「第三者承継(M&A)」に国も本腰!施策の有効活用で事業に変革を
- 2021/7/19
- M&A
2019年12月に政府は「今後10年で60万者の第三者承継」(M&A)を目指すと宣言しました。M&Aを推進する施策が矢継ぎ早に出されています。その中でも、注目の施策について、中小企業診断士でM&Aアドバイザーの白石直之さんに、いくつか取り上げてご紹介いただきます。
目次
M&A買取り資金の7割が損金算入?
【経営資源集約化税制】
これまで、M&Aで取得した「株式」は経費算入できないのが原則でした。
しかし、2020年12月の税制改正で経営力向上計画の認定をうけることで、取得代金の70%を上限として、当該年度に損金算入できることが閣議決定されました。
この「経営資源集約化税制※1」は、長年、M&A業界にいる者にとっては驚きの内容です。
ただし、何事もなく順調に推移した場合には、5年目以降に益金計上しなくてはいけないという制度です。
M&Aは失敗が多いため、買手が資金を投じてM&Aすることに二の足を踏むのは当然のことです。
特にこれから増加する再生型ではより顕著になるでしょう。
その不安を税制面から後押してくれるこの制度は、リスクを負う側にとっては魅力的な制度です。
※1 経済産業省「令和3年度(2021年度)経済産業関係 税制改正について」27頁以下参照
専門家費用の2/3を国が補填してくれる?
【事業承継・引継ぎ補助金】
以前の記事で、過去のM&A実施企業者向けの補助金をご紹介しましたが、今回は、専門家費用に対しての補助金です。
事業承継・M&Aに関係する「専門家費用」は高額なケースが多いのが実態です。
特に中小零細企業にとっては、その費用を支払えないケースが多々あります。
この「事業承継・引継ぎ補助金※2」制度は、一定の要件を満たせば、400万円を上限として専門家に支払う費用を支給されるものです。
廃業を伴うケースにおいては、上乗せ額200万円を限度として加算もあります。
ただし募集期間が1カ月程度と短く、事前準備も必要となります。
タイミングがあえば、是非活用したい制度です。
令和3年(2022年実施)も予算に組み込まれていますから、中小企業庁のHPを時々確認してみてください。
※2 中小企業庁HPより参照
跡取り候補の紹介制度?
【後継者人材バンク】
中小零細企業にとって、必ずしも引き継げる先が見つかるとは限りません。
そこで注目されつつあるのが「起業希望者」と「後継者不在の事業者」を引き合わせる「後継者人材バンク」です。
起業希望者にとってもゼロから立ち上げるよりはリスクが少なく発想としてはすばらしいのですが、まだ知名度も低く普及はこれからでしょう。
地域におけるIターン、Uターンの推進と、上記のような税制、補助金活用などの認知拡大が一体となり普及する制度です。
地域経済の活性化につながる施策であるため、今後に期待されるところです。
急増する事業承継問題に対応する形で、事業承継・引継ぎのワンストップ支援を行う機関として、「事業承継・引継ぎ支援センター」が、2021年4月に47都道府県でオープンしました。
これまで第三者による事業引継ぎを支援してきた「事業引継ぎ支援センター」と、親族内承継を主に支援してきた「事業承継ネットワーク」の機能を統合したものです。
事業承継・引継ぎに係る課題解決に向け、専門家による助言や情報提供のほか、マッチング支援も行っています。
たとえば、新潟においては、(公財)にいがた産業創造機構に設置された「新潟県事業承継・引継ぎ支援センター」が、「後継者人材バンク」の問合せ窓口となっています。
国が第三者承継対策に大判振る舞いの理由
今年度、大きな話題となった大型補助金「事業再構築補助金」もM&Aを促す施策として捉えられています。
実際、筆者に最初に問合せがあった方々はM&Aに慣れている投資家達でした。
M&A後の追加投資、事業転換に使えると考えたからです。
今回紹介した以外にも、登録免許税の軽減、設備関連費用の減税、補助金、給与増額した場合の一部税額控除など、事業承継・M&Aに関連する施策が矢継ぎ早に出されています。その理由はなぜでしょうか。
後継者問題は、人口動態などから長らく指摘されてきました。
中途半端な施策・掛け声では効果がなく、地域経済の衰退に歯止めがかからないことがコロナの影響もあり浮彫になってきたためです。
この局面を国、自治体、民間で協力して乗り越えようというのがその主旨だと思います。
特効薬などない難しい分野です。
経営者にも、それを支援する方々にも、国の施策を有効活用できるよう意識・知識・スキルのレベルアップが求められています。