺がんの手術の進歩という観点から、アプローチと肺実質について説明します。
胸腔鏡手術

岡田教授提供資料より
アプローチの代表的なものは「胸腔鏡手術」です。
外面的に明らかなのは、傷が小さく、ろっ骨・筋肉を切らないこと。
その結果、痛みが少ない、入院期間が短い、社会復帰が早いという効果があります。
昔は、30cmぐらい胸を切り開き肋骨を切って金属の開胸器を肋間に無理やり入れて開けるので、ゴルフをする方は半年ぐらいフルスイングができなかったですね。
現在のハイブリッド胸腔鏡手術では、皮膚の切開創は大体4 cmぐらいと1cmぐらいの穴の2か所です。
ですから、今は術後1か月でフルスイングができます。
手術の際は、動脈、静脈、気管支を切って、絶対破れない袋に入れ、小さい傷から摘出します。
すなわち、体内で切り取った腫瘍を取り出すのに必要最低限の傷を開けるという手法です。
1時間半ほどの手術で出血量は20ccくらい。
ドレーンという細い管が翌日には抜けて3日後には退院することができます。
さらに今は、手術支援ロボットも導入しています。
これが世界の標準手術になった区域切除術です。
小型の肺がんについては、これまでより小さく区域単位で切除することで、肺機能を残しがんを根治にもっていくことがポイントになります。
▶次のページでは、胸腔鏡手術による低侵襲が肺実質にもたらす効果や、それが認められ胸腔鏡手術が世界標準となった経緯など、岡田教授のライフワークである肺区域切除術についてより深くお話しいただきます。