黒字倒産回避策!スタートアップからキャッシュフローを生み出す経営をしよう
- 2021/4/23
- 経営全般
企業が倒産する原因には様々ありますが、「倒産」とは“企業が債務の支払不能に陥ったり、経済活動を続けることが困難になったりする状態を指す”と定義されています。そのなかでも、売上がぐんぐん伸びているような帳簿上は黒字の会社が、当事者である経営者もよく把握できないうちに倒産してしまうことがたびたび起こります。世にいう「黒字倒産」です。
この黒字倒産を回避するためには、キャッシュフローを生み出す経営が重要だとお話しくださるのは、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士の岡野貴幸氏。黒字倒産が起こるからくりとキャッシュフロー経営を実践するための仕組みづくりについて解説してくださいます。
黒字倒産はなぜ起きる?
企業は赤字であってもすぐに倒産するわけではありません。しかしその一方で「黒字倒産」という言葉があるように、黒字の企業も資金ショートすれば倒産します。利益は計上され黒字が出ているにも関わらず、運転資金や手元に残していた資金が枯渇したため倒産する、それが黒字倒産です。
黒字倒産を検証
損益計算書とキャッシュフローのずれ
経営状況を確認する際、損益計算書で利益を意識する社長は多くいます。しかし、損益計算書とキャッシュフローではずれが生じるため、損益計算書だけでは経営の実態を把握しきれません。
たとえば、借入金の返済です。借入金の返済は元本部分の返済と利息がありますが、このうち元本部分の返済は損益計算上費用にはなりません。これは借りたお金を返しているだけであるため費用にはならないわけです。つまり、損益計算上生じた黒字の利益部分から返済を行わなければならないのです。
下記のようなケースで見るとわかりやすいでしょう。上段の損益計算書では利益が出ているので健全経営のように見えますが、実際は、下段のキャッシュフローがマイナスになっているという状態です。
【1】借入金返済のケース
損益計算書:売上100-経費90=利益10
キャッシュフロー:売上100-経費90-借入金の元本返済20=△10
在庫は資産?
仕入があるビジネスも注意が必要です。物を仕入れた時点でお金の支払いが生じるケースでは、物はまだ売れていないので在庫として資産を保有していることになります。つまりこれも損益計算書では費用になりませんが、キャッシュフローはマイナスとなるわけです。
在庫という資産を持っているのだから悪いことではないと思うかもしれませんが、過剰在庫はキャッシュフローを悪化させる要因です。在庫はできるだけ持たないようにしなければなりません。
正確に売れる量を考え、適正な在庫を保有するようにする、もしくは売れることが分かってから仕入を行うようにするといった工夫をしましょう。損益計算書と貸借対照表、キャッシュフローの関係を表すと下記となります。
【2】在庫を抱えたケース
損益計算書:売上100-経費90=利益10
貸借対照表:在庫(資産)20
キャッシュフロー:売上100-経費90-商品の仕入20=△10
【1】と【2】のケースは損益計算書とキャッシュフローのずれが生じる典型例です。それぐらい簡単だ、分かっている、と思われる方も多いでしょうが、実際のビジネスではこれらが複雑に絡みあってきます。特に在庫の管理、把握は、どの会社も苦労するところです。
支払サイトを適正に
黒字倒産しないためには、支払サイトも重要となってきます。物の仕入れを行う際、購入した時点で物は先に届きます。支払が3か月先となっている場合、物は届いているのでそれを加工、販売できる状態になっていますが、キャッシュフローがマイナスとなるのは3か月先です。
その結果、損益計算書と貸借対照表、キャッシュフローの関係を表すと下記のようになります。上の仕入を行った後にすぐに支払を行っているケース【2】と比較してみて下さい。
【3】買掛金があるケース
損益計算書:売上100-経費90=利益10
貸借対照表:在庫(資産)20、買掛金(負債)20
キャッシュフロー:売上100-経費90=10
【1】【2】【3】いずれも一見、損益計算書では同じ利益に見えますが、キャッシュフローがマイナスとなるかプラスとなるかの違いが生じます。キャッシュフローの数値が黒字倒産を招くか否かの指針になることを覚えておくとよいでしょう。
さらに会社は事業を継続しているのですから、その間に販売を行えば売上が計上されますし、お金が先に入金されればキャッシュフローのプラスが前倒しで増加するかもしれません。入金になる債権(売掛金等)の回収はなるべく早く、出金となる債務(買掛金等)の支払いはなるべく遅くと言われるのはこのためです。
キャッシュフローを生み出していく仕組みをつくろう
利益の水準が同じぐらいであっても、入金サイトが早く、支払サイトが遅いという状態になっていればその仕組みを持続することで企業は体力を保持することができ、結果、キャッシュフローを生み出せないでいる他社を引き離すほどの大きな差となっていきます。
これを突き詰めて行っているのが、世界的なEコマースの会社であるAmazonです。Amazonは商品の仕入代金の支払いを行う前に、売上の代金を回収している状態を作り上げていることが数字にも表れています。また、Amazonの財務戦略はとにかく「フリーキャッシュフローの最大化」となっています。
では、どのようにそれを行っているのでしょうか。それについては次の機会にご説明したいと思います。
世界的な大企業も取り組んでいるキャッシュフロー経営ですが、スタートアップの企業ほど取り組むことによる効果が期待できます。また、入金や支払のタイミングは後から変えようと思っても難しいので、最初から意識して取り組んでいくことが重要です。成長する過程の中で、借入金に頼ることなくキャッシュフローを生み出していく仕組みを構築していきましょう。
出典:黒字倒産しない「キャッシュフロー経営」の重要性とは
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。