会社も従業員も幸せになる労働分配率の最適バランスを知る
- 2021/9/24
- 経営全般
自社はどれほど人件費がかかっているのか、他社と比較した時に適正な水準となっているのか、また本来あるべき適正な水準を知りたいと思ったことのある経営者は多いのではないでしょうか。そのような時に役に立つ労働分配率について、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が解説しています。
労働分配率を計算してみよう
労働分配率とは、企業が営業活動によって得た利益のうち、どれだけ労働者に還元されたかを示す割合のことです。しかし、これだけでは良く分からないので、実際の計算式を見てみましょう。
労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100 |
付加価値とは、会社が新たに生み出した価値のことで、例えば、100円で商品を仕入れて300円で販売した場合、200円がそれにあたります。計算方法は控除法と加算法の2種類です。
控除法:付加価値 = 売上高 – 外部購入価額 |
加算法:付加価値 = 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子 +当期純利益 |
控除法で見た時、売上高から外部購入価額を引いて算出するので、損益計算上の売上総利益と同じ金額となります。そのため売上総利益の金額を用いると簡単に算出できます。
また、人件費は法定福利費などの間接的な人件費も含めて考えます。例えば下記のような項目となります。
- 役員報酬
- 給与
- 賞与
- 退職金
- 法定福利費(社会保険料・労働保険料)
- 福利厚生費
- 研修教育費
上記集計した金額の合計を、売上総利益で割ることで労働分配率は算出できます。
適正な労働分配率について
労働分配率は何パーセントが適正かというような数字はありません。業種によっても異なりますし、会社が成長段階にあるのか、安定状態にあるのかによっても異なってきます。そのため、同業他社と比較しながら適正な水準を見ていくことになります。
労働分配率を業種別で見る時に役立つ数字として、経済産業省が公表している下記のようなデータ1)があります。
業種 | 労働分配率(平成29年度) |
ソフトウェア業 | 58.9 % |
出版業 | 67.6 % |
衣服・身の回り品卸売業 | 54.0 % |
飲食料品小売業 | 53.0 % |
飲食サービス業 | 64.0 % |
生活関連サービス業、娯楽業 | 45.2 % |
業種によってバラつきがあり、人件費をかけなければならない労働集約型の産業に関しては労働分配率が高いことが分かります。
労働分配率を同業他社と比較した場合、より低いほうが経営効率が良く利益率が高い会社となるため、労働分配率はできるだけ低くしようと考えがちです。しかし、低すぎると人件費に十分な額が配分されていないこととなり、従業員のモチベーションが上がらず、生産性も上がらない。その結果、離職者が増えて優秀な人材を失い、企業が衰退する原因となりかねません。
自社の労働分配率の適正値を検討する際には、同業他社を参考にしながらも、自社内の効率性や従業員への影響などを考慮してバランスを図ることが重要となるのです。
現場でのユニークな運用事例
労働分配率を、支給する給与だけで調整するには自ずと限界があります。一旦上げてしまった給与は簡単に下げることはできません。では、中小企業の現場ではどのように運用しているのでしょうか。
コロナ前ではありますが、従業員50名程度のレンタカー会社では、毎年3回に分けて全社員の海外旅行を実施していました。当然ながらコミュニケーションの強化となり、離職率がとても低い良い社風を感じます。
また、ワ―ケーションの普及に伴い、リゾートホテル、キャンプ場、旅館などでの仕事が推奨されるなか、その費用を一部負担する企業も増えてきました。上記の全社員の海外旅行よりはハードルが低く、すぐに実現できそうです。自宅でのリモート業務だけだと、精神的に参ってしまうこともあり、気分転換による効率化も見込めると聞きます。
また、変わったところでは、結婚相談所の入会金を負担する会社もあります。社長に、仕事の充実は家庭の支えが必要との認識があるため、職場結婚も減り、独身者が増えてきたことを懸念しての策です。既に、この制度で所帯を持った社員が数名いるようで、社員の生活まで配慮する温かみのある社風が感じ取れます。
農業支援というキーワードで、棚田を購入して社員が田植えを手伝うことや、果樹園に投資をして収穫をサポートするなど、環境に優しい企業であることをPRしているケースもあります。これには、採用効果もあるそうです。
いずれも、給与や賞与で支給するより現金支出を抑えられ、それぞれのモチベーションアップや離職率の低下にも寄与しています。このような施策は企業文化や社風を関係者に知らしめる良い機会となりますので、労働分配率という議論を超え、社員と企業、お互いにメリットがあるのは間違いありません。
1) 経済産業省:平成30年企業活動基本調査速報 付表7より抜粋
出典:適正な労働分配率とは
この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。